【原神】新六狐伝より【講談完結】

二次創作茶博士劉蘇の続きが聴ける講談です。
0
次回お楽しみに @cha_boshi

スミレウリを売るこの男、名を土左衛門と言い。元侍であった。平和が続けば刀を振り回す者の仕事など限られてくる。そこで商いを始めたのだが、この男学んだのは悪巧みばかり。人相が悪い事も相まって誰も文句がいえなかった。結果として、土左衛門の商売は大儲けであった。

2023-05-20 21:07:46
次回お楽しみに @cha_boshi

この時、土左衛門は瓜売りの屋台で一息ついていた。ところが、突然に地が揺れて土煙が立つ。屋台より大きな影が陽光を遮り土左衛門に落ちる。 「兄さん、瓜をくれ!」 黒狐の達が声を掛けた。

2023-05-20 21:08:05
次回お楽しみに @cha_boshi

これに驚いたのは土左衛門である。目を見開いて客を見るとなんと女であった。こんなにガタイが大きくて柄も悪そうなのに。そして今にも斬りかかってきそうな、抜き身の剣を前にした様な緊張を感じてしまう。 土左衛門はなんとか客へ問いかける。 「いくら要るんだ?」

2023-05-20 21:08:29
次回お楽しみに @cha_boshi

達は質問に答えない。瓜売りの屋台の上、まな板の上にある脇差をじっと見て目を離さないで土左衛門に言った。 「良い刀だ」 土左衛門は客の意図が分からない。だが先程から妙な焦燥感があるのだ。この客の所為であろうか。

2023-05-20 21:08:50
次回お楽しみに @cha_boshi

「その通り。これでも武家の出でね、家宝のひとつくらいはあるさ。」 土左衛門はどうにか当たり障りなく答えるが、達はそこをつついた。 「瓜を切るには勿体ない」 棘のある響きの言葉は、焦れた土左衛門の癪に障る。

2023-05-20 21:09:06
次回お楽しみに @cha_boshi

とうとう土左衛門はこの客にイラついた気持ちを隠さなくなった。 「瓜を買いに来たなら、無駄話なんぞしないでさっさと買ってきな。」 「はいはい、仰る通りで」 へらりと笑う達は一体何をしようと言うのだろうか。このお話の続きはまた次回のお楽しみに!

2023-05-20 21:09:25
次回お楽しみに @cha_boshi

さて今夜も続きをお話しよう。 客は申し訳なさそうな顔をしつつヘラヘラと笑っている。 「瓜を一升、皮は剥いてくれ」 土左衛門は内心、此奴は一体なんだんだと不審がりはしたものの、注文の通りにスミレウリを切って秤に乗せた。

2023-05-21 21:10:35
次回お楽しみに @cha_boshi

「兄さん。 その秤、調子が悪いんじゃないか?」 瓜を量り始めるとすかさず黒狐の達は土左衛門に言葉をかけた。土左衛門は皮を剥くのに使っていた刀を持つ手にグッと力が入る。そこへ達は更に追い討ちをかける」 「なあ、その秤ちょいとおかしいよな!」

2023-05-21 21:11:05
次回お楽しみに @cha_boshi

「姐さん、買う気があんなら先にモラを払ってくれ。」 因縁を付けてくる輩であったか。土左衛門はむかっ腹が立って言い返した。こうなってはもう売り言葉に買い言葉である。 「へっ、先に払ってやっても良いが受け止められるかい?」達は言った。

2023-05-21 21:11:46
次回お楽しみに @cha_boshi

「それは払ってから言いやがれ!」 「いいのか?」 「やってみろよ!」 そう土左衛門が言った瞬間だ。黒狐の達は、ほぅらよ!と、怒鳴りながらずっしりと重いモラ袋を土左衛門の顔へガツンと投げつけたのだ。

2023-05-21 21:12:11
次回お楽しみに @cha_boshi

元侍、人相の悪さで今まで客に文句を言わさなかっただけの土左衛門である。こんな反撃があるとは思ってもみなかった。受け身も取れずもんどり打って仰向けに倒れこみ、手に持っていたはずの脇差も落としてしまった。しかもまあ!モラ袋の下敷きになって鼻がぺちゃんこである。

2023-05-21 21:14:03
次回お楽しみに @cha_boshi

達はそのまま、ずんと二歩進んで土左衛門を踏みつけて、何も言わずに土左衛門の顔へ拳を叩き込んだ。 殴られた土左衛門はたまったものでは無い。カンカンカンと酷い耳鳴りがする。もがいて起き上がるのに、取り落とした脇差に手を伸ばした。さあさあ、このお話の続きは次回をお楽しみに!

2023-05-21 21:16:09
次回お楽しみに @cha_boshi

今日も続きをお話しよう。 倒れ込んだ土左衛門は黒狐の達に大下駄で踏んづけられて、もう一発殴られた。これは堪らん。起き上がろうにも直ぐには立ち上がれぬ。 耳鳴りのする頭では、もはや身を守る為の無意識だろう。落としてしまった脇差を再び手に取ろうと腕を伸ばしたのだ。

2023-05-22 22:04:13
次回お楽しみに @cha_boshi

これを達は見咎めて土左衛門に更に拳を喰らわせる。ガツンと殴られた瞬間だ。あわれ悪徳商人はここに正体を現したり。 ポン、と云う音がして土左衛門の頭にタヌキの耳が飛び出てきた。正体も割れてしまいもう一発だって殴られては敵わない。どうぞ命だけは、と土左衛門は頻りに命乞いをするのだった。

2023-05-22 22:04:46
次回お楽しみに @cha_boshi

これを見た黒狐の達はと云うと、 なんだなんだ。此奴も妖怪じゃないか。しかも小汚いタヌキだとは!と土左衛門を前に大笑いだ。 達はタヌキが盗んだ脇差を没収して、全財産を差し出させる事で勘弁してやり、それを紺田村の村人と旅芸人の親子に分け与えた。 そして再び黒狐の達は旅に出たのである。

2023-05-22 22:05:20
次回お楽しみに @cha_boshi

さて、黒狐の達のお話は一段落だが、もう少し筆者にお付き合い願おう。当時の有楽斎様が何をして斎宮様の怒りを買ったのか、今となっては知り得ない事だ。ただ、この時の編集長様は常になく、二三四五六七八杯ほど多くきこしめした所為で見聞きした事を私に話してくれた。

2023-05-22 22:05:41
次回お楽しみに @cha_boshi

著者は実話を記すつもりである。とは云えだ、多分に編集長様の過去に触れる為、言い触らす様な事はしない方が良いであろう。よって、この続きが知りたい方は是非、八重堂でこの「新六狐伝」の第五巻をお買い上げ頂きたい。講談はこれでおしまいだ。

2023-05-22 22:06:58