板前が語る、紙パック酒の味わいと位置付け

紙パック酒は問答無用でダメなのか?大手酒造は何をもたらしたのか?など、『弁いち』板前さんが語ってくださいました
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板前 @itamaebenichi

少し昔ブログにに書いたお話:紙パック日本酒の出荷率はどれくらいか、ご存じでしょうか? 2010年の調べでは市場全体の36%が紙パック酒なのだそうです。 「大手が日本酒をダメにした」「戦前は純米酒だけだったのに三増酒のおかげで日本酒が堕落した」とお嘆きの諸兄が聞いたら憤然とするでしょう。

2022-06-11 15:27:54
板前 @itamaebenichi

続き)しかしながら36%もの紙パックのお酒は、日本人を舌をだまして、儲けのために造られているわけではありません。市場が欲しているから造られるのです。 ビールは麦とホップだけで造られるべきである!とどれだけ主張しても、実際に売れているのは発泡酒であり第三のビールであるように、(続く)

2022-06-11 15:28:47
板前 @itamaebenichi

続き)「ホンモノを飲め!」と言われても、「俺たちこれでいいもん」という方々もたくさんいらっしゃるのです。 業界のど真ん中にいて、極上のお酒を飲まれる方々に日々接していると、36%という数字は私にも信じられませんが、理想と現実の差はこれなのです。

2022-06-11 15:29:44
板前 @itamaebenichi

続き)では、本醸造 純米酒 吟醸酒 大吟醸酒 と区別される特定名称酒(大まかに言えば今人気のと思われている上質なお酒)は清酒全体の何%くらい生産されていると思われるでしょう? 実はこれもおおよそ36%くらいと言われています。

2022-06-11 15:30:39
板前 @itamaebenichi

続き)つまり足し引きすると、日本酒の6割から7割はいまだに普通種(という区分は今はないのですが)なのです。日本酒通が「ダメなお酒」と特定するお酒がこれだけ流通しています。というか、欲しがられているのです。

2022-06-11 15:31:24
板前 @itamaebenichi

続き)全く同じパーセンテージで「あんな不味い酒を飲むなんて信じられない」と日本酒通が思うおうが、支持はされている事実を直視しなければなりません。反面、世の中には選んだいいお酒だけを扱っている酒販店も、特定銘柄酒だけを造っている蔵もたくさん存在しています。

2022-06-11 15:32:02
板前 @itamaebenichi

続き)で 飲んでみました。 パック酒 大手のお酒を飲んだのはもう40年前のこと。実は今のパック酒の味を知らなかったのです。 ひとつは最大手の一番の稼ぎ頭 「白鶴 まる」、もうひとつは「菊正宗 ピン」

2022-06-11 15:32:37
板前 @itamaebenichi

続き)驚いたのは菊正宗のピンは日本酒通の槍玉に挙げられる糖類 調味料の類いの添加はなく、米 米麹 醸造用アルコールだけで作られていることです。精米歩合やアルコール添加の数値の記載はなく、本醸造と呼べる内容ではないのでしょうが、パック酒の実際を知る意味では大きな事柄です。

2022-06-11 15:33:12
板前 @itamaebenichi

続き)さらに味わいはというと、白鶴まるのほうはあくまで淡麗、酸が綺麗で飲み飽きしないタイプです。ぬる燗につけると少々感じた雑味も消え、食中に飽きずに飲み続けるお酒に仕上がっています。菊正宗のピンは、アミノ酸度がより高く舌を引き締めてくれるような糀の香りとうま味があります。

2022-06-11 15:33:53
板前 @itamaebenichi

続き)一般的にいわれる「辛口」というのはまさにこれ、というお酒です。 つまり2本ともちゃんと飲めるお酒なのです。 40年前にいやいや飲んだ燗酒とはまったくレベルが違います。しかも値段が恐ろしく安い。

2022-06-11 15:34:17
板前 @itamaebenichi

続き)あえてうがった見方をすれば、ブラインドで同レベルの価格帯の日本酒を並べれば、飲食店ランキングの投稿者が大好きなコスパの分野では「まる」などはぶっちぎりの一位になるでしょうし、辛口命の昭和系日本酒ファンは菊正宗ピンを一番にあげるのではないかと思うような味わいなのです。

2022-06-11 15:35:11
板前 @itamaebenichi

続き)少なくとも、「まる」が糖類 調味料を添加していることを味だけで見破れる素人はなかなかいないのではないかと思うほど上手にできているのです。 日常的に毎日心地よく酔うために日本酒がほしい消費者にとって、このコストと味のバランスは良くできていると言わざるをえません。

2022-06-11 15:35:45
板前 @itamaebenichi

続き)私の周りにはナショナルブランド信奉者は皆無ですので、そのメンタリティははっきりとはわかりませんが、毎日晩酌に飲むビールは発泡酒や第三のビールでも問題なしと思っている方がたくさんいるから売れているわけですし、ワインをポリフェノールのために飲んでいる方や、

2022-06-11 15:36:52
板前 @itamaebenichi

続き)チリワインだって十分美味しい(たくさんいます)と思っている方がたくさんいる現実を踏まえれば、現在の大手紙パック酒の需要が料理酒だけではなく、台所に切らさずにおいてあって、レンジでチンして晩酌が日常的な方が一定数いることに何の疑問も感じないことが味を見てわかりました。

2022-06-11 15:37:26
板前 @itamaebenichi

続き)つまり大手ナショナルブランドは庶民のニーズをしっかりとらえ、寄り添う値段と味を実現しているのだと思うのです。だからこそ需要があり、事実売れているのです。 しかしながら、料理店の店主としてこの紙パック日本酒を使いたいかと問われれば、まっぴらごめんと言わざるを得ません。

2022-06-11 15:37:54
板前 @itamaebenichi

続き)料理店はハレの場所。ひとランクもふたランクも違うレベルのお酒を味わっていただく場所で、淡麗とか辛口だけがメインになる日本酒ではなくて、豊かな香り、味わいの奥行き、淡麗の後にある余韻、アミノ酸が行き渡った旨味の凝縮感

2022-06-11 15:38:58
板前 @itamaebenichi

続き)それらの豊かな個性が表れた極上でなければお客様にお出しできないのです。これらの個性までは残念ながら紙パック酒に全く感じませんでした。 翻って思いを巡らせてみました。 来店されるお客様、とくに50代以上の日本酒ファンの中に、「辛口ください」と言われて、店の中で一番淡麗であったり

2022-06-11 15:39:50
板前 @itamaebenichi

続き)店の中で一番淡麗であったり、逆に凝縮感があっても辛さを感じるお酒を出しても「甘い!こういうのじゃぁなくてもっと辛いの」という方がいます。かなりの確率で こういう「辛口辛口」を連呼する方の舌は、以前は新潟酒の淡麗に引き込まれてその舌ができあがっているのだと思っていたのですが、

2022-06-11 15:40:45
板前 @itamaebenichi

続き)こういう日本酒辛口ファンにはお米の旨味の凝縮感は舌に甘く感じるのです。「純米でなければならない」という方がたくさんいるのにお米の凝縮感はいやなのです。 「辛口辛口」連呼する年配の方に紙パックの菊正宗ピンをお出しすれば、「これ、これだよぉ」とおっしゃるに違いありません。

2022-06-11 15:42:32
板前 @itamaebenichi

続き)同じ値段を出すなら国産軽自動車よりも中古の欧州車を選ぶ車ファン。革靴は国産のメーカーではなくて、少し高くても英国ブランド イタリアブランを長く履きたいと思うファッション好き。試供品でもらったボールペンで十分とおもう人と、書く道具としてのペンは選びたいと思う文具ファン。

2022-06-11 15:43:12
板前 @itamaebenichi

続き)いいものを知ってしまい、その魅力にひきこまれて応援する分野を持つ方と、日常的に身の回りにあるモノはそれなりによければ十分と思う方。

2022-06-11 15:43:52
板前 @itamaebenichi

続き)各分野にどちらがマジョリティでどちらがマイノリティなのかは定かではありませんが、自分の好きなものがマジョリティであると信じ込みすぎない方がいいのではないか。。。なんて思ったりした紙パック酒試飲でした。

2022-06-11 15:44:06
板前 @itamaebenichi

続き) いかにも何年か前に書いたと思われる内容ですが、大手を馬鹿にする前に飲んでみたのは大きな経験でした。これって回る寿司やファミレスと高級寿司 ミュシュラン店との差と同様に日本にたくさんある構図かもしれません。

2022-06-11 15:47:58
板前 @itamaebenichi

続き)あっ、ちなみに私自身は紙パックの中に一部で言われる混ぜ物が入っているのは認識できました。

2022-06-11 15:49:27
板前 @itamaebenichi

続き)ビールの構造も似ています。日本の大手ビール会社はその技術を「値段はともかく美味しいにひたすら向ける」ではなくて、「値段に折り合った売れるビール」に向いています。美味しいけど売れないっていうビールには絶対向きません。

2022-06-11 15:51:16