J.Koizumi氏による、平方剰余とドミノタイリングを結びつける公式を発見についての、中澤俊彦さんと神尾悠陽さんとの共著論文についての解説

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J.Koizumi (sub) @J_Koizumi_233

今日公開されたこちらの論文について解説します。中澤俊彦さんと神尾悠陽さんとの共著で、平方剰余とドミノタイリングを結びつける公式を発見したという内容です。 arxiv.org/abs/2311.13597

2023-11-23 17:30:40
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平方剰余は古くから研究されている整数論の概念です。素数pおよびpの倍数でない整数aに対し、x^2=a (mod p)が解を持つとき(a/p)=1、そうでないとき(a/p)=-1と定め、これを平方剰余記号(Legendre記号)と呼びます。aがpの倍数の時は(a/p)=0と定めます。

2023-11-23 17:30:41
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このとき奇素数p,qに対して(q/p)は(p/q)の(-1)^((p-1)(q-1)/4)倍であることが知られています。これがGaussにより示された平方剰余の相互律です。 1848年、Eisensteinは奇素数p,qに対する(q/p)が以下のように三角関数で表されることを示し、これを用いて平方剰余の相互律の新たな証明を与えました。 pic.twitter.com/FdZdgizPLQ

2023-11-23 17:30:41
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それから100年以上が経った1961年、平方剰余とは遠く離れた物理学の世界で、長方形を1×2のドミノで敷き詰める方法(ドミノタイリング)の総数を求める公式が発見されました。KasteleynおよびTemperley-Fisherによるその式は、奇数m,nに対する(m-1)×(n-1)の長方形の場合、以下のようになります。 pic.twitter.com/sVV4bmgyzJ

2023-11-23 17:30:42
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これらの式が酷似していることに気づいたのが共著者である中澤さんです。彼は2020年の冬に数理空間トポスおよびmathlogでこの奇妙な類似性を取り上げましたが、残念ながらその時は繋がりが明らかになりませんでした。 mathlog.info/articles/1225

2023-11-23 17:30:42
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さて、時は流れて今月(2023年11月)の初めのこと、私は数理空間トポスのチューターの一人からこの話を教えてもらい、衝撃を受けてすぐに考え始めました。その結果、次のような「より確固とした関係」が見えてきました。

2023-11-23 17:30:43
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奇素数p,qに対し、(p-1)×(q-1)のドミノタイリングDを考えます。すると水平なドミノの個数h(D)は必ず偶数になることが簡単に示せます。そこでDに(-1)^(h(D)/2)というスコアを割り当てることにします。例えば(p,q)=(3,5)の場合、2×4のドミノタイリングは5種類あり、それらのスコアは以下の通りです。 pic.twitter.com/pvaUCOl5Og

2023-11-23 17:30:43
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このとき、実は全てのドミノタイリングにわたるスコアの合計が(q/p)にぴったり一致しているのです!例えば上で述べた(p,q)=(3,5)の場合、スコアの合計は-1となり、これは(5/3)=-1と一致しています。 私は中澤さんと協力することで、両辺を円分体のノルムと結びつけ、この事実を証明しました。

2023-11-23 17:30:43
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すると次に「pやqが奇素数でない場合はどうなるのか?」ということが当然気になります。もとの証明では標数pへの還元を利用するため、pやqが奇素数であることを本質的に使っていました。この問題を解決してくれたのがもう一人の共著者である神尾さんです。

2023-11-23 17:30:44
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彼はまだ学部生ですが数学的才能に溢れており、今回もこの問題について相談した日の夜に完全な証明が送られてきて、大変驚かされました。一般の正整数m,nに対する(m-1)×(n-1)のドミノタイリングの場合は、mまたはnは奇数と仮定してよく、mが奇数である場合のスコアの合計は以下のようになります。 pic.twitter.com/7uuBncg7Vr

2023-11-23 17:30:44
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ここで左辺のD_(m-1,n-1)は(m-1)×(n-1)のドミノタイリング全体のなす集合です。右辺の(n/m)は平方剰余記号の拡張(Jacobi記号)であり、m=p_1×p_2×...と素因数分解して(n/p_i)を掛け合わせることで定義されます。 ちなみに、平方剰余の相互律(下式)は長方形の縦横を入れ替えることに対応しています。 pic.twitter.com/uKRem45f3k

2023-11-23 17:30:45
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補足ですが、我々の証明では本質的にEisensteinの証明と同じアイディアを用いているため、これを平方剰余の相互律の新しい証明と呼べるかどうかには議論の余地があります。

2023-11-23 17:30:45
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さて、私はこの定理をゴールだとは思っておらず、むしろこれは研究のスタート地点だと考えています。例えばすぐに思いつくテーマとして ・初等的な証明はあるか? ・1×3によるタイリングに拡張できるか? ・3乗剰余や4乗剰余に拡張できるか? などが挙げられます。ぜひ皆さんも研究してみてください。

2023-11-23 17:30:45