スワローズ妄想劇場【3番 ショート兼探偵 川端慎吾】その7

スワローズ妄想劇場【3番 ショート兼探偵 川端慎吾】その7(最終話)です。ご愛読有難うございました。
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スワローズ妄想劇場 @swa_mou

スワローズ妄想劇場【3番ショート兼探偵 川端慎吾】その7 川端は車を銀杏並木の端に停め、森と呼べるくらいの木々の中に入っていった。砂利の上を歩く自分達の足音が響く。程なくして巨大な石碑を見つけた。そしてその先に、先程の木とは比べるとだいぶ小さい木があった。 #swamou

2011-12-04 18:11:46
スワローズ妄想劇場 @swa_mou

「ここで憲法発布観兵式、日露戦役凱旋観兵式などが行われた際、明治天皇の御座所は常にこの榎の大木の西側に設けられていましたので、この木を『御観兵榎』と名付け、現在に至ってます」とある。元々の木は台風で折れてしまったようだが2代目の木が成長していた。 #swamou

2011-12-04 18:12:31
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ただ、先程の生け垣と違い範囲が広い。(何処を掘ればいいのやら)と途方にくれていると「ねえ、これ見て!」友紀が呼ぶ方を見ると石碑の所でしゃがみ込んでいる。近付いて見ると、友紀の指差す所、石碑の根本にうっすらと菱形のマークが掘られていた。 #swamou

2011-12-04 18:13:34
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これが目印だとするなら、ちょうど友紀のしゃがみこんでいる辺りに埋まっていることになる。「よし、掘るぞ!」川端は友紀をどかし、スコップを振るう。絶対にここにある。そう感じていた。「なにが埋まってるのかな?」友紀が独り言のように呟く。 #swamou

2011-12-04 18:14:20
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「あの施設の部屋。飾られているはずの物に1つだけ足りなかった物があった。多分・・・」その時、ガキン!という音と共にスコップが何かに当たった。回りを丁寧に掘り、その物を取り出す。長細い鉄製の箱であった。「開けるよ。」「うん。」 #swamou

2011-12-04 18:15:26
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二人が蓋を開ける。中に入っていた包みを取り除くと、そこにあったのはバットと紙であった。それは木下老人へ宛てた手紙だった。「木下君。『最後に神宮でバットだけでも振ってほしい』という君の願いは叶えることが出来なかった。すまない。僕らはこのまま部隊へ配置されてしまう。 #swamou

2011-12-04 18:16:07
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僕らはきっと還って来ないだろう。君のバットを返すことも出来ない。だから僕らの希望とともにバットを埋めておく。いつか、この神宮で、このバットで、思いきり野球が出来る日が来るように、この後の日本を頼む。」横で読んでいた友紀が嗚咽を洩らす。 #swamou

2011-12-04 18:16:58
スワローズ妄想劇場 @swa_mou

「ここに急遽埋めたけど、それを伝える方法が残されて無かったんだろうな。こんな天皇家にまつわるような所に埋めたなんて分かったら刑務所行きだ。きっと戦地から検閲も潜り抜けられるようにあんな地図にしたんだ。」川端は涙を浮かべながら、きれいに穴を埋め戻し、病院へ向かった。 #swamou

2011-12-04 18:20:12
スワローズ妄想劇場 @swa_mou

面会時間を過ぎていたが、あの看護士は通してくれた。「だいぶ悪いようです。もう・・・」という言葉に心臓が握り潰される思いだった。川端はベットの横へ歩み寄り「木下さん。約束のバットですよ。」と語りかけ、木下老人にバットを握らせた。 #swamou

2011-12-04 18:21:57
スワローズ妄想劇場 @swa_mou

軽く握り返す感覚のあと、目から涙がこぼれた。後ろから看護士が声をかける「川端さん、これ以上はもう・・」二人はバットを枕元に置き、病院を後にした。・・その夜、木下老人はチームメイトの元に旅立った。それは、どこまでも安らかな顔だった。 #swamou

2011-12-04 18:23:15
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その日の出来事は由規が喋りまくった事によって、あっという間に選手や球場関係者に広められた。そして翌日の試合・・・。ネクストサークルに立つ川端。手には看護士によって届けられた木下老人のバットが握られていた。最後の願いを叶えるため、打席でバットを振るつもりだった。 #swamou

2011-12-04 18:24:04
スワローズ妄想劇場 @swa_mou

勿論、現在の規定に対応しているとは思えない。今まで真面目に野球に取り組んできた川端は(野球の神様がいるとしたら、今日だけは目をつむっててもらおう)と打席にむかった。後ろから「昨日散々付き合わせて!ヒットなんかじゃ許さないから!」と何処かで聞いた台詞を友紀が叫んだ。 #swamou

2011-12-04 18:25:18
スワローズ妄想劇場 @swa_mou

覚悟を決めて打席に立つ。と、審判がタイムをかける。「川端選手、バットを。」とバットを渡すように促した。(うわあ・・バレてる・・)と思いつつバットを渡す。その審判は一通りバットを見てから川端に手渡して「折るなよ?」と言ってニヤリと笑った。 #swamou

2011-12-04 18:26:52
スワローズ妄想劇場 @swa_mou

審判(Tという名字だった)も事の顛末を知っているらしい。大学時代をこの神宮で大学野球の選手として活躍し、外野の1番入口で係員としてアルバイトもしたこの審判も、紛れもなく神宮を愛する一人だった。何事もなかったかのようにプレイが再開された。 #swamou

2011-12-04 18:28:09
スワローズ妄想劇場 @swa_mou

塁は全て埋まっている。変化球を打ち損なえば劣化したバットは折れてしまうかもしれない。川端は直球に的を絞った。ピッチャーが投球動作を開始する。指から離れたボールは真っ直ぐの軌道を描く。(来た!)それに合わせてバットを振り抜く。 #swamou

2011-12-04 18:29:14
スワローズ妄想劇場 @swa_mou

手応えがあった。そのままバットにボールを乗せて振り抜く。刹那、バットからボールが離れ、バットは軽くなった。そして1塁側へゆっくりと足を踏み出す。(野球の神様って本当にいるんだな)川端はライトスタンドに吸い込まれていく打球を見ながら、そんなことを考えていた。【完】 #swamou

2011-12-04 18:34:18