右園死児報告の真島文吉新作ノベル。アメコミヒーロー小説『ラーヴァマン』。
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私は見栄えが良い。20代のブロンド美女で、服も化粧も完璧。男なら、誰もが私をとびきりのイイ女だと思う。でも、女はダメだ。女にはバレる。私がファッション雑誌や映画雑誌のモデルをパクってることが。人の真似をしてるだけだってことが。看破した女の中には、すれ違いざまに私を鼻で笑う者もいる。
2023-09-20 21:31:41私には自分が無い。親や教師は私に「シャーリー・クービーズみたいになれ」とか「マーシャ・ウォルコットになれ」とか言い続けた。つまりは映画スターか歌手になれと期待を寄せた。そのための教育もされた。でも、私には演技も歌も合わなかった。私は絵描きになりたかった。でもそれは許されなかった。
2023-09-20 21:31:56私の顔と関係ないから。持って生まれた見てくれの良さを生かせないから。私は才能の無いことをやらされ続けて、そして見捨てられた。ストレスで体と心を壊したから。病気のネズミみたいに醜くなったから。もう成人したんだからひとり立ちしなさいと言われた。壊れた心と体を押し付けられて。
2023-09-20 21:32:14私は自分に見てくれ以外の価値がないことを思い知らされた。だからコーヒーショップでウエイトレスをして、得たお金は全部自分を立て直すために使った。健康的な食事、ストレッチと筋トレのためのグッズ、美容用品、服と靴、化粧品。顔に化粧してる時は、本来の絵描きの自分に戻った気になれる。
2023-09-20 21:32:31でも、私には自分が無い。なりたい自分が無い。映画スターか歌手、せめてモデルでなければ、許されない。だから雑誌を買って、彼女達の顔になる。なれる他人になる。そっくりさんと言われるほど外見を似せる。私はまるで、良い女のコピー。バレないように毎月外見を変えるから、余計にいびつになる。
2023-09-20 21:32:45怖いのは、見捨てられること。昨日まで優しかった人に冷酷な態度を取られること。美しくなければ。魅力的でなければ。美人をチヤホヤする人の少なからずは、ブスに異常なほど非情だ。悪意を向けられたくない。でも、本当は、そんな人たちのために頑張りたくない。本当に優しい人と付き合いたい。
2023-09-20 21:33:00私自身が、優しくないから。だから優しい人と出会えないのは分かっている。自分より醜い女を見ると安心する。自分は大丈夫だと安堵する。最低のクソ女。でも、そんな人間になってしまったのは、絶対に私のせいじゃない。
2023-09-20 21:33:14化粧品ではなく、画用紙と絵筆を買いたい。好きなだけ絵を描いて、絵に埋もれて、そして気が向いたらおしゃれをしたい。自分が一番したいことを最初にしたい。なのになぜ、その順番を、自分で決められないのか。
2023-09-20 21:33:28ある日、最悪なことが起きた。一生懸命生きていた私を、得体の知れない連中が逮捕した。目隠しをされて、車に乗せられ、次に視界が戻ったのは暗い取り調べ室だった。私が捕まった理由は、私がある重要人物の外見を盗んだからだった。街のスーパーヒーロー、ラーヴァマン氏の婚約者。クレア・ミリガン。
2023-09-20 21:33:43顔も、髪型も、服も靴もネイルさえも、なぜクレアそっくりなのか。我らがスーパーヒーローの恋人に化けた理由は何か。その姿でどんな悪事をするつもりだったのか。恐ろしい顔の尋問官に正直に真実を話しても、ますます怒鳴られるだけだった。私はクレアを雑誌で見ただけで、悪意など無かったのに。
2023-09-20 21:33:56私は悪いことをしたのだろうか。スーパーヒーローやその恋人というのは良い人のはずだから、直接話せれば分かってもらえる。そう思ったけれど、絶対に会わせてもらえなかった。そもそもこの尋問官達は何なのか。どこの機関のどういう立場のエージェントなのか。
2023-09-20 21:34:10かろうじて分かったのは、私の逮捕を指示したのは市長ということだけ。私はどことも知れぬ暗い牢の中に入れられ、ありもしない陰謀を吐くよう責められた。時計もない薄暗がりの中で、私は枯れるまで泣いた。食事はビスケットと、豆のスープ。それと信じられないほど臭い水。でも、やがて私は気づいた。
2023-09-20 21:34:24闇の中にひとりでいれば、もう私は見てくれを気にしなくていい。誰も私の顔に期待しないし、失望もしない。そしてこの牢の中は、私の王国だ。コンクリートの壁に、食器のスプーンで絵を描き始めた。描きにくいが、誰も描くことをとがめない。私の絵。私はまず、ユニコーンを描いた。
2023-09-20 21:34:38「……悪かったよ。君達に教えると要らん不安を抱かせると思ってね。私の部下を使って処理させようと思ったんだ。だが、君も大概じゃないか。私に話を通さず収容所に踏み込むなんて。何?そうだよ、政治犯収容所だ。大統領も同意してる。この街は特別なんだよ。完全に合法だ。非公式施設ではあるがね」
2023-09-20 21:35:10「ああ、判明したよ。テレサ・フィッシャー。一通り洗ったが、スパイ活動に関わっていそうな気配は皆無だった。貧乏ウエイトレス。家族とは絶縁状態。まあしばらくは保護施設に入れるよ。まともじゃないからな。……私のせいじゃないよ。元々おかしかったんだろう」
2023-09-20 21:35:26「君が救出者として牢を破った時、魔女のごとく襲いかかったそうじゃないか。何だったか、そう、私の暗闇を返せ、とか何とか。私を見ないで、だったか。イカれてるよ。首を噛まれたそうだな。一応精密検査をしておきたまえ。どんな病気を持ってるか分らんぞ」
2023-09-20 21:35:39「なあ、アンディ。そう怒るなよ。大いなる偉業のためには犠牲は付きものだ。君と私がこの街を、この国を変えるんだろ。今まで通り良きヒーロー良き市長のタッグで行こう。ホームズとワトソンだよ。な。あの女、テレサは治るまで公金で面倒見るから。ああ、約束だ」
2023-09-20 21:35:52「君は彼女を救ったんだ。そうとも。酷い誤解からな。この件はそれで終わりだ。そうそう。話は変わるが先日のポテトヘッドの件、潜伏先が判明してね。君自身に逮捕してもらいたいんだが、ご都合いかがかな……」 了
2023-09-20 21:36:06ラーヴァマンが最初に戦った悪党は、クラックってやつでな。先端がクルクル渦を巻いてる光線銃を持ってやがった。もちろん光線なんか出やしない。オモチャで、引き金を引くとビカビカ光るだけだ。でもクラックは、元レスラーでな。光線銃光らせながらラーヴァマンに組みついて、腕を折っちまったのよ。
2023-09-20 23:55:09元レスラーの異常者。体重120キロの、マイケルバニーのTシャツ着た犯罪者。まあ正直、ラーヴァマンよりキャラが立ってたな。腕を折られながらも執念で何とか制圧したんだが、こんな有り様じゃ危なっかしくて仕方ないってんで、次からは俳優を雇ってヤラセバトルをすることになった。
2023-09-20 23:55:232年くらいはヤラセでつないだんじゃないかな。腕が治るまで。ラーヴァマンの再訓練が終わるまで。俳優は8人、ローテーションで敵役を演じて、50人くらい架空の悪党を世に放った。俺?俺は7人演じた。ブラッディ・サム、バーグラー・ジョー、他の俳優と抱き合わせでツインズ・ボブなんてのもやったな。
2023-09-20 23:55:37面白いんだよ。公務員のおっさんがカートゥーンみたいな衣装やマスクを持ってきて、次はこれでやってくれって頼んでくるんだ。最初の敵のクラックのキャラが相当トラウマになってたんだろうな。俺達がカートゥーンなキャラを演じて新聞に載るから、その内本物の犯罪者の間でもそういう衣装が流行った。
2023-09-20 23:55:51罪作りだよな。いい年した連中がふざけたカッコで暴れるもんだから、何か楽しそうだってんで、若い奴らが善人も悪人も無くコスプレして悪さするのが流行した。治安への悪影響だよ。さすがにまずいってんで、ヤラセを中止してパワーアップしたラーヴァマンが本物と戦い始めたってわけ。
2023-09-20 23:56:04