稲川淳二の『つぶやき怪談』(2023.10.23)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

雨がやんで１０日程すると、どうやらひと段落ついたので、夜に様子をみに行ってみた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

晩ご飯には間に合わないけれど、 明日の朝ご飯で食べてもらおうと、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

魚の糟漬と煮物を持って遣って来ると、 家はもう真っ暗。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（はて、もう寝たのかな？）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

タミさんは盲目ですから、 人が帰って、自分ひとりになると、 明かりはいらないので、消してしまう。

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で、庭の方から入ってゆくと、 家の中から話し声が聞えてきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（また闇を相手に独り言でも言ってるのかな） と思ったんですが、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

どうも誰かと話をしている様子なんで、 （あれっ、こんな時間にめずらしく、 人が来ているんだろうか？）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、思ったものの、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（それにしては、明かりが消えているしなァ）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、縁側に近付いてゆくと、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

確かに人と話をしているようなんですが、 聞えてくるのはタミさんの声ばかり。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、外から 「今晩は」と声を掛けると、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ああ、奥さんかね」 と、返事がかえってきたんで、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「明日の朝ご飯に食べてもらおうと思って、 魚の糟漬と煮物、人にもらったんでおすそわけ、 台所に置いていくからね・・・」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と言って、 台所へ回って、一体誰が来てるんだろうと、 障子を少し開けて、そーっと覗いて見ると、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

月明りが障子を透して、 かすかに射し込む薄暗い座敷に、 タミさんが座って話しているんですが、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その前に、ちょうど向かい合う恰好で、 座蒲団と湯呑茶碗がひとつ置いてあって・・・・、 でも人の姿が無い。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ところが、まるで誰かがそこにいるかのように、 タミさんが話しかけているんで、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

何だか薄気味悪くなって、 そのまま家に帰った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

さて翌日、タミさんのところへ顔を出すと、 流しに湯呑み茶碗がふたつ出てたんで、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ゆうべは、お客さんでも来てたのかね？」 と聞くと、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ああ、あの奥さんかね？　あの人はねェ・・・・、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

以前、時々みえてた奥さんでね、それが半年ほど前から、 顔を出さなくなってたんだけどね、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

10日程前の晩に・・・・」 と、話してくれた。