望月衣塑子氏の「当たり前の事がわからない大人ばかり」のツイートを踏まえ、武内和人氏による戦争がどのように発生するのか、そのメカニズムについて政治学をあまり知らない方に向けて解説

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武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

このツイートがTwitterで少し話題になっているようなので、この機会に戦争がどのように発生するのか、そのメカニズムについて政治学をあまり知らない方に向けて解説しようと思います。かなり長いスレッドになると思いますが、戦争のリスクについて自分なりに考えてみたい方はご一読ください。1/ twitter.com/ISOKO_MOCHIZUK…

2023-01-29 21:59:34
望月衣塑子 @ISOKO_MOCHIZUKI

なぜ、こんな当たり前の事がわからない大人ばかりなのか 故・加藤周一さん 「戦争の準備をすれば、戦争になる確率が大きい。平和を望むなら戦争を準備せよじゃあない。戦争の準備でなく平和を準備した方がいい。準備は容易に本当の戦争の方へ近づいていく。非常に早く強く」 jcp.or.jp/akahata/aik22/…

2023-01-26 22:44:43
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

まず、戦争が発生するメカニズムはどのような視点から説明できるのかを一般的に考えます。戦争は国家の指導者が武力行使を決断し、それを実行に移したときに始まります。つまり、戦争が発生するメカニズムを説明するには、国家の指導者がそのような行動をとった理由を明らかにする必要があります。2/

2023-01-29 21:59:34
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

研究者は、この行動を分析する際にさまざまな角度から検討しますが、基本は(1)その指導者の個人に注目する、(2)その指導者を取り巻く国内政治に注目する、(3)国外に広がる国際システムに注目する、という3通りの視点を使い分けています。複数の視点を同時に使用する場合もあります。3/

2023-01-29 21:59:34
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

1875年から2004年までに国家の指導者だった政治家の背景を40項目にわたって調査し、戦争を引き起こすリスクが高い属性を持つ政治家を調べた研究があります。その結果、軍人、聖職者、警察官などが高リスクの職歴が特定されています。これは(1)の視点の研究であるといえます。4/

2023-01-29 21:59:35
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

ちなみに、軍人でも戦闘経験がある政治家は戦争リスクが相対的に低くなることが分かっています。詳細はリンク先で紹介した著作を参照ください。 二つ目の国内要因ですが、これは民主的平和論の中で分析されてきた要因で、大学教育でも広く取り扱われている理論です。5/ note.com/takeuchi_kazut…

2023-01-29 21:59:35
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

この理論では民主主義国間では戦争が起こらないが、例えば中国、北朝鮮、ロシアのような権威主義国は民主主義国に対して戦争を引き起こすリスクが高くなると考えられています。 ただ、軍部支配、個人独裁が抑制されている場合、戦争リスクが低下するとも指摘されています。6/ note.com/takeuchi_kazut…

2023-01-29 21:59:36
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

権威主義国の指導者が戦争を起こすリスクが高い理由に関しては、少し込み入った政治学の説明が必要ですが、ポイントは権威主義は民主主義より政権維持に必要な動員が小さくなるため、不人気な政策を実行しやすくなるということです。政権を独占した政治家は国民に不利益を強制することが可能です。7/

2023-01-29 21:59:36
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

権威主義体制が戦争のリスクを高めるメカニズムに関しては、いくつかの説明がありますが、独裁者に高い戦争リスクがあるといえます。ちなみに、権威主義体制は戦費の負担が増大すると不安定化しやすいため、大規模な動員は避けようとするとも考えられています。8/ note.com/takeuchi_kazut…

2023-01-29 21:59:37
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

最後の国際システムの要因ですが、戦争のリスクを考える上で特に重要であり、政策論争でも取り上げられることが多い論点です。一般に国家間の勢力関係の優劣が明確で、戦争になった場合にどのような結果になるのか目に見えている場合、戦争は起こりにくくなると考えられています。9/

2023-01-29 21:59:37
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

反対に勢力関係の優劣が曖昧になるほど、挑戦国は標的国に戦争を仕掛けやすくなります。これは抑止の考え方で理解できる現象ですが、ここで大事なのは実質的な軍事バランスというよりも、挑戦国の指導者の認識だということです。指導者の認識は常に実態を正しく反映しているとは限りません。10/

2023-01-29 21:59:38
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

挑戦国の指導者は、自民族の優越を確信しているかもしれず、老化で判断能力が低下しているかもしれません。リスクを慎重に考慮しない性格かもしれませんし、あるいは部下から間違った情報ばかりインプットされているかもしれません。これらは抑止の効果を低下させます。11/

2023-01-29 21:59:38
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

軍事的能力があるからといって、それが必ず抑止に繋がるわけではないことは、抑止論の研究において非常に重要なテーマになっており、最近の研究で国家指導者の心理がよく分析されているのは、こうした知見があるためです。抑止の失敗については過去記事で述べています。12/ note.com/takeuchi_kazut…

2023-01-29 21:59:39
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

以上を踏まえた上で、ご理解いただきたいのは、3種類の要因を包括的に捉えなければ、戦争のリスクを評価することはできないということです。 軍備の拡張が戦争のリスクを高めるという議論は、3の視点に立っており、リチャードソンの軍拡競争モデルを参考にしたと推測されます。13/

2023-01-29 21:59:39
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

リチャードソンの軍拡競争の古典的モデルは、安全保障、特に軍備管理を考えるための出発点ですが、実証的な妥当性が認められているわけではありません。どのようなモデルであるかに関しては、以下の記事で述べましたが、自身の軍拡が相手の軍拡を誘発する考え方です。14/ note.com/takeuchi_kazut…

2023-01-29 21:59:40
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

軍拡競争と戦争のリスクの関連を実証的に調べた研究では、軍備の量的変化だけでなく、質的変化が重要であることが明らかにされています。この論点に関しては1980年代にいろいろと議論がされています。ただ、少し専門的な議論なので、ここでは取り上げません。15/ note.com/takeuchi_kazut…

2023-01-29 21:59:40
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

3の視点で戦争のリスクを論じる場合は、指導者の認識という要因を考慮に入れた現代の抑止論に依拠すべきではないかと思います。リチャードソンの議論には、指導者が常に相手の軍備の水準を監視し、それに機械的に反応することを想定しているので、現実的ではありません。16/ note.com/takeuchi_kazut…

2023-01-29 21:59:40
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

長くなってしまいましたが、以上をまとめると戦争の発生を説明するには、国家の指導者の行動を説明する視点が必要で、それは(1)指導者個人、(2)国内事情、(3)国際システムの3種類に区分できます。軍拡競争モデルは(3)しか考慮しておらず、また現実的なモデルではない部分があります。17/

2023-01-29 21:59:41
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

私はこうした視点から、中国の習近平体制は個人独裁を強化していることが、戦争のリスクを以前より高めていると判断しています。しかし、中国の政治体制を外から変えることはできません。米国の軍事的優位を支援するなど、日本がとれる行動は限られてきています。18/

2023-01-29 21:59:41
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

以前にも述べましたが、私は戦争が不可避であるなどとは思っていません。平和の糸口を探し続けるべきであり、たとえ開戦したとしても、外交の努力を途絶えさせるべきではありません。しかし、ウクライナの事例で示された通り、挑戦国の指導者の決意を変えることは容易なことではありません。19/

2023-01-29 21:59:42
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

長いスレッドを読んでくださって、ありがとうございました。 さらに戦争原因論を勉強したいという方は、こちらの概説書などを参照してみてください。20/ note.com/takeuchi_kazut…

2023-01-29 21:59:42
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

先のスレッドに対する反応の中で、気になるコメントがあったので、補足しておきます。ジグザグ様のご意見としては、日本が民主主義国ではなく、権威主義国は戦争を起こすリスクが高いという傾向から、日本は戦争を起こすリスクが高いと推論されたようですが、これは無理筋だろうと思います。1/ twitter.com/dennokoziguzag…

2023-01-30 09:01:53
ジグザグ @dennokoziguzagu

>権威主義国の指導者が戦争を起こすリスクが高い なるほど、実質「権威主義国家」の自民政権下の日本は危ないということか。 twitter.com/Kazuto_Takeuch…

2023-01-30 08:16:46
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

まず、日本が民主主義かどうかを判断する基準の問題ですが、比較政治学の研究でよく知られているV-Demという研究所のデータセットがあり、私も授業でよく使っています。そこでは選挙、自由、参加、熟議、平等という5種類の基準で評点する方法が提案されています。2/ en.wikipedia.org/wiki/V-Dem_Ins…

2023-01-30 09:01:54
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

リンク先のウィキペディア記事でも示されていますが、2020年時点で日本の政治体制は選挙、自由、熟議、平等の4つの基準で0.7以上の評点で、参加の基準では0.5を少し上回る評点になっています。ただ、世界各国の評点と比較していくと、日本が基本的に民主主義国の特徴を持っていると判断できます。3/

2023-01-30 09:01:54
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

もちろん、V-Demの方法が民主主義を量的尺度で測定する唯一の方法であるというわけではありませんが、日本が民主主義国でないとするなら、かなり基準を高く設定する必要があるため、多くの国々が民主主義ではないという評価になり、基準の妥当性が疑問視されます。4/

2023-01-30 09:01:54
武内和人|政治学、軍事学、地政学の研究を紹介 @Kazuto_Takeuchi

せっかくなので、中国が権威主義体制であることに関して説明しておきます。中国はV-Demの中でも非民主的な体制と評点されており、例えば選挙基準だと評点が0.075しかありません。世界全体で下から3番目の評点です。熟議の基準でも評点は0.111で、これは下から29番目です。5/

2023-01-30 09:01:55