新しい楽器:5.扇風機

単著『サウンド・アートとは何か 音と耳に関わる現代アートの四つの系譜』(ナカニシヤ、2023年)の宣伝を兼ねてはじめた「新しい楽器」という読み物です。
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nakagawa @nakagawa09

5.扇風機:もう季節外れですが、今日は日本の音響的アヴァンギャルドにとって重要な扇風機について。

2023-11-15 12:22:40
nakagawa @nakagawa09

扇風機というのは素晴らしい家電です。一日中つけっぱなしにしていても20-30円らしいです。 参考:扇風機の電気代は安い!電気代節約の鍵は扇風機にある! | スマートでんきコラム smart-tech.co.jp/column/power-s…

2023-11-15 12:22:40
nakagawa @nakagawa09

クーラーより安いし、梅雨時から夏にかけて、クーラーでは涼しすぎて体調を崩す人に扇風機は欠かせません。雨の日にはかっぱや洗濯物を乾かすのにも役立ちます。また、扇風機は「新しい楽器」としても優秀です。日本の音響的アヴァンギャルドにとって扇風機というのは非常に重要な家電です。

2023-11-15 12:22:41
nakagawa @nakagawa09

例えば、すぐに思いつく使い方として、「扇風機 宇宙人」という言葉でYouTubeを検索したらこの動画が上位に出てきました。2009年に未就学児に見えるので、この男の子はもう20才くらいでしょうか。 | 我々は宇宙人だ - YouTube youtube.com/watch?v=rGGiXf…

2023-11-15 12:22:42
nakagawa @nakagawa09

あるいは「扇風機 音楽」と検索すると、オトッペが扇風機について歌っているのを見つけました。 【公式MV】「オトッペ」新EDソング ”せんぷうきチューン” - YouTube youtube.com/watch?v=Fq8NoI…

2023-11-15 12:22:42
nakagawa @nakagawa09

確かに、扇風機ってオートチューンっぽいですよね。扇風機はヒップホップでもあったんですね。 参考:オートチューンとは raq-hiphop.com/hiphop-word-au…

2023-11-15 12:22:43
nakagawa @nakagawa09

ともあれ、扇風機というのは、日本の音響的アヴァンギャルドにとって非常に重要な家電です。というのも、何よりもまず、小杉武久さんの作品でよく見かけるからです。

2023-11-15 12:22:44
nakagawa @nakagawa09

小杉武久さんは1938年に生まれ、2018年に亡くなった日本の音楽家です。東京芸大音楽学部楽理科在学中の1960年に「グループ音楽」を結成し、塩見允枝子、刀根康尚といった人々とともに集団即興演奏を行いました。 | グループ・音楽 | 現代美術用語辞典ver.2.0 artscape.jp/artword/index.…

2023-11-15 12:22:44
nakagawa @nakagawa09

こちら、明確なフレーズやメロディをちゃんとした楽器で演奏するのではなく、椅子や電化製品を用いて即興的に演奏していました。録音が残っています。数年前はubuwebにあったんですが、今はありません。 |Group Ongaku - Music Of Group Ongaku - YouTube youtube.com/watch?v=Jzmuq2…

2023-11-15 12:22:45
nakagawa @nakagawa09

その後、フルクサス的な「イベント」作品を発表したり、ニュー・ヨークに移住してフルクサスの作家と交流活動したりします。小杉のイベント作品は、例えばこちら。何とも洒脱。|小杉武久 Takehisa Kosugi 《Micro 1》(1961) performed by Kohji Setoh - YouTube youtube.com/watch?v=ZT1tMT…

2023-11-15 12:22:46
nakagawa @nakagawa09

また、小杉武久は1969年にタージ・マハル旅行団を結成します。色なんな場所で「波」を掴まえるべく、みんなで即興演奏していたようです。Wikipediaには記載がありませんが、吉村弘さんも参加した時期があるはず。| タージ・マハル旅行団 - Wikipedia ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF…

2023-11-15 12:22:46
nakagawa @nakagawa09

1971-1972年のタージ・マハル旅行団の様子を、音響デザイナーの大野松雄が記録したドキュメンタリー映像『旅について』(1973)というものもあります。この映像の詳細は知らないのですが。|UbuWeb Film & Video: Taj Mahal Travellers ubu.com/film/taj_tour.…

2023-11-15 12:22:47
nakagawa @nakagawa09

小杉武久さんは作品を残すことにあまり興味がなかったらしく、だからかもしれせんが、インターネット上で適当な画像とか映像を見つけるのが難しいです。が、例えばここからいくつか作品画像を見ることができます。|一期一会の音世界、芦屋で小杉武久回顧展 »lmaga.jp/news/2017/12/3…

2023-11-15 12:22:48
nakagawa @nakagawa09

こちら、扇風機が二つ向き合っているインスタレーション(?)で、「ヘテロダイン」と名付けられています。この英文レビューのほうが写真が豊富ですね。artscape Japan/Focus: Adventures in Sound: The Takehisa Kosugi Exhibition artscape.jp/artscape/eng/f…

2023-11-15 12:22:49
nakagawa @nakagawa09

この中の「Mano-dharma, electronic」という作品では、天井から吊るされた無線発振器と無線受信機とに、扇風機が送風しています。artscape.jp/artscape/eng/f…

2023-11-15 12:22:49
nakagawa @nakagawa09

あるいはこの記事は、若き小杉武久が演奏している最中の写真ですが、演奏している楽器(らしきもの)と小杉に、扇風機が風を送っています。これは、小杉さんに涼しい風を送ろうとしているのではないんです。 Just Announced: Takehisa Kosugi's Catch-Wave - Superior Viaduct superiorviaduct.com/blogs/news/jus…

2023-11-15 12:22:50
nakagawa @nakagawa09

じゃあ何をしているのかと言うと、これは、扇風機で、「風」という形態で現実世界に出現した「波」をとらえようとしている、ということになります。この理屈をざっくりと説明してみます。

2023-11-15 12:22:51
nakagawa @nakagawa09

つまり、世の中には、目には見えず耳にも聞こえない「波」があり、それを現実世界において知覚可能なやり方で現象化させること、それが「演奏=音響生成行為」だ、という理屈です。扇風機は、目には見えず耳には聞こえない「波」をとらえるための道具の一つ、なわけです。

2023-11-15 12:22:51
nakagawa @nakagawa09

こういうアーティストのヴィジョンというか妄想というか制作理念というか、色々呼べると思いますが、ここで僕がまとめてみた説明は、小杉武久の残した言葉などから整理してみたものです。

2023-11-15 12:22:52
nakagawa @nakagawa09

つまり、扇風機の風も音も光も電波も「波」である、と。小杉武久のタージマハール旅行団の演奏の記録映像では、波の映像がよく使われますが、海の波もまたもちろん「波」なわけです。

2023-11-15 12:22:53
nakagawa @nakagawa09

現象形態は色々あるけど、すべて、そのままでは知覚不可能な遍在的存在としての「波」を、現実世界に知覚可能なあり方で現象化させること、それが小杉武久の表現である、と整理できます。

2023-11-15 12:22:53
nakagawa @nakagawa09

なので、目には見えず耳には聞こえない「波」を現実化させる(=つりあげる)という意味で、小杉は自作を「Catch Wave」と呼びます。この画像は、彼の作品のそういう仕組みをうまく示すものです。cinra.net/news/20171209-…

2023-11-15 12:22:54
nakagawa @nakagawa09

ということで、扇風機は(日本の)音響的アヴァンギャルドにとって非常に重要な家電なのです。

2023-11-15 12:22:54
nakagawa @nakagawa09

他に有名な事例として、和田永さん[1987-]の扇風琴というものがあります。 Electric Fan Harp │ 扇風琴 at Ars Electronica '19 - YouTube youtube.com/watch?v=ueXHki…

2023-11-15 12:22:55
nakagawa @nakagawa09

和田永さんはオープンリール・アンサンブルで名が知られた作家さんです。ざっくりいうと、オープンリール・アンサンブルは、過去の音響メディア(オープンリールの磁気テープ)を過去に使われていた「普通のやり方」ではないやり方で使う音楽アンサンブルです。

2023-11-15 12:22:56