- rouillewrite
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翌日の朝、朝礼前に3年A組の教室では立牧空彦がちょうど席の前に立って1限目の準備をしていた。
2023-03-05 21:05:29彼にしては遅すぎる登校時間に首を傾げ、涼李と遥人は彼に歩み寄る。 応援団の朝練から帰ってきたところだろうか。いや、体育祭まではかなり日があるから、朝練が始まるのはもう少し先のはず。 それにいつもの彼なら、もう少し早い時間に来て、既に席に座っていてもいい頃合いだ。
2023-03-05 21:06:49遥人が声をかけると、こちらに気づいたようで空彦は手を止め笑って小さく手を振った。 そのまま椅子に座ってカバンの中からスケッチブックを取り出す。彼にしては珍しい持ち物だ。美術の授業は今日は無いが。
2023-03-05 21:10:38その仕草やいつもと様子が違う彼を見て、遥人の頭に真っ先に嫌な考えが頭をよぎる。涼李も同じだったようで、お互いに顔を見合せて不安げな表情のまま彼を見つめた。
2023-03-05 21:11:51昨晩の光景が頭をよぎる。涼李は自分の戦闘で手一杯で現場を目撃していたわけではないし、遥人も春馬が呼びに来て累について行って、その後の現場を見ただけだ。 けれど。 倒れたまま動かず、喉から空気の音を鳴らし、血溜まりの中で─────。
2023-03-05 21:14:14その時、トントン、と指で肩を叩かれたことでようやく遥人は我に返った。いつものハッキリとした笑顔で笑う空彦は、いつも通りの彼で。
2023-03-05 21:15:43遥人が彼の名前を呼びかけた時、聞きなれた大声が3人の耳に飛び込んでくる。 この学校でもかなり目立つ容姿の2人はクラス中の生徒の視線を浴びながら、それも気にしない様子でズカズカと3人の元へと歩いてきた。
2023-03-05 21:18:35隣のクラスの轟累と明日田識圜である。彼らにしては早すぎる登校時間に目を丸くしつつも、昨日の現場を見たのだから早めの安否確認をしたかったのだろうと遥人は勝手に納得した。 そのまま空彦の机のそばまで歩いてきて、少し乱暴に机に手を置くと累は彼に詰め寄った。
2023-03-05 21:19:02「大丈夫か?なんともないか?」 「累から聞いただけだけど、首やられたってマジぃ?」 「2人とも、今は…」
2023-03-05 21:20:25一度に質問を投げかける2人に向かって、涼李が制止を掛けようとした時、空彦が手を挙げてそれを止めさせる。 そして、持っていたスケッチブックに、筆箱の中に入っていた黒いマジックペンで何かを書き始めた。 その時点で、累も識圜も彼の状況を察してしまう。
2023-03-05 21:21:14しかしやはり、その書かれた文字を見ると、嫌な予感を的中させてしまった冷や汗が溢れ出た。
2023-03-05 21:22:25『すみません。今、あまり声をだせなくて』 pic.twitter.com/UdRqGi1aVo
2023-03-05 21:22:51スケッチブックを表にし、その文字を見せた空彦は困ったように笑った。 あの惨状の中、命があっただけでも奇跡だと言うのか。それでも突きつけられた残酷な現実に、血の気が引いていく。
2023-03-05 21:24:34暗い雰囲気をどうにかしようとしたのか、少し乱雑な字で書きなぐりスケッチブックを見せる。 ニコッと笑ったあと、ペンと紙を机の上に置いて、少しだけ息を吸い込んだ。
2023-03-05 21:26:41そこから発された音は小さなものだったが、確かに完全に声を失ったという訳ではなさそうだ。 強いて言うなら、酷い風邪を拗らせた後のような様子で、失声と呼べるほどかはわからない。
2023-03-05 21:28:16喉が痛いのか、と涼李が聞くと、空彦は首を縦に振った。 どうやら本人の感覚的にも、風邪を引いて喉の辺りが詰まっているとか、そんな感じらしい。
2023-03-05 21:28:26遥人の問いに、空彦は慌てて首を横に振った。どうやらそれは無さそうだ。回復班4人が全力で早めに回復してくれたおかげだろうか。
2023-03-05 21:31:15