ギガベース日誌 ACT06.5「FLOOD OF BLOOD」（未完）

再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

薄暗い部屋。 組織のトップが使用する部屋としては、あまりにも質素に思える執務室。 申し訳程度の刺繍が施された絨毯、埃が溜まったテーブル、皺が目立つソファ。明らかに普段使いがされていないであろうその部屋には、4時間ほど前からキーボードの打鍵音が絶えず響いていた。　#ギガベース日誌_Re

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眼を血走らせながらキーボードを叩く男は、時折丸めた背を反り返らせうめき声をあげたり、特に意味も無く利き手を振ったりしながらも、執務室に入室してからずっと報告書の作製と自らのスポンサー達とのチャット会議に没頭していた。　#ギガベース日誌_Re

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全ての作業を終えたのか、男は乱暴にラップトップを閉じ、机の上に散らばっていた開封済みの薬包と注射器をゴミ箱へと放り投げた。 「……終わった」 自分はとことん、職業としての”提督”に向いていない。そう実感しながら、痙攣する右脚に言い聞かせるように男は呟いた。　#ギガベース日誌_Re

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戦いたい。 戦争がしたい。 男の思考はすぐにそういったもので満たされた。より激しい争いを齎す為に必要な手続きとは言え、戦場からかけ離れた場所で遺された時間を使うような行動は、彼にとって多大なストレスでしかなかった。　#ギガベース日誌_Re

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男の名は「DfJ」。 巨大兵器・アームズフォート「ギガベース」を移動型海上鎮守府へと改造した、通称「ギガベース鎮守府」を指揮する提督である。 「おつかれさ～ん」 彼の事務作業を手伝っていた重雷装艦「北上」は、動物か何かのようにだらしなく床に寝転んだ。　#ギガベース日誌_Re

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「テクノクラートの新作か……北上、シクヴァルの派生型も載ってるぞ」 「まじで？ちょっと見せてよ」 北上が立ち上がったタイミングで、執務室のドアが開かれた。 「お疲れ様です。二人とも夕食にいらっしゃらなかったので、持ってきました」　#ギガベース日誌_Re

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「やった。気が利くね～不知火は」 北上の興味は、DfJが持つ最新の企業商品カタログから、入室した不知火が押してきた台車に移った。 「ピザあるじゃん。貰うね」 「それは提督の……あっ」　#ギガベース日誌_Re

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その異常な赤さがトマトではなく大量に振りかけられた香辛料や辛味調味料の類である事を、北上は口内に迸る激痛に気付かされた。 北上は思い出す。提督は、DfJは味覚を失っている。提督自らが駆る兵器が撒き散らす汚染物質に全身を蝕まれ、その代償の1つが味覚の喪失であったと。　#ギガベース日誌_Re

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「悪いな不知火。これを少し読んでから食うから、そこに置いておいてくれ」 「そういうわけにもいかないようですよ」 不知火の後方。開いた扉から、更に2隻の艦娘が入室する。　#ギガベース日誌_Re

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「お疲れ様です、提督」 「邪魔するでち」 「大淀？何の用だ。58まで。トーラスへの報告ならさっき済ませたぞ」 端末を小脇に抱えた事務担当艦大淀と、潜水艦伊58。ギガベース鎮守府の中では、比較的珍しい組み合わせだった。　#ギガベース日誌_Re

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「その、急ぎ報告しなければならない事がありまして」 「手短に済ませろ。それ食って、これ読んで、すぐ寝るつもりだった」 「はい、まず1点目なのですが……」　 大淀は一瞬言葉を詰まらせた後、意を決したように報告を始めた。　#ギガベース日誌_Re

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「6分前に判明した事項なのですが、ギガベースの艦娘用燃料タンクが先の戦闘で損傷していました」 「何？昨日ここに戻ってきた時に空から軍港を見たが、油が漏れだしてるようには見えなかったぞ」　#ギガベース日誌_Re

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「流出事故は起きていないのですが……具体的に説明しますと、損傷とは配管系の破損と混線です。艦内のコジマプラントや廃棄物処理エリアから生じた汚染液や生活排水は、本来なら海中に投棄される筈なのですが、それらが全て燃料タンクへと流れ込みました」 「は？」　#ギガベース日誌_Re

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「知らずに補給を行った子日さんが体調不良を訴えてから4分後、艤装各所で大規模コジマ収縮が発生して……還らぬ艦に」 「今月何隻目だ！というか、配管が破損して下水が漏れ出すのならまだしも、そんな都合よく燃料タンクに逆流したっていうのか？」　#ギガベース日誌_Re

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「それについては、大宮技術長も驚愕されていました。グレムリンか何かの仕業としか思えないと。汚染燃料の汲み出しと修理については着手済みです。しかし、備蓄していた燃料が全て……」 「わかった。つまり新しい燃料を購入しなきゃならない訳だろ？クソッ、ついてないな」　#ギガベース日誌_Re

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DfJは血と油が染みた軍服のポケットから端末を取り出し、トーラスのポータルサイトへとアクセスする。しかし、指の動きがすぐにとまる。 「艦娘用資材の販売ページにログインできない」 「此度の深海棲艦による各企業拠点への襲撃によって、トーラスも相当数の艦娘を失いました」　#ギガベース日誌_Re

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「羽黒とZ3が死んだんだ。いくらトーラスの艦娘といえど無理も無いだろ。それがどうし……あっ」 「トーラス代表曰く、大型艦建造を2000回分ほど回してしまって、販売に回す分の資材はしばらく確保できないと」　#ギガベース日誌_Re

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「……困ったな」 「別にトーラスじゃなくてGAとかオーメルから買えばいいじゃん」 「どこも似たような状況だろう。それに、まず連中は俺に売ってくれない」　#ギガベース日誌_Re

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ギガベース鎮守府は最優先で排除するべき反乱分子である。 それが、トーラスも含まれる統治企業連合の、表向きの共通認識。その主導者たるDfJを顧客として歓迎する道理を持ち合わせている企業は、トーラスの他には無い。 「これは艦隊運用上の重大な障害です」　#ギガベース日誌_Re

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「わかってる……この短時間で代表にまであたったお前の有能さに驚きつつも策を考えているところだ……どうしたもんかね」 「そこでゴーヤから提案があるでち」 大淀の後ろで黙りこくっていた58は、待っていましたと言わんばかりの様子で大淀の前に踏み出した。　#ギガベース日誌_Re

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58は自らが着用するスクール水着の水抜き穴に手を突っ込み、肌と水着の合間にしまい込んでいた書類を提督に差し出した。 「お前これ今どこから取り出した？」 「細かい事気にしないの。はい読んで」　#ギガベース日誌_Re

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差し出された用紙には、DfJも見覚えのある海域の写真と、そこに58が書き込んだであろう拙い文字が記されていた。 「……オリョクル？」 「そう！オリョールクルージング！」　#ギガベース日誌_Re

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オリョールクルージング。略してオリョクル。 「オリョールは艦娘運用の黎明期、遡れば国家解体戦争の時代から、娘用燃料の原材料の産出地です。展開している深海棲艦の規模が小規模かつ、補給艦の航行ルートとなっている事から、潜水艦娘を利用した燃料の回収が盛んです」　#ギガベース日誌_Re

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「サインズが建設した専用の回収基地もあるんだって！ゴーヤ達なら残り少ない燃料でも動けるし、潜水状態のギガベースを拠点にすれば回収も用意でち。さ、とっととゴーヤ達を出撃させて？」 「ダメだ」 「は？」　#ギガベース日誌_Re

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58が表情を変える。敵意を隠そうともせずに自分を睨みつける58を、DfJもまた睨み返した。 「ギガベースの艦娘がちまちま深海棲艦潰して資源回収？うどん生地をこねるのにロードローラーを使うようなもんだ。だが目の付け所は良い。海軍の基地があるんだろう？だったら……」　#ギガベース日誌_Re