- uf_arkadia
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ここはどこだろう? そんな当たり前の疑問も出てこない、まだ物心がつく前。 それでも自分が何をすればよいか、なんとなくわかっていた。 本当的に刻まれた何かに突き動かされ、歩みを進める。
2023-08-31 21:30:00この頃はまだよかった。 本能に従って行動していれば自分の存在価値を見出すことができた。 しかし、そんな日常もすぐ終わった。
2023-08-31 21:31:00妹が生まれたのだ。 妹が誕生した瞬間わかってしまった、ああ、自分の宿命は今こいつに移ったのだと。 あれ?じゃあ自分の存在理由は? これも本能だろう、もうこの世界にとって自分はいらない存在なのだと、鮮烈に思い知らされる。
2023-08-31 21:32:00……冗談じゃない。適応してやる。 特に好きではないが、自分を生み出した存在が何を求めているのか、それもわかっている。 だから、適応する。必ずこの世界で生き残ってやる。
2023-08-31 21:33:00妹が誕生してから数日。どうやら、複数の人間がやって来たようだ。 この場所には自分と同じ知能を持つ生物が妹を除いて存在しないので、かなり珍しいと言える。 ちなみに、その妹にもまだ会ったことはない。 なので、実は“会話”ということをしたことが生まれてこの方なかった。
2023-08-31 21:35:00調べたところ、どうやら妹はその複数の人間と共に行動しているらしい。 奴等の現在地はあの砂が溢れている場所。 会ってみよう、何も変わらないこの日々が変わるかもしれない。
2023-08-31 21:36:00知識としては持っていたが、これが勇気を振り絞るということなのだろうか。 そんな思いを胸にとうとう人間たちと遭遇した。 ええっと、確か会話の基本は最初に今日の天気とか言えばいいんだっけ?
2023-08-31 21:37:00「本日ハ晴天?トテモ良イ天気。初メマシテ。コンバンワ。ゴキゲンヨウ。妹?安全、誰?怖イ。ソレトモ?母、言ッテタ。君ガソウ?多分?自分?名前、プロトタイプ。ラシイ?君ラガ言ウ。ボス…ダヨ?」
2023-08-31 21:38:00なんか、あまり上手くいってない気がする。 知識の発音と、自分の発音が何か違う気がするが伝わっているといいのだが…。 なんてことを考えていると人間は武器を取り出した。
2023-08-31 21:39:00…その瞬間、悪寒。ああ、そうか、あの武器は自分らを殺すために作られている。 あの人間たちは自分を殺すことを目的としている存在だ。 これも本能。 気付いたら武器を構えた人間の腕を切り落としていた。
2023-08-31 21:40:00あの刃を見ただけであの人間たちとの和解は不可能だと感じる。 感じるのだが、 (ああ、やはりお前は特別なんだな。) 妹はこの集団に混ざっても正気を保っていられる。
2023-08-31 21:41:00でも、いつか必ずこのままでは妹は不幸になる。奴らとは、種族が、境遇が、目的が、何もかも違うのだ。 思いがけず戦闘になってしまい、かなりの反撃を受けた。 勝てる見込みもないので逃亡を謀るが、最後に年長者として一言残すこととする。
2023-08-31 21:42:00その後も洞窟エリアで人間たちに遭遇。 今まで培ってきた技術も用いたが、またもや劣勢で逃亡を謀った。 自分もこの世界に適応するために着実と力をつけているが、人間たちも成長を遂げている。更に数も多いから質が悪い。
2023-08-31 21:45:00妹に言った約束も、この調子では、自分一人の力では守ることもできないだろう。 強大な力を持つ人間たちに自分一人ではもう太刀打ちできない。
2023-08-31 21:46:00NONAMEがはじめに自分に与えた宿命、唯一の知能を持つ存在としてこの星を神の力なしで発展させること。 そんな大層なこと、約束1つも守れない自分が成し遂げられるはずなかったのだ。
2023-08-31 21:47:00NONAMEがプロトタイプに早々に見切りをつけて、別の世界からの記憶を持った魂を自分で作った器に入れるという計画に移行したのも頷ける。 それからも、自分と同じ存在であるボスの一角が打倒されたり、NONAMEとも関わりを持つ者も現れたりと、人間たちはどんどん成果を上げていく。
2023-08-31 21:48:00自分も最初と比べるとかなり人間の身体に近づいるが、それだけだ。 ふと近くに生えている目玉を揺らしながらこちらをじっと見つめてくる植物、人間たちが名付けた名前が…ディスビラだったか?が目に入った。
2023-08-31 21:49:00自分…人間を独自で作るための試作品である俺の更に試作品。 それでも本質は変わらない。こいつも俺も、別の誰かに生きる意味を取って代わられた存在だ。 陰鬱なことしか思い浮かばない日常の、そんなある日、自分と同じボスである、クイーンふあんふあんが訪ねてきた。
2023-08-31 21:50:00これはそろそろ大きく事が動くな、とそんなことを考えているとクイーンふあんふあんとは別の声が聞こえてきた。 “あの子に協力してやってね。” 結局、自分は最期まで、生みの親であるNONAMEに会うことはできなかった。
2023-08-31 21:51:00それでも、生涯で、母の声を聞くことができたのはまだマシな方かなと、そう考えてしまう。 そんな考えを持ってしまう時点でもう、自分はこの世界では生きていくことができないことはわかっている。
2023-08-31 21:52:00彼女の声を聞いただけで、もう自分に最期を悟ってしまったのだから。 生き残ってやると誓った日から、努力はしてきた、工夫も凝らした、けれども宿命には抗えなかったようである。
2023-08-31 21:53:00