オレの名はタキ。キタノ・スクエアビルの地下四階で情報屋をやっている。一階にはピザ屋の物件も持ってるが、あれは実際オレの本業のカモフラージュで、ただの遊びだ。オレの本業は情報屋。そしてテンサイ級のハッカー。この街はネオサイタマ――混沌渦巻くこの場所で、オレはサヴァイヴし続ける。 1
2022-12-31 22:33:54テクノロジーの過激な新陳代謝と欲望の渦。半日前にアイサツした相手が、夜にはコンクリートよりも冷たくなって発見される。蛍光ネオンの眩しい光に包まれれば、人は目が眩んじまう。気をつけな。敗者はスシよりも美味い餌なんだ……この街の闇は生きてるぜ。時にそれは……ニンジャなんだ。 2
2022-12-31 22:37:44そう、オレはタキ。誰よりも油断なき、スペシャルなローグ・スター。100万オムロの男。オレのタイピングが生み出す価値はソウカイヤすらも振り向かす。そんなオレだが……この日はマジで、朝からトラブルの連続だった。仕事を納めなきゃならないッてのにな。アンタが誰かは知らねえが、聞いてくれや。3
2022-12-31 22:42:08特別企画【ニンジャスレイヤーVS年越し締め切り探偵ザザ】 ※親愛なる読者の皆さん:このエピソードは特別編であり、本編との時系列の関係はよくわからず、保証しません
2022-12-31 22:43:362022。液晶モニタにはオレを責めるような険悪なフォントが輝き、電源ノイズの周波数すらも不躾に急き立てるようだ。「タキ=サン。依頼した例の件、今日中の筈だが」「タキ=サン。本当にクライアントが怒ってしまいますよ」「タキ=サン。あまりナメるようだと、暴力するかもしれません」「金返せ」 4
2022-12-31 22:46:56「ファック!ファックファック&ファック!ファックファーック!ファッキングファック!ファックオブファッキングファックス!」オレは地下四階の薄暗い空間で大声を出し、読み上げ音声をかき消した。そしてエッチ・ピンナップの下に締まってあったリボルバーを掴み、景気よくぶっ放した。BLAMN! 5
2022-12-31 22:49:27「ピガーッ!」モニタが火を噴き、忌々しい2022の数字が消えた。ざまあみろ。だいたい2022は何の数字だ?不穏だぜ。仕事をシメるっていうのはどういう事だろうな。それからギリギリになって見積依頼とかデータ作成の仕事を投げてくる奴だ。今日中に頼むみたいな空気を出しやがる。年末の午後とかに。 6
2022-12-31 22:54:16カネになるかどうかもわからねえ事を駆け込みで投げてくる奴に限って、ヒイヒイ言いながらドキュメントをまとめて送り返すと、返事がねえ。エマージェント風の空気を出してやらせるだけやらせて、ケツをまくって休みに入っちまうもんさ。アンタもナメられるなよ。ガツンとカマせ。オレみてえにな。 7
2022-12-31 23:00:07オレはデータを電子重箱に詰めてネットワークに投げ込んだ。そしてIRCを鬼電した。「モシモシ?モシモシ、ウォンギ=サン?今データ送りましたよ?ウォンギ=サン?応答無いんですか?ウォンギ=サン?アンタの居場所わからないとでも?オレは情報屋ですよ?この年末年始、楽しくなりますよ?」 8
2022-12-31 23:03:31オレのタイピング速度は究極に加速する。右手でウォンギ=サンに催促メッセージを打ちながら、左手ではオレからの依頼をタマバタ=サンに打つ。「タキです。相当急ぎの統計grepを一件頼みます。詳細はデータを添付したのでご対応願います。相当急いでます。どうかお願いします」よし、送信だ。 9
2022-12-31 23:07:56「さあて、これでオレも仕事が締まったか」煙を噴いているUNIXモニタにかろうじて映るデータ・フロウを横目で見ながら、オレはパワードリンクの缶に残ったヌルい液体を飲み干し、強張った腰をセルフ・マッサージした。「我ながらよくやったぜ。とりあえず年越しパーティーやってるところ探すか」 10
2022-12-31 23:10:53オレは無傷のサブ・モニタを睨み、慎重に情報を入力する。キタノ・スクエアの近く……いや、せっかくだから離れた場所がいい。華やかで……ホットなチック達が沢山遊んでる場所。テンサイ級ハッカーのマルチタスク能力の見せ所だ。遊ぶ時は全力で遊ぶ……それがイノベーションに繋がるんだぜ。 11
2022-12-31 23:14:32何、ノビドメ2ndの「夜ナイト夜」でバニーオイランパーティー?そんなのホットすぎる。それからバーズ・ストリートの地下クラブ「めろん菜」ではメロン・コスプレ・ナイト?むちゃくちゃな事が起こっちまうじゃねえか。新年七色泡ナイト?ネオサイタマの風紀はどうなってやがる。たまらねえぜ。 12
2022-12-31 23:18:54とりあえずオレはそれらの情報をひとまとめにして端末に投げ込み、ふわふわローンに今夜パーッと遊ぶ当座のキャッシュをコールした。電子的審査を経て、オレのウォレットに即入金だ。「キャバアーン!」キャバアーン音も頼もしい。オレはズボンのチャックを締めて立ち上がろうとした。 13
2022-12-31 23:23:01「……?」その時だ。サブモニタに左手が中指、右手がキツネ・サインした最ファック電子イメージが映し出された。差出人はさっき依頼を投げたタマバタ=サンだ。早い!?「親愛なるファッキング・タキ=サン。依頼のデータを急ぎ纏めた。そこで惨めに年越しファックしてろ」「何だと!?マジか?」 14
2022-12-31 23:26:07オレは反射的に添付のファイルを開いてしまった。即座にデータが溢れ出し、オレのUNIXに吸い込まれる。「ア……ア!?」「無茶な依頼の報酬はキャッシュオンだ」タマバタ=サンの電子アバターが低い声で言い放った。オレは訝しんだ。「キャッシュオン?それって?」キャバアーン!オレの残高が! 15
2022-12-31 23:28:45たった今ふわふわローンで用立てたキャッシュ残高が見る見るうちに減り始めた。「何が起きた!?ハッキングか!?」違う!テンサイのオレはドラムロールじみて減少していくキャッシュ残高を見ながら理解する。テキトーに投げた急ぎの発注書の裏書の穴をつかれた。即決済オプションが活きていた。 16
2022-12-31 23:32:23タマバタの統計grepはちゃんとした仕事だった。信じられない速度でやり遂げやがった。それはいいが、オレの口座にキャッシュが生まれた瞬間に即決済オプションがマズかった。普段なら残高不足のエラーが出てデータが開けなかっただろう。通っちまった。「ダムシット!」BLAMN!サブモニタ破壊! 17
2022-12-31 23:36:30オレはリボルバーをガン・スピンしながら青ざめた。ちょっと待てよ。キャッシュがなくなったら年越しのパーティーに遊びに行くこと自体、できなくなっちまうじゃねえか。他の即金ローンを探さねえと。年末じゃ動いてる業者を探すだけでも一苦労……年明けの時間も迫る……!「アーッ!ヤバイ!」 18
2022-12-31 23:39:40「ザザザピー」その時だった。煙を噴くメイン・モニタに不明瞭な輪郭が揺らめき、スピーカーから艶っぽい声が流れてきたじゃねえか。「大丈夫よ、タキ=サン」「え?」オレは目を擦り、モニタに顔を近づけた。画面いっぱいに映っていたのは、ホットなカーウォッシュ・オイランの全身像だった。 19
2022-12-31 23:41:53「あれ?カーウォッシュ・ジャンルのコンテンツにアクセスしたっけな?」オレは訝しんだ。「違うわよ、タキ=サン」ホットなベイブはモニタ越しにオレを見てウインクした。「ウチのサービスなら今から無担保無利子でお金が貸せるし、一番ホットなカーウォッシュ・パーティーにも招待できるわ」 20
2022-12-31 23:43:53「それなら問題は全部解決じゃねえか!」オレはイキり立った。そして咳払いし、襟元を正した。「ンンッ……プロをナメないでくれ給え。アンタのとこがどんな業者かもわからねえし、少し調べる時間を……」「アーン。今すぐ融資を受けないとチャンスは無くなるのよ」ベイブはオレに手を伸ばした。 21
2022-12-31 23:46:15「え?どうして?」「独自の審査システムでお金を貸せるの」「いや、どうして画面のキミがオレに触れるんだい……」「今って双方向テクノロジーが発達しているじゃない、こういう事は簡単なの。ソフトウェアベースで仮想的に実現しているのよ」「マ?」「マよ」ベイブはオレを抱きしめた。 22
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