エリザ氏による、英国空軍の迷走を吹き飛ばす、バカが飛行機でやってくる、の顛末

16
エリザ @elizabeth_munh

いんたーねっとRAFちゃんねる

エリザ @elizabeth_munh

1968年4月5日、RAFの主力戦闘機、ハンターが単機でロンドンに飛来し、這うような高度で轟音を響かせながら飛行する。その行先にはタワーブリッジがあった。 バカがヒコーキでやってくる。 pic.twitter.com/dKz5SSazrm

2023-08-29 17:16:46
拡大
エリザ @elizabeth_munh

大戦後、勝利の立役者RAFは一転して日陰の存在に落ちた。軍用機の開発はお金がかかる。左右の政党が互いの計画を政争の具にして脚を引っ張り合った結果、RAFの軍用機開発計画は混乱する。 そこにきて更に混乱に拍車をかけたのが、ミサイル万能論だった。

2023-08-29 17:20:13
エリザ @elizabeth_munh

「誘導ミサイルが発達すれば、戦闘機は単なるミサイル発射プラットフォームとなり、格闘戦は生じない」 こうした思想が先進国で流行した結果、次世代戦闘機のコンセプトを如何にすべきかは混迷の中に陥り、そこに来ての軍縮、予算不足はRAFに影響を与えた。

2023-08-29 17:22:51
エリザ @elizabeth_munh

「もう全部ミサイルでいいんじゃないか」 左派、労働党政権は対空ミサイルがあれば防空戦闘機も要らないのではと考え、RAFの予算を削減する。RAFは不満を持ち、戦闘機パイロット達の士気は落ちた。 さてそんな状況の1968年、この年はRAF誕生から50周年。これを祝賀する式典もあった。

2023-08-29 17:25:58
エリザ @elizabeth_munh

しかし折からのRAFへの逆風を反映してか、式典は空軍にも関わらず地上パレードと食事会のみと非常にしょぼくれたものとなり、つきもののエアショーはなし。 これに1人のパイロットが激怒した。 「バカな! 飛べないRAFはただのデファイアント製造装置じゃないか!」

2023-08-29 17:28:17
エリザ @elizabeth_munh

RAF最古の部隊である第1スコードロンに所属するアラン・ポロック大尉は政府の決定に反対し、密かに計画を練る。 「なら、俺がRAFを代表してロンドン上空でエアショーをやってやる!」 こうして4月4日、他のパイロット達とハンター戦闘機で編隊を組んで移動中のポロックは意図的に編隊から離れた。

2023-08-29 17:31:56
エリザ @elizabeth_munh

『ポロック大尉、聞こえますか? ポロック大尉? 何処にいるのですか?』 雲間に紛れて編隊から離れたポロックに通信が飛ぶ。 「何だ? 通信の不良か? よく聞こえない。くそ、視界不良だ。先に行っててくれ」 もちろんちゃんと聞こえてるけどポロックはしらばっくれた。

2023-08-29 17:33:35
エリザ @elizabeth_munh

そうして僚機を撒いたポロックは高度を50m以下に落とし、レーダーを掻い潜ると、ロンドンを目指してテムズ川のど真ん中を進み始めた。 そして政府議会が使用するウエストミンスター宮殿が見えてくると、これ見よがしに轟音を上げて周囲をぐるぐると回り出した。

2023-08-29 17:36:22
エリザ @elizabeth_munh

「な、何だあの戦闘機は!」 窓がビリビリ震える轟音に政府要人は唖然とした。 「ひえっ! 空の上じゃなくて、真下を飛んでる!」 皮肉な事にこの時の議題は騒音公害の低減についてだった。

2023-08-29 17:38:05
エリザ @elizabeth_munh

RAFの怨敵を脅し上げて気が済んだポロックは空軍記念碑に向けて飛び、翼を振って敬意を表明して空軍設立50年記念1人エアショーの体裁を整える。 その後、いくつかの橋を超えた時、彼の行先に特徴的な跳ね橋が見えてきた。 「タワーブリッジだ! 何てこった。存在を忘れてたなんて!」 pic.twitter.com/EzotnFH4ne

2023-08-29 17:41:16
拡大
エリザ @elizabeth_munh

橋の上を飛ぶのにも飽きてきたポロックの中にある欲求が生まれる。 全長244m、桁下高44.5m。ジェット戦闘機にとっては針の穴にも等しい狭さ。 (潜り抜けたい。戦闘機パイロットなら一度は誰でも思うはずだ) そう思っている間にもハンター戦闘機は高速で飛ぶ。あまり時間がない。

2023-08-29 17:45:09
エリザ @elizabeth_munh

「やるか!」 毒喰わば皿まで。ポロックは即興でタワーブリッジを潜る事を決意し、機体を誘導する。通行中の自動車のドライバーやサイクリスト達が唖然として見守る中、ハンター戦闘機は猛スピードでタワーブリッジに突進した 「ぶ、ぶつかるぞ!?」 ぐんぐん近づく戦闘機に通行人達が腰を抜かす。

2023-08-29 17:47:46
エリザ @elizabeth_munh

「イーーーヤッホゥ!!」 神業じみた操縦でポロックのハンターは見事、タワーブリッジの桁下をくぐり抜ける。ジェット戦闘機でタワーブリッジを通過したのは後にも先にもポロックただ1人だった 「これぞブリティッシュスピリット!」 唖然とする地上の人々を尻目に、ポロックはロンドンを後にする pic.twitter.com/ffknSVS6oD

2023-08-29 17:50:22
拡大
エリザ @elizabeth_munh

降りたら最期二度と飛べない覚悟のポロックは空飛ぶ無敵の人であり、基地に帰投するついでにいくつかの基地へと殴り込みをかけ、地面スレスレを背面飛行し、襲撃を繰り返した。 「な、何だあれは!? 何処のバカだ!?」 本物のバカだ!

2023-08-29 17:52:22
エリザ @elizabeth_munh

そうして基地に帰投したポロックはやっと着陸し、1時間後、やり遂げた男の表情で逮捕された。 翌日、ポロックの大胆なエアショーにイギリス中が大爆笑し、無数のファンレターが舞い込む。イギリス旅客機公社はビール樽を彼に送った。退役パイロット達は一様に彼を讃えるメッセージを出す。

2023-08-29 17:55:37
エリザ @elizabeth_munh

ポロックは軍法会議に出る気満々で、その場で政府のめちゃくちゃな空軍政策を批判してやろうと考えていたものの、意図を察した政府はポロックを精神、健康上の理由で軍務に耐えないとして除隊させる。にわかに湧いた国民的人気も怖かった。 「ちえっ、政府を糾弾する筈が。チキンなやつらだな」

2023-08-29 17:58:40
エリザ @elizabeth_munh

とは言え、ポロックの行動は無駄ではなく、彼の行動に刺激された議員達が政府の空軍政策への批判を展開する事になる。 しかし除隊は仕方ないし、精神上の問題で軍務に耐えないのも間違いはないでしょう。RAFの歴史を見渡してもここまでのバカはそうはいないのだから。

2023-08-29 18:01:33
ダレルタイター @DaTa_jp

@elizabeth_munh 地図で辿ってみたら300km位に渡り好き勝手してたみたいですね…… それにしてもタワーブリッジの中央部、高さ約30m×幅66mを潜り抜けたのは、相応の技量と何よりも馬鹿さがあったからなのでしょうね…… pic.twitter.com/OKD29GWSob

2023-08-29 18:37:54
拡大
ふたやん @wTZcWisshsVdSjT

@DaTa_jp @elizabeth_munh まあ怒りはわかるし、笑い話にもなっているけれど、国家の財産であり国民の血税である当時の現役戦闘機を、1パイロットが完全に私的利用した訳で、実のところかなり恐ろしい事件ではある 議員を動かしたというのも「このままだと吹っ切れて続く軍人が出かねない」というガチな面は大きかったと思う

2023-08-29 19:33:59