悪魔と少女

愁夢 @s_shumu

それは、契約の魔法。契約の終了と共に起きる魔法。普通なら、この時契約主は魂だけを残して消えてしまう。なのに、「アベル、貴方が消えるの？」光の粒子が少しずつ消えていく。「みんな、消えちゃうのね。ママも、ディオちゃんも」泣きそうな私に悪魔はそっと近づいて。「大丈夫だ」　#悪魔と少女

愁夢 @s_shumu

「傍にいる、どんな姿になっても、ずっと」そっと抱きしめられる。それは、悲しくて優しくて儚くて、愛しかった。闇夜に少しの名残を残して、光が消えた。それでも、その抱擁の感触は残って。「ディオ、翼が……」視界を開ければ、いつも悪魔の背にあった漆黒の翼が消えていた。　#悪魔と少女

愁夢 @s_shumu

「ああ、俺の幸せは『セシリアの幸せを見守ること』」確かめるように手を握って開く悪魔は、もう悪魔ではなかった。漆黒の翼は消え、銀色だった瞳は黒く染まり。それは、まるで『人間』だった。「これで、傍に居れる」そっと、微笑んだ彼は嬉しそうで、でも、寂しそうで。　#悪魔と少女

愁夢 @s_shumu

「人間になった俺に、お前のために出来ることなんてもうほんの少ししかないが、傍に居てもいいか？」彼が優しく尋ねてくる。「無理よ」彼は苦しそうな顔をした。「……私が学校を卒業するまで待っていてくれる？やっぱり、寮に男の人は入れないと思うのようね」笑う私と、目を瞬く彼。　#悪魔と少女

愁夢 @s_shumu

「それくらい問題ない」ほっとした顔で彼は私に抱きついて。「それまでになんとか人間の生活に慣れないとな」縋りつくような抱擁のあと、彼は笑った。「セシリア、俺に名を」「名前？」「ああ、アグネスを殺す名でも、お前に殺されるための名でもなく、セシリアと共に生きる俺の、名を」　#悪魔と少女

愁夢 @s_shumu

「じゃあ、ヴァレル。私の傍にいてくれる人」「わかった。俺の名はヴァレル。今度こそ、アグネスの代わりに俺はお前の傍にいる。ずっと」見上げた空に月はなかった。星降る夜、あの日、私は何も願えなかったけれど。降るような星空の下で、私は初めて私の幸せを心底願った。　#悪魔と少女　完