- rouillewrite
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足音が去っていく中、ぐるぐると止まらない思考を落ち着かせるために少しだけ目を閉じると、「キヨハル」と落ち着いた声が降ってきた。
2023-02-05 21:34:31「…太陽さん?」 「ごめんなぁ、別にキヨハルのこと嫌いでとかそういうわけじゃないと思うぞ〜」
2023-02-05 21:35:03火咲のことだろうか。 ベッド脇で聖遥の髪をわしゃわしゃと撫でた後、太陽は椅子からベッドへと腰を下ろす。 上履きを脱ぎ、そのまま足をブラブラと揺らしながら口を開いた。
2023-02-05 21:38:07「オレも昔よく倒れてさ〜小さい時はアイツに世話とかしてもらってたんだよなぁ」 「…あぁ、それは想像つきますよ」
2023-02-05 21:38:38「だろ?わはは、アイツ世話好きだからな。オレのお世話も家のことも自分のこともいっつも頑張ってたんだ〜。 アイツの母ちゃんもそんな感じ!頼りがいがあってめちゃくちゃ豪快! オレもよく世話になったぞぉ」 「…そうなんですか」
2023-02-05 21:39:40小さく返事をしながら、聖遥はそういえば、と思い出す。 火咲と太陽は幼なじみだったか。火咲がよく「太陽」と呼び捨てにしかけているのを見たことがある気がした。
2023-02-05 21:41:35「そうそう!それから怒るとめちゃくちゃ怖い!火咲ってあんま自分のこと言わなかったりするだろ? 小学生の時、アイツ体調悪いのに運動会出ちゃってさ!帰り超熱出してぶっ倒れた時があって!そんときの火咲の母ちゃんの顔と言ったら…おぉ、思い出したら震えが止まらねぇ」
2023-02-05 21:43:08「自発的に震えないでください。ベッドがギシギシ言うので」 「話のヘタを折るなよ」 「それは話の腰ですね」
2023-02-05 21:44:45「じゃなくてだな!! …そーだそーだ、倒れたで思い出した。あいつ高校受験の時、ほとんど寝ないで家事とか勉強とか一人でやって気絶してたことあるんだぞ!馬鹿だろ!」
2023-02-05 21:45:55「あれもこれも〜って頼まれたこと全部一人でやるからそーなるんだ!バカかよ!って怒ったこともあるけど…そんときはなんかよく分からんけどめちゃくちゃ喧嘩になったな…」
2023-02-05 21:46:12うんうん、と両腕を組んで昔話を繰り返す太陽。そういうエピソード自体は本人から聞くことは少ないので、なかなか新鮮な気分だ。 同時に、3ヶ月ほど一緒に過ごして顔を出していた彼の世話焼きな性格の、ほんの片鱗を見た気がする。
2023-02-05 21:47:49「…家事とか、って。…お母さんは?」 「……、わはは。火咲が無理しなくちゃいけないことになっちゃったんだ。アイツその位から、無理して笑ったり前よりずっと我慢するようになった気がする」
2023-02-05 21:48:48大きく開けていた口を小さくして、太陽は穏やかにそう言った。今まで快活に笑っていた顔を引っ込め、口元を少し緩ませるだけで覇気はない。 そしてその口角をあげることすら、次の瞬間にはやめていた。
2023-02-05 21:50:52彼の口から不意に出た言葉に、思わず声が漏れる。いつもよりずっと真剣な雰囲気と顔に、たじろぐことしか出来ない。
2023-02-05 21:53:06「アイツは偉いと思うよ。頑張ってて、ずっとひとりで背負い込んで。 でも、そんなに頑張って欲しくないんだ。そんなに、自分を追い込んで欲しくないんだ。」
2023-02-05 21:54:14「…オレさ、下を向いてるやつに上を向かせるのは得意だけど、ずっと上を向いてるやつに下を向かせるのは出来ないから。けどキヨハルなら、できるかなって思ったんだ」
2023-02-05 21:54:58「…でも、オレ……、オレは、太陽さんが思ってるほど気の利くような言葉はかけられませんよ」
2023-02-05 21:56:38よく知ってる太陽さんの方が、とそこまで言って、手元に何かを握らされる。 カサ、と少しだけ音を立てた丸いそれは、赤色の飴玉のようだ。
2023-02-05 21:57:16そこまで言って、「なっ」と太陽はいつもの顔で笑った。どこか寂しさの残る語尾と共に託された飴玉を、手のひらで転がして見つめる。 そして、転げ落ちないようにぎゅっとそれを握りしめると、彼に向かって言い放った。
2023-02-05 21:59:09ぴちゃ、と何かの音を聞いて鈴守遥人は目を覚ます。 相変わらず起き抜けのようにぐらぐらする頭を押え、周りを見渡すと、どうやらどこかの教室のようだ。
2023-02-05 22:02:55