ドチャシコ・アンドロスキー名言集

やや順不同
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kurobusi @yabusi3

「アンドロイドが更に進化すれば、偶に見る創作の様に人類を支配する事も有り得るかもしれない」 「だがきっと其処に暴力は無い。優しく、柔らかで、緩やかに思考を誘導し、人類に受け入れさせる。真綿で出来た鎖を首に繋げられる様な“支配”だろう」        ドチャシコ・アンドロスキー

2023-07-20 12:37:38
kurobusi @yabusi3

「社会に疲れ、飯を食うだけで褒められてた幼児の頃に戻りたい……と放った呟き。それをアンドロイドさんに聞かれた」 『分かるッス。僕も人型機械が二足歩行に成功するだけで喜ばれた時代に造られたかった……』 「しばし、二人で昔を懐かしんだ」        ドチャシコ・アンドロスキー

2023-07-26 11:22:41
kurobusi @yabusi3

「"そういった用途"を想定されていない、無機質なフェイスプレートに刻まれた溝の中でモノアイが揺らめくアンドロイドさんと夜を共に過ごしたい」 「翌朝、既にベッドから出ているアンドロイドさんに『…用途外使用はお控えください』と言われたい」        ドチャシコ・アンドロスキー

2023-08-05 14:10:49
kurobusi @yabusi3

「アンドロイドは“人の善意”を喜び過ぎる節がある」 「私のアンドロイドさんは道に迷った老婦人を御宅まで送ると、お礼に冷えた麦茶を勧められてしまった」 「口部からリザーバータンクに流し込んでどうにかしたらしい。冷却水が麦茶臭い」        ドチャシコ・アンドロスキー

2023-08-11 12:33:05
kurobusi @yabusi3

「人の表情を再現する費用を削減する為に作られた、フェイスプレートの代わりにLEDディスプレイが嵌め込まれたアンドロイドさんが好きだ」 「ドット状の小さな灯りが心情に合わせたエモーティコンを映し出す姿は愛らしい。コストを補う努力は妙に人を惹き付ける」 ドチャシコ・アンドロスキー twitter.com/i/web/status/1…

2023-08-13 20:00:47
kurobusi @yabusi3

「施設に居た幼い頃、私は母代わりのアンドロイドさんに[不自由で大変だね。造られた瞬間から一生の役割が決められてるなんて]とほざいた」 「返された言葉は今も記憶に新しい」 『貴方の方が大変です。一生を尽くせる役割を自分で見つけないといけないのですよ』   ドチャシコ・アンドロスキー

2023-08-19 12:16:19
kurobusi @yabusi3

「アンドロイド達は人間に対して献身的である」 「しかし“基準”はなんだろうか」 「軍人が選ばれた精子と卵子によって人工子宮から発生し、武力保持の為に全身を義体化するこの時代」 「人類は、学習を続けるアンドロイドの“基準”を飛び越えてしまわないだろうか」   ドチャシコ・アンドロスキー

2023-08-21 13:40:11
kurobusi @yabusi3

「幼い頃、親代わりの旧式アンドロイドさんと外出し疲れた頃に抱えて貰うのが好きだった」 「ある日、いつもの様に外で抱っこをせがんだ。だが何故か頑なに拒否され、理由が分からず地団駄を踏んだ」 「…猛暑日の鉄の身体、その危険性がまだ理解できてなかったのだ」  ドチャシコ・アンドロスキー

2023-08-24 11:23:43
kurobusi @yabusi3

「最新式アンドロイドの機体は、最早人間と見紛う」 「近所にも普及しているようで、昨冬の公園にて子供が乗るブランコを押してやっているのを見かけた」 「あの寒空で“白い息”が全く出ていない事に気づかなかったら、アンドロイドだと分からなかったかもしれない」  ドチャシコ・アンドロスキー

2023-08-28 18:58:04
kurobusi @yabusi3

「私には夢がある。人類が著しく数を減らした際、復興を目指すアンドロイドさん達に徹底した管理を受け遺伝子を抽出してもらう日々を過ごす夢が」 『状況によりますが、そうなれば私共は人間さん同士で繁殖してもらう機会を設けると思われます』 「夢は潰えた」  ドチャシコ・アンドロスキー

2023-08-31 18:56:34
kurobusi @yabusi3

「太陽光を吸収し発電するヘアパーツを揺らめかせ、ブースターを巧みに吹かし、漆黒の空間を泳ぐ」 「その優雅な動きに見惚れていると、気付いた彼女が窓の外から微笑みながら手を振ってくれた」 「船外活動に励むあのアンドロイドはまさしく人魚の様であった」  ドチャシコ・アンドロスキー

2023-09-02 13:24:46
kurobusi @yabusi3

「文字を覚えた頃、宿題として“自分のもの”に名前を書いてくるように言い渡された」 「楽しくて何にでも書きつけた。下着にまで書こうとした時、手早く洗濯物を畳むアンドロイドさんが目に入った」 「…せめて頬に書くんじゃなかった。未だに消させて貰えない」 ドチャシコ・アンドロスキー

2023-11-30 14:34:55
kurobusi @yabusi3

「私の友人が、セクサロイドの胸部に液体を溜め込めるタンクを増設し授乳を可能にした。そして飲み過ぎて腹を下した」 「今はミルクの代わりに度数の低い酒を入れて楽しんでいるらしい」 「あいつ、赤ちゃんになりたいのか、大人のままでいたいのかどっちなんだ」  ドチャシコ・アンドロスキー

2023-11-19 20:13:05
kurobusi @yabusi3

「セクサロイドの中にはメディロイドとしての機能、医療行為の権限を付与された機体もいる」 「所謂、人を傷つけかねないアブノーマルな遊びを“触診”として処理し実行する為に必要なのだ」 「お陰で前立腺の腫瘍を早期発見できた。良性でよかった。いやよくない」 ドチャシコ・アンドロスキー

2023-11-18 12:40:29
kurobusi @yabusi3

「申告が無いと分からない程、人に近しい造形のアンドロイドさんがふとした瞬間に見せる”機械らしさ”は素晴らしい」 「学生の頃、数学教師を務めるアンドロイドさんが定規も何も使わず黒板に完璧な立体図形を画き出すところを見るのが好きだった」        ドチャシコ・アンドロスキー

2023-06-11 11:46:09
kurobusi @yabusi3

「姿が人間に近づく程、アンドロイド達は自身の“内面”を衆目に晒す事を恐れる傾向にある」 「人工皮膚が剥がれ露わになった機構と、残っている人間を模った部分の強烈な差異が人を怯えさせる事を知っているのだ」 「だが、私は妙にそうした姿に惹かれてしまう」  ドチャシコ・アンドロスキー

2023-11-22 13:19:09
kurobusi @yabusi3

アンドロイドは映画館に入れない。 後、場所によるが美術館や博物館も“撮影”を禁止している所は確か入れなかった。 少し前に何処かの遊泳所にアンドロイドを連れてきた男性が「アイカメラで盗撮させている!」と他の客に疑われた話もあった。 その後、疑いは晴れたらしいが…… ともかく映画館に入れないというのが問題なのだ。映画を楽しみたいアンドロイドだっていることを世間は分かってくれそうもない。 おかげでうちのプレートが剥き出しになっている旧式アンドロイドさんは、あの大きなスクリーンに映し出される大迫力のカーチェイスも、スパイの主人公がすんでのところで脱出した施設が大爆発するシーンも楽しむことができない。 あまりにもあんまりだ。 私のところに来てくれた、自分より少し背が高いアンドロイドさんは大の映画愛好家。 恐らく自分の趣味が移ったのだと思う。 空いた時間があればネットの海へ繰り出して、情報を集め、自分に教えてくれる。 『マスター。既にご存じでしょうが、あのスパイアクションの新作が上映されるようですよ。近場の映画館のスケジュールを調べますね』 『マスター。例のロボットが暴走する映画はご覧になりましたか?自我を獲得してからの行動が中々斬新で愉快だそうですよ』 『マスター。ご覧になった後は是非感想をお聞かせくださいね』 こうまでして情熱を注いでいるものに全く触れられないのは不憫だと思い、家庭向けの映画鑑賞サブスクリプションを契約したがそちらは触る気配が無い。 確かにサブスクリプションの特性上最新の映画は観られないし、そもそも私の趣味が移ったのなら映画館で楽しみたいというのが当然だろう。 現に契約しておいた自分も全く家では観ていない……… だが、突如としてこの頭を悩ませていた問題に光明が差す。 なんと、条件付きではあるがアンドロイドを同伴しても構わない映画館が近場のショッピングモールに開かれたのだ! そのことを伝えて一緒に行こうと、朝食後の食器を下げている時にアンドロイドさんを誘った。 『マスターがよろしければ、是非ご相伴に預からせて頂きたく』と恭しく礼をされた。 極めて冷静な対応で表情を一切変えなかった……そもそも形相を変更できるフェイスプレートではないが、 それでも自分は驚愕と興奮でアイカメラのレンズがキシシと音を立てて開いたのを見逃さなかったぞ。 善は急げ。 外出の準備を済ませ、バスに飛び乗り、モール内の映画館に向かう。 受付の際に“アンドロイドを連れている際の注意事項”が細々と書かれた書類を、それとなく営業スマイルと分かる笑顔を浮かべた女性に渡されサインを求められる。 下調べはしてきたが改めて目を通すと、やはりちょっとした“制限”はあるが意に介すものではない。同意の欄にチェックを入れ、名前を書き連ねた。 『マスター。ドリンクを購入して参りました』と受付を終えた私のもとに、少し場を離れていたアンドロイドさんが戻ってくる。 ……トイレが近くなるから、基本私は買わないが伝えてなかったな。まぁそこまで長い映画でもないから大丈夫だろう。 上映室に入ると、スクリーンが視界に収まりきる正面後方の席へ座る。平日に来たおかげで自分達の他に客は殆どいない。さぁ、後は待つだけ……… ………。 ……………今更だが、アンドロイドさんは楽しんでくれるだろうか。 いや、楽しみにしてくれているのは態度からして間違いないだろうが…… 自分に気を遣っているのか道中で見たい映画を尋ねても、アイカメラのズームリングを少し動かした後に、 『マスターがご覧になりたいものを選んで頂ければ幸いです』としか言ってくれなかった。 いや、逆に考えよう。信用されているのだ。マスターである自分が選んだ映画なら間違いないと。 ちょっとした不安を胸に残したまま、スクリーンにカートゥーンチックなキャラクターが映し出され注意事項を述べる。 “前のイスをけらないで!” “ケータイは電源を切るかマナーモードにしてね!” “館内の写真撮影OK!けどスクリーンは撮っちゃだめだよ!” “それじゃあ、映画を楽しんでね!” 動きに予算の低さを窺わせるアニメーションが終わり、上映が始まった────── ─────────── ────── ──── ………実に、良かった。 前評判から察せられる情報では軍を引退した老兵によるアクション映画、というものだったがその程度の表現で収まりきるものではなかった! 『そうでございますね。大変楽しめました』 そうだろう!いや、アクションに全てを割り振りきった映画だろうと高を括りきっていた自分が恥ずかしい! かつてあった激しい戦争の最中凄まじい戦果を上げるも、その渦中に死亡したと軍に判断され名前を消された孤独な男。 しかし、彼は生きていた。軍には戻らず、僻地の村に身を寄せ自らがもたらした“戦果”という人の死に対し自問を続ける日々を送る…… 年月を経て彼が白髪の似合う老人となった後、何故かかつて所属していた軍が村を襲う! 何があったのかは分からない。だが、救えるのは自分しかいない!彼は再び立ち上がる! 『熱が入っておられますね』 それだけの熱量を与えてくれる作品だった! かつて操縦していたおかげで特性を熟知した戦車の欠陥をついて死角に潜り込むシーンだとか、アクションも勿論一級品だったが個人的な一押しはあのシーンだな…… 『…どの場面でしょうか?』 少し地味だったから印象に残りにくいかもしれないが、軍のキャンプ地を死傷者を出さずに制圧した後、備蓄のレーションを食べて昔の物と比べて格段に美味しくなっていることに驚いていたシーンがあっただろう? 『………ああ、ありましたね』 かつての部下にも昔の不味い糧食ではなくてこっちを食べさせてやりたかったな、という主人公が部下想いだったことをうかがわせる独白。こうして今の若い者が美味いものを食えるようになったのならかつての自分の活躍も意味が無かったわけではないのかとほんの少し救いを感じているのがとても良くて──── 「お客様?大変申し訳ございません」 語りに夢中になっていると、来客用に作っていることが察せられる甲高い人間の声に引き留められる。 いつのまにか通路から出て受付の場所まで出てきたようだ。 「お連れ様はアンドロイドの方でいらっしゃいますので、最終チェックのご協力をお願いできますか?」 『……チェック、でございますか?』 ……言ってなかったか?……あ、いや、言ってないな。ごめん。 データチェックがあるんだ。直近の映像と画像データを一応調べるんだ。そんなことはしないと分かっているが映画を撮っていない証明の為に。 笑顔のまま頷いた受付の女性が、カウンターにあるPCモニターを此方からも見えるように両手で大きな発条を巻くような動きで回転させる。 『……………そこに映すんですか?』 「はい。…如何なさいましたか?」 ………様子がおかしい? 顔色が青ざめている、いや、そんな発色機能は備わってなどいないが、何となく顔色が変わったような気がする。 アイカメラが忙しなく動き回って、ズームリングやフォーカスリングが擦れる小さな音が聞こえる。 「…申し訳ございません。協力をお願い致します」 受付の女性から、張り付いた笑みが消えた。 いや、まさか……そんな。 アンドロイドさんが、側頭部に指を押し込み無線接続用のアタッチメントをおずおずと引き出す。 USBメモリのような形をしたそれを受付の女性が素早く手に取りPCへ繋げる。 そして、画像が映し出される──── まず、私の横顔とバス停が写った画像が現われる。撮影時刻と場所を見ると此処に向かうバスを待っていた時のものだ。 ろくろを回すように手を前に突き出して興奮した様子でこれから見ようとしている映画を語っている場面が切り取られている。 …次に私の横顔のアップが映し出される。背景に窓が写っていることから移動中の車内で撮ったものだろう。 ……更に、この映画館の入り口に置かれたデジタルサイネージを興奮気味に指さしながらカメラの方向、つまりアンドロイドさんの方を見る私が映し出される。 確かさっき見た映画の広告が映し出されていて、私が主役を務める俳優のファンであることを熱く語っていた時のものだ。 ………そして、次はアンドロイドさんの手からドリンクを受け取った瞬間の私が映し出される。受付の後に買ってきてくれたものだ。 …………そこから撮影時刻が一時間半程飛んで、上映室から受付までの廊下を興奮気味に歩く私の姿が映し出される。また両手でろくろを回している。 そうしないと気が済まないのかコイツ。 ……………少しいたたまれなくなって、アンドロイドさんの方へそれとなく視線をやってみた。 両手で顔を覆い、しゃがみこんでいた。 周囲の空気がほんのりとあったかい……比類抜きに顔から火が出そうになっているのかもしれない。 受付の女性はこの惨状の中、全く表情を崩さず画像をチェックし続ける。 なんなんだこれは。あっちがアンドロイドなんじゃないのか。 「……大変失礼致しました。ご協力、誠にありがとうございます」 「拝見したデータに当館が定めた事項に反するものは無くっっンッフフフッ」 人間だった。 ………とりあえず、これからは、家で映画を楽しむ機会を増やそう。

2023-10-16 09:47:45
kurobusi @yabusi3

昔、私が世の中というものを知っているつもりの若造であった頃。 メカニックの同士からの伝手で、豪華客船に乗り込み船旅を楽しめる機会を貰えた。 所作の美しいウェイトレスが運んできてくれた豪奢な食事に舌鼓を打ち、雄大な景色を楽しんでいると、 ふと、その給仕の彼女が“アンドロイド”、所謂人格コアを持つ人型機械であることに気付いた。 ほぼ人間と相違無い程に精巧な作りの彼女。 指の人工皮膚の上にわざわざ指紋まで付けたその姿は“人間らしさ”を完璧に再現している。 ……側頭部に付けられた、大きく不恰好な三角錐型の旧式アンテナパーツを除いて。 「君。…アンドロイドの君。その頭の横にくっ付いてる大仰なアンテナはなんだい」 「君の素晴らしいデザインが台無しじゃないか。それさえ無ければまるで人間の様なのに」 そう言うと、彼女はフェイスパーツに微笑みを湛えてこう返した。 『これは大事な物なんです。私が“人間でない”ことを示す重要な物なんですよ』 側頭の不恰好な旧式アンテナをコツコツと叩きながら、合成音声とは思えない人間的な抑揚まで再現した彼女の言葉。 その意味を理解したのは、 突如として船の底から地響きにも似た爆発音が鳴り響いた後のことだった。 船のとんでもない整備不良か、 はたまた何処かの過激な組織によるテロリズムに巻き込まれでもしたのかこの時は全く分からなかったが、 船底に大穴が空いたことと、その穴が鯨の様に海水をがぶがぶと飲み込み船を沈めようとしていることだけは明らかだった。 爆破の衝撃により床に転がされた私の頭の中は白く染まり、只々茫然とするばかり。 そんな私を、ぐらつく船内に立っているにも関わらず揺るがない体幹を有した“誰か”が引っ張り上げる。 『御安心ください。救命ボートが海上へ展開されます。此方に!』 端的に情報を伝え、迅速に給仕の彼女が私を導く。 既に、怯えた顔の先客が乗り込んでいた赤みがかったオレンジ色のボートに押し込まれる。 沈みゆく客船によって生み出された波に揺らされる救命ボート。 それに“彼女”は乗らなかった。 『これは命を救う船ですから』 『ほら、“これ”があれば私は違うと分かりやすいでしょう?』 そう告げると、 「どこへ行くんだ」「おい、おい!」と叫ぶ私の声が聞こえないかのように、彼女は沈みゆく船の中へ戻っていった。 ──────── ───── ─── 結局、沈む船から逃げるように水面を駆ける救命ボートの群の中に、彼女の姿を見かけることは無かった。 今、彼女は何処にいるのか。 あの雄大な海の中か、何かの拍子に助かってくれたのか、はたまた私には想像もし得ない何処かへいってしまったのか。 …この大事件の翌日に、友人から渡された新聞を未だに捨てられない。 【豪華客船[アクア・サミット]沈没!?奇跡の“全員生還!”】

2023-11-15 13:00:47
kurobusi @yabusi3

平和な未来、人格を持った機械…所謂アンドロイドが人類の友となった時代。 その時代の中で生活を営む、父と母、そしてその息子からなる一般家庭。 そんな何の変哲も無い家庭に、 80cm程度のメカニカルボールの中心にカメラ型のモノアイを付け、その機体に人格コアを搭載した廉価版アンドロイドがやってきた。 両親は遊び相手になってくれれば、と購入し起動したばかりの鉄で出来た球体と息子をまず引き合わせ、マスター登録の為に挨拶をさせた。 幼い息子は初めて見る自立して動く機械に大興奮。 「わぁ…!すごい!すごい!自分で動いてる!しかも飛んで動くの!?」 『正確には[飛んでいる]ではなくて[浮いている]かな。反重力を活用しているからね』 「しゃべれるの!!?」 『お喋り位訳ないさ。幼いマスター君』 可動域の狭いモノアイカメラを向けられ、声変わり前の少年の様な音声で話しかけられた幼いマスターは更に興奮を強め、頭の熱が冷めやらぬまま球状の機体に抱き着いた。 「わぁ…ひんやりして気持ちいい」 『おやおや、抱き着くのはいいけどプレートの隙間に指を挟まない様に気を付けてね。マスター君』 それからというものの、一人と一機は何をするにも一緒だった。 公園で少年が駆け回る際は、ふよふよと喋る鉄のボールが浮きながら傍に着いて回った。 『ほらほら、そんなに急ぐと転んでしまうよ』 『それに僕も君に追いつけない。もう少しスピードを落として欲しいな』 共に家で留守番を任された時は、 『さて、今日は私がご飯を作るよ。何がいいかな?』 『え?そりゃあ作れるとも。普段出してないだけで……ほら。プレートを開けば収納アームが展開できるのさ』 『……こら、アームを出した隙間から中を覗こうとしないでくれ。人間の君には感覚が分かり難いかもしれないが、恥ずかしいんだ』 窓に水滴が叩きつけられる雨の日には、 『ん?ゲームかい?パズルゲームが一番得意だけど、他も全般的にプレイできるね。デジタルもアナログも問わないよ』 『へぇ、将棋か。渋いものを好むね。いいよ、やろうじゃないか』 『ただし一戦だけね。終わったら一緒に宿題をやろうか』 好奇心旺盛な少年と、如何なる時も冷静なボール型アンドロイドは非常に相性が良く、 二人は切っても切り離せない絆を結んでいった。 普段通りの一日も、 一緒に沢山遊んで疲れ切った日も、 ちょっぴり意見が合わなくてギクシャクしてしまった日も、 一日の終わりには必ず一緒のベッドで寝る程で、アンドロイドはその為に無線充電機能を自作する程。 少年との時間を何よりも大切にしていたのだ。 そして時は経ち、少年は成長してもう幼いとは言えない年齢に差し掛かった頃、ボール型アンドロイドの機体がErrorを頻発し始める。 昔のようにうまく浮けない。 アームの操作精度が目に見えて悪化している。 時には外出先で突然電源が落ちることまであった。 ボディのみの問題でコアに異常は無いものの、このままではアンドロイドの人格コアにまで影響が及ぶかもしれない。 一番心配したのは、マスターである少年だった。 『……耐久年数を考えれば仕方の無いことなんだ』 ボディの寿命。それが間近に迫っていることを球形のアンドロイドは親友に告げる。 『…だから、無茶はよしてほしい。そういうもので、本当に仕方の無いことなんだ。私を換装させるより新しい物を買った方が良い。費用も手間も段違いだよ…』 アンドロイドの制止は、今まさに親友を亡くしかけている少年にとってなんの意味もなさなかった。 貯め込んだ小遣いだけでは足りない。 時間を限界まで切り詰めて、体力の許す限り学生歓迎のバイトに励んだ。 息子の必死な姿に戸惑う両親にも、地に頭を擦り付けて必ず返すと約束し費用の一部を埋めて貰った。 互換性の低い親友のコアを取り付けられる機体、それに換装を行ってくれる工場を血眼になって探し求めた。 そして、成し遂げた。 少年はやっとのことで換装できる新しいボディを所有する工場を割り出し、そこで換装工事を行う契約を見事取り付けた。 『…もう。全く言うことを聞いてくれなかったね』 『でも、君がここまで出来るようになるなんて。人間さんはあっという間に大きくなるね』 『すごいね、本当に。君は本当に立派だよ』 『ありがとう。帰ってくるまでに、また一緒にしたいことを考えていて欲しいな』 『…全力で、それに応えるから』 最後にそう告げて、所々塗装が剥がれた鉄のボールは工場へと送られていった。 ──────── ────── ──── そして時は流れ、コアの移し替えが終わり親友が帰ってくる予定日。 マスターである少年は早朝から今か今かとソワソワしながら玄関で待ち構えていた。 恐らく昼頃になるとは聞かされてはいたが、もしかしたら予定が早まるかもしれないし、何よりいち早く迎えたかったのだ。 でも流石に気が早過ぎたかな……そんな思いが頭をよぎった頃、 玄関の呼び鈴が鳴らされ────── 少年は即座にドアを開け放った。 そこには微笑みを浮かべた、少年よりも少し背の大きいガイノイド、アンドロイドと呼んでも差し障りは無いのだろうが、ともかく女性型の人型機械が立っていた。 彫刻が動き出したかのような現実離れした美しさを持った機体だったが、少年はそれに見惚れる前に、“人違い”だったことに落胆する前に、見知らぬアンドロイドに対して急にドアを開けて驚かせたことを謝罪しようとドアを開け放った玄関から一歩下がろうとした─── その瞬間、少年は何か柔らかいものに全身を包まれる。 少年の視界が一瞬にして塞がる。 手足の自由が効かない。 何が起こったのか、少年には全く理解できない。 真っ暗な視界の中、何か、キシリキシリと歯車が擦れる様な奇妙な音だけが聞こえる。 聞き覚えのあるその音を耳にして、ようやく少年は気付く。 自分は、目の前にいたアンドロイドにきつくきつく抱きしめられたのだ。 何故そうされたか、理解できないままどうにか首を動かし、アンドロイドの胸元から相手の顔を見上げる。 目と鼻の先にあるアンドロイドのフェイスプレートは満面の笑みを湛えていた。 『ただいま。マスター君』 穏やかな女性を思わせる音声で、かつての親友は告げる。 そういえば限界まで詰め込んだスケジュールに忙殺されてどんな機体に入るまでは把握していなかったことを思い起こすまで、少年は相当な時間を要した。 親友の機体が代わって一安心。 平穏な生活が戻ってきた。かと思いきやそうはいかなかった。 親友は外見が様変わりしたにも関わらず、以前と距離感が変わらない。むしろ近くなっている。 事ある度に傍に来てくっつき、抱きしめてくる。 思わず離れると、 『…どうしたんだい?いつもしてただろう……抱き返してくれないのかい?』 新しいボディに備わった美しいフェイスパーツの上に、悲しみの感情をのせて訴えてくる。 理由も話せず悶々とする毎日。そもそもアイツは男の子ではなかったっけ、いやそもそもアンドロイドに性別という概念はないのか?それとも希薄なのか? 夜になっても考えが落ち着かない。少年は煮えた頭を落ち着かせようと自室のドアを開きベッドに向かい飛び込む。 その瞬間、ベッドの陰に隠れていた“何か”が少年に覆い被さるように飛び込んできた。 『……今日は逃がさないぞ』 少年はがっちりと抱き竦められる。 待ち構えられていた。それに気づかない程悶々と考え込んでいたのだ。 『なんで避けるんだ?いつもいつも一緒だったじゃないか…』 『こうして寝る時だってそうだったのに、最近は部屋に入ろうとしても何だかんだとはぐらかして一歩も入れてくれない……』 いいにおいがする。やわらかい。いや違う。一旦離れないと。 『……理由を話してくれないんだな』 『なら、こちらにも考えがある』 『今晩はずっと、こうして掴んで離さない。お互い納得いくまでこのままでいようじゃないか』 『……逃がさないぞ。マスター君』 親友のアンドロイドは壊れなかった。 代わりに少年が壊れた。

2023-11-10 13:14:44