黄土色の災害

夢日記、自分向け
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にゅい @lanuit2012

4時間で目覚めてしまった。いよいよ夏の眠りに変わってきたのだろうか。それはそうと起きる直前に、恐ろしいような、興味深いような夢をみたので、自分向けに書き留めておこうと思う。

2023-07-03 09:10:12
にゅい @lanuit2012

夢の中で、私はガールスカウトの一員だった。たぶん中学一年生くらい。「飛騨キャンプ場」というところへ向けて、何日もかけてバスで移動して、現地でいろいろ学んで、また何日もかけて帰ってくる、という予定のものだった。これだけだと、ただのキャンプ旅行に聴こえる。でも実際は違った。

2023-07-03 09:16:13
にゅい @lanuit2012

私が住んでいた夢の世界には、妖異災害とでも言うべきものがあった。地震よりも頻繁にやってきては、理不尽に人の命を奪って、あっという間に去ってしまう。学校でも真剣に避難訓練はやっていたけど、それをもっと専門的に教える集まりとしてガールスカウトがあった。当然、多くの少女が属していた。

2023-07-03 09:18:35
にゅい @lanuit2012

現実世界のガールスカウトは、集団行動を根本原則とし、協調性、コミュニケーション、協力の精神を学ぶような組織なのだけど。 夢の中では「とにかく、まずは妖異災害から自力で身を守れる」一人前になる、ということが最優先で求められていた。年間の妖異災害による死者は10万人を軽く越えていた。

2023-07-03 09:26:16
にゅい @lanuit2012

目的地が「飛騨キャンプ場」なのには理由があって、私たちの住む町から、このキャンプ場までの道のりは霊的に保護されていたり、山に住まう神様たちの加護があったりで、強力な妖異災害に遭遇する率が極めて低かったのだ。少しくらいヘマしても、命を落とすことはない。そういう信頼のある場所だった。

2023-07-03 09:34:45
にゅい @lanuit2012

一通り荷造りを終えて、詰め込めるものを詰め込んだフレームザック(本格的なリュックサック)というのは、なかなか重い。でもキャンプにも、妖異対策にも必要なものを詰め込んであるから、我慢するより仕方ない。バスガイドさんの案内に従って荷物をバスのトランクに押し込むと、私は席についた。

2023-07-03 09:37:57
にゅい @lanuit2012

夢の中での私は、バスでの長旅は大の苦手だった。たった一人、心から信頼している2つ上の先輩以外とは、全くそりが合わなかったから。みんな「なにか災害があっても引率の大人が何とかしてくれるだろう」という思考が透けて見えていたから。ここって「自分で身を守る術を身につける」組織なのに。

2023-07-03 09:41:16
にゅい @lanuit2012

その点で私と先輩は意見が一致していた。二人とも独立独歩の意識が強く、災害の度合いによっては、引率の大人が守ってくれるどころか、その大人さえあっけなく死んでしまうこともある、と知っていたからだ。ところがあいにく私たちの町では災害はごく稀で、誰もかれも、大人でさえ油断しきっていた。

2023-07-03 09:43:33
にゅい @lanuit2012

バスは高速を走っていたけれど、休憩時間を過ごす経由地はサービスエリアでなく、下道でアクセスする、ちょっとした観光地みたいなところだった。その日、観光客は多くなかったけど、町はわりと人でごった返していた。引率の大人から、晩ご飯はどこどこ食堂で、それまでは自由解散、と言い渡された。

2023-07-03 09:47:18
にゅい @lanuit2012

私はただ一人信頼している先輩と、町の中を散策することにした。広大な坂道というか、斜面に作られた町であるため、町の下と、てっぺんとを行き来するにはずいぶん不自由そうだな、と私は思った。まあ見晴らしはいいけどね、と思いながら、町のてっぺん近くから空を見ると、黄土色の竜巻が見えた。

2023-07-03 09:51:56
にゅい @lanuit2012

黄土色の竜巻。それは木々をなぎ倒し、屋根瓦を吹き飛ばしたりする類のものではない。一粒一粒が妖異で、その集合体である、巨大な「死」の塊を意味する。スカイツリーほども高く、町ひとつを飲み込むほど大きい。霊的に守護されたこの町には、現れるはずもないもの。でも実際に迫ってきている。

2023-07-03 10:00:07
にゅい @lanuit2012

そこかしこで、悲鳴と怒号が飛び交う。「階段を上がれ!」「役場に広い階段があるぞ!」この妖異災害、不思議な法則があって「階段を三段以上登って待っていれば安全」というシロモノだった。逆に言えば、階段を見つけられなければ万に一つも助かる見込みのない災害。誰もが階段を探して逃げまどった。

2023-07-03 10:02:54
にゅい @lanuit2012

大通りの真ん中には、その土地の戦国武将の像がそびえていて、さいわいそこは階段でぐるり囲まれ、災害をやり過ごせる小島のようになっていた。私と先輩は何とかその小島に間に合った。でも避難してきた人が多すぎる。私の立ち位置はぎりぎり三段目、それ以上は上れなかった。先輩も一段だけ上にいる。

2023-07-03 10:07:37
にゅい @lanuit2012

黄土色の竜巻は町の下のほうから襲い掛かり、すごい速度で町の飲み込みながら登ってきて、やがて私たちの小島をも飲み込んだ。周囲から聴こえていた悲鳴や怒号も、竜巻の発する暴風の音にかき消されて聴こえない。慄きながら数秒、必死に階段から足を踏み外さないよう堪えていると、不意に音がやんだ。

2023-07-03 10:10:38
にゅい @lanuit2012

階段の下に先輩がいる。竜巻に飲み込まれているはずなのに、周囲には清浄な雰囲気の薄青い霧が立ち込めている。とても静謐だ。「どうしたの?」と先輩が微笑む。「降りておいでよ。大丈夫だよ」そんなわけないよ、大丈夫なわけない、先輩こそ上がってきて。そう言おうと思ったのに、口に出せない。

2023-07-03 10:13:11
にゅい @lanuit2012

なんだか頭はぼうっとして、眠りに落ちる時のように心地よい。心底、信頼している先輩が大丈夫って言ってるから、大丈夫なんじゃないだろうか。私の感覚は狂い始めた。先輩はにこにこしている。私の大好きな笑顔だ。「降りておいでよ」耳に心地よい声がもう一度促す。降りちゃおうかな、と思った。

2023-07-03 10:15:25
にゅい @lanuit2012

その時、私の中の何かが、激しく警鐘を打ち鳴らした。違う、あれは先輩じゃない。絶対に降りるな、と。私は目を凝らして先輩を見る。確かに先輩に見える。でも何かヘンだ。よく出来た人形に、よく出来た先輩の顔の仮面を張り付けたような。降りちゃおうか、でも絶対にこの先輩はヘンだ、私は躊躇した。

2023-07-03 10:18:08
にゅい @lanuit2012

「危ない!」背後から先輩の、悲鳴にも似た声がして、私の襟首が掴まれた。途端、薄青い清浄な霧の幻影は吹き飛んで、周囲は黄土色に戻った。目の前の「先輩」の姿はぐにゃりと不気味に歪んだ。歪んだそれは悔しそうな表情で舌打ちをすると、あっという間に黄土色の竜巻に交じって消えた。

2023-07-03 10:21:43
にゅい @lanuit2012

竜巻はあっという間に過ぎ去って、ようやく町に安全が戻った。気丈なはずの先輩が泣いている。ずっと私を見ていてくれた先輩は、私が一歩踏み出そうとしていることに素早く気付いて、即座に襟首を掴んで引き戻したのだ、という。私はあやうく怪異にまんまと一杯食わされて命を落とすところだったのだ。

2023-07-03 10:24:38
にゅい @lanuit2012

災害に見舞われたことのほとんどない、この町の人たちが少なからず命を落とした。階段に間に合わなかった人も多数いたけれど、せっかく避難したのにふらふらと自分から階段を降りた人も多数いたそうだ。自分も危うくそうなるところだったのだ、と今さらのように気づいて背筋が寒くなった。

2023-07-03 10:33:14
にゅい @lanuit2012

その後は、泣き続ける先輩に謝ったり、なだめたり、好かしたりしながら、何とか機嫌を直してもらいながら、夕ご飯のために指示された食堂へ向かった。自分のためにこんなに泣いてくれる人がいるなんて、と申し訳ないと同時に、私はなんだか嬉しかった。 ここで目が覚めた。

2023-07-03 10:35:26