【原神】新六狐伝より【講談完結】

二次創作茶博士劉蘇の続きが聴ける講談です。
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次回お楽しみに @cha_boshi

あの夜、私は烏有亭で酒を飲んでいたのだ。そこで、久しく会っていなかった友人と出くわした。否、有りのままを言えば、気配もなく気が付いた時には既に隣に座られていたのだ。

2023-05-15 21:24:29
次回お楽しみに @cha_boshi

「おや誰じゃ。折角の良い晩に、寂しくひとり酒なんぞしておるのは。」 そう問われて適当に答えた。 「良い酒とは良い飲み手と出逢ってこそ。その時と場所は選べないんだ。」

2023-05-15 21:25:18
次回お楽しみに @cha_boshi

「陳腐な台詞じゃな…相変わらずつまらぬことよ。」そう言いつつも、今をときめく編集長様となった彼女は盃を片手に興が乗った様子である。 「どうじゃ。暇を持て余す位ならば酒代を稼ぐ気はないか?」 「今宵は妾が奢ってやろう」 それを彼女から聞くのは三回目であろうか。

2023-05-15 21:26:17
次回お楽しみに @cha_boshi

なんだか急に懐かしい気持ちになり、気がついたら「おかえり」の言葉がまろび出ていた。夜風に攫われた神櫻の花弁が舞い降りて、彼女の盃にある月を揺らした時の事だった。 再びの狸氏登場だ。このお話の続きは次回をお楽しみに!

2023-05-15 21:27:32
次回お楽しみに @cha_boshi

狸氏は神櫻の花弁に、盃に写る月に、夜風に乗ってやって来る空気に思い起こす過去があったのだろう。そしてそれは隣りに座る編集長様にも共通の過去の出来事なのだ。 記憶に纏わる物語と云うのは往々にして手にしていたはずのものを失う瞬間を書くものだ。さて、今夜も続きをお話しよう。

2023-05-16 21:28:00
次回お楽しみに @cha_boshi

「酔っておるな」 不愉快さを隠さない彼女の声からは逆らい難い響きがあった。そんな声音を出したのも束の間、彼女は静かに盃を卓へ置いてから息を吐いた。 「かの方が去った時、妾はまだ生まれておらんかった」そう私もただの少年であった。しかし、過去を知る者も少なくなってきたと云うことか。

2023-05-16 21:29:46
次回お楽しみに @cha_boshi

「かの方が話した物語を語れるのは、もう其方しかおらぬじゃろう」 そう言われて、私はまんまと乗せられてしまった訳だ。そう云うわけで、再び八重堂の為に執筆する運びとなったのだ。筆を擱くと言っておきながらこの様で読者諸君には申し訳なく思っている。

2023-05-16 21:30:22
次回お楽しみに @cha_boshi

が、しかしだ。いずれ出会うべき美酒の為に私は蓄えねばならない。何よりあの晩の編集長様の好意を私は無下にできないのだ。 さて、物語は「新」六狐伝である。勿論「新」が有るなら「旧」も有る。本書は五百年前に流行した『有楽斎六狐伝』をもとに改編した新説になる。拙筆にはご容赦頂きたい。

2023-05-16 21:30:57
次回お楽しみに @cha_boshi

有楽斎様と云えば、私が幼い頃には既に名うての作家でいらっしゃった。斎宮様もその文章と茶の知識には一目置いていらして、狐の一族の中でもいっとう風雅な方であった。しかし、諸行は無常。是れ生滅の法なり。有楽斎様は大罪を犯し、罪を償う為に自らこの地を去りはや五百年…

2023-05-16 21:31:23
次回お楽しみに @cha_boshi

閑話休題。『新六狐伝』の開幕は高く聳える影向山の山中からである。大狐白辰には六人の弟子がいたと言われている。皆強い術を駆使できる変げに長けた者たちだ。その中でも首席である黒狐のタツが山の下の村へ喧嘩を売りに行くところからお話が始まる。が、この続きは次回をお楽しみに!

2023-05-16 21:31:57
次回お楽しみに @cha_boshi

さて続きをお話しよう。 新編にあたり『有楽斎六狐伝』より最初に私の一番好きなお話からさせて頂こうと思う。影向山にいる大狐白辰には六人の弟子がいた。どの者も変化の腕が立ち、普段は白辰の補佐として神社の事務や影向山の守護をしていた。

2023-05-17 21:13:41
次回お楽しみに @cha_boshi

弟子たち六狐の首席は名を、黒狐の達(いたる)と言い大柄で奔放な性格の女狐だった。この者、ある時に酒に酔って大社の正殿で大暴れをして、御神体を壊してしまったのだ。 影向山の大社の御神体ときたら、そう将軍様のだ。白辰は激怒した。そして反省せよと、達を山から追放してしまったのだ。

2023-05-17 21:14:19
次回お楽しみに @cha_boshi

しかし、師匠である白辰の言い付けに従って山を降りた達だったが、途中ですっかり師匠の言った事を忘れてしまっていた。なんと酒を買って村へ喧嘩をふっかけてやろうとしたのだ。 だがそんな事にはならなかった。理由は簡単だ。村へ行く途中で他の奴と喧嘩をしたからだ。

2023-05-17 21:14:50
次回お楽しみに @cha_boshi

黒狐の達が村へ行こうとした道中には、道端に木こりの身なりをした女が二人立っていた。二人共に七尺の野太刀に、小太刀と脇差を腰に佩いている。 この者たちは「戸隠の双鬼」と呼ばれる姉妹である。

2023-05-17 21:15:11
次回お楽しみに @cha_boshi

野太刀と云うのは野戦場で有利に戦う為に刀身を長くした大太刀の事である。一尺が約30㌢として七尺で210㌢の刀と言う事だ。それに小太刀に脇差でそれぞれが三振り持っている。とてもとても木こりなんかではない。

2023-05-17 21:15:41
次回お楽しみに @cha_boshi

それが証拠に、黒狐の達が地を鳴らし土煙を上げてずんずんと通りがかるのを認めると二人は刀に手を置きながら誰何した。 「何奴だ!貴様妖怪か!」 達はこう答えた。 「ハハ、ご名答!」 二人はすぐさま刀を抜いて斬りかかった!この話の続きはまたまた次回お楽しみに。

2023-05-17 21:16:11
次回お楽しみに @cha_boshi

お気づきかもしれないが、昨日は登場人物の名前の表記を間違えてしまっていたよ。タツと書いてしまっていたが、イタルさんだ。大変申し訳無い。

2023-05-17 21:19:10
次回お楽しみに @cha_boshi

野太刀を一人で鞘から抜くと云うのはとてつもなく技術の要る動作だ。自分の身長以上の長さの刃物を鞘から抜く行為は普通なら無理な動きなので、携行するのですら従者に持たせて、刀身を抜くには鞘を従者に引かせる。

2023-05-18 21:51:35
次回お楽しみに @cha_boshi

一部の限られた達人のみが手で持ったり、背負った状態から己の力で抜刀できるのだ。つまり、この女山賊たちは野太刀を抜いた時点で腕が立つ者と言えるのだ。 さて今夜も続きをお話しよう。

2023-05-18 21:51:50
次回お楽しみに @cha_boshi

二人は鯉口を既に切っていた。達の誰何への返答を聞くや否や、野太刀は鞘を走りギラりと光る二振りは達を狙った。 女山賊の二人に斬りかかられた黒狐の達はこの二面の攻めを僅かな動きだけでするりと躱すと身を捻って右手に一人、左手に一人と二人の手首を捕まえてしまった。

2023-05-18 21:52:29
次回お楽しみに @cha_boshi

そして勢いを殺さぬまま二人の腕を捻りあげたのだ。ガチャリ、音を立てて七尺の大太刀が地に落ちる。 しかし、戸隠の双鬼の二人もそんな事で諦めはしない。痛みに顔を歪めながらも小太刀を抜こうと手を柄へやろうとしたが、達の方が速かった。

2023-05-18 21:52:52
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黒狐の達の掌底が一人を倒し、もう一人の首根っこを捕らえた。そのまま達は首根っこを掴んだ方を持ち上げて、倒れた方を大きな下駄でガンと踏みつける。 「お前ら去年も村人を苛めていただろう。まだ懲りてないのか!」

2023-05-18 21:53:19
次回お楽しみに @cha_boshi

女山賊二人は自分たちの戦った相手に気が付きハッとして、臍を噛みつつも命乞いをするしか無かった。 「まあいい。白辰様に山を出されたからにはアタイも主なき妖怪だ。お前らアタイと一緒に旅をしろ!そうしたら退屈しなくて済みそうだ。」

2023-05-18 21:54:31
次回お楽しみに @cha_boshi

二人を解放した黒狐の達はこう言ったのだった。この豪快な黒狐のお話の続きはまた次回のお楽しみに。

2023-05-18 21:55:18
次回お楽しみに @cha_boshi

さて、悪徳の瓜売りに騙されて高額の請求をされてしまった親子に三人は出会い、戸隠の双鬼の姉妹は義憤に駆られて瓜売りを八つ裂きにせんとした。と、ここで姉妹を宥めたのが黒狐の達である。何か考えがある様で、ここは任せろとばかりに瓜売りに向かって大股に歩き出した。今日も続きをお話しよう。

2023-05-20 21:06:34