新しい楽器:19.メトロノーム

単著『サウンド・アートとは何か 音と耳に関わる現代アートの四つの系譜』(ナカニシヤ、2023年)(https://www.nakanishiya.co.jp/book/b10044931.html)の宣伝を兼ねてはじめた「新しい楽器」という読み物です。
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nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

19.メトロノーム:今日はメトロノームという楽器について。メトロノームは、音色とか操作可能性のことを考えると単調な音を出す楽器でしかないですが、なんといっても健気です。ネジを巻いてテンポを設定し、動かし始めると、ネジが伸びるまで延々と同じテンポでカチカチカチカチ動いてくれます。

2024-02-02 14:16:47
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

あるいは、電子メトロノームだったら、電池が続く限りピッピッピッピッと鳴り続けてくれるでしょう。最近はオンラインメトロノームってあるんですね。「最近」がいつか知りませんが、まあ、さもありなん。| オンラインメトロノーム | Musicca musicca.com/jp/metronome

2024-02-02 14:16:48
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

どちらにせよ、メトロノームは定期的に時間を区切ってくれる楽器です。怠惰な僕らを急かしてくれたり、急ぐ僕らを落ち着かせてくれたりします。 |テンポ60メトロノーム (60分) - YouTube youtube.com/watch?v=_Z_iB4…

2024-02-02 14:16:48
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

ゼンマイ仕掛けのメトロノームは、振り子時計と上下逆の形です。だから何だということもないのですが、振り子時計のほうが時間を区切るものっぽいので、メトロノームの方は、同じ長さの時間を加算していくものだ、とか言えるかもしれません。

2024-02-02 14:16:49
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

メトロノームは、19世紀初頭にドイツ人のメルツェルが発明したとされます。実際は、メルツェル以前に別の人が考案していたそうですが、メルツェルが、1816年に「メトロノーム」という名前の機械の特許を取得したそうです。|ヨハン・ネポムク・メルツェル - Wikipedia ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8…

2024-02-02 14:16:50
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

メルツェルはオートマタ(=からくり人形)を作ったり、それで興行したりする人だったようです。ケンペレン作のチェスをするオートマタ(という触れ込み)のトルコ人(1770年作)を購入し、誰かに売りつけて大儲けしたりしたそうです。 |トルコ人 (人形) - Wikipedia ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88…

2024-02-02 14:16:51
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

メルツェルはベートーヴェンの知り合いで、ベートーベンは、考案されたメトロノームを早速利用したそうです。またそれ以前に、メルツェルが制作したトランペット吹き人形が、ベートーヴェンの交響曲第七番初演(1813年)に使われたこともあるそうです。

2024-02-02 14:16:52
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

ここら辺の事情は、渡辺裕の名著『音楽機械劇場』(新書館、1997年)を参照。これ、文庫化されてなかったんですね。驚き。| honto.jp/netstore/pd-bo…

2024-02-02 14:16:53
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

とりあえず、メトロノームは、〈合理的で均質的であるがゆえに世界中の文化を支配するのに強力だった西洋文化の所産〉の代表的事例だ、と言っておきます。ブラスバンドは世界を征服したし、メトロノームは時間を計測することで征服したわけです。

2024-02-02 14:16:53
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

数値的に計測可能になった対象が科学的で合理的で近代的な思考の対象に供されるというのは、1920年代に都市の騒音が数値的に計測されて対処されるようになったこと、と同じ事態です。

2024-02-02 14:16:54
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

こういうことは、サウンド・スタディーズの基礎文献のひとつ、Emily ThompsonのThe soundscape of modernity (2002)が教えてくれたことです。| mitpress.mit.edu/9780262701068/…

2024-02-02 14:16:55
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

ところで、ゼンマイ式メトロノームは、左右に振れます。ふたつ並ぶと愛らしいイメージになります。1990年くらいにまんが日本昔ばなしを見たことがある世代なら分かるでしょう。これ、1984年の曲で、作曲小林亜星で編曲久石譲なんですね。|youtube.com/watch?v=EVlfJQ…

2024-02-02 14:16:56
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

あるいはマン・レイ《不滅のオブジェ[Indestructible Object]》(1923/1965)でも良いかもしれません。|tate.org.uk/art/artworks/m…

2024-02-02 14:16:57
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

こちらは、The Police - Every Breath You Takeみたいですね。ずーっと見られてるわけですから。|youtube.com/watch?v=rGWF3Z…

2024-02-02 14:16:57
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

このイメージは色々なところで使われます。|米津玄師「メトロノーム」(2015) - YouTube youtube.com/watch?v=Qa9PkD…

2024-02-02 14:16:58
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

「きっと僕らはふたつ並んだメトロノームみたいに 刻んでいた互いのテンポは同じでいたいのに いつしか少しずつズレ始めていた 時間が経つほど離れていくのを 止められなくて」

2024-02-02 14:16:59
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

中川はアラフィフとして頑張っているので、ここで歌われていることについて分かってる感じを醸し出してもいいのかもしれないけどやはり実はよく分からないのだけど(ズレてもええやん…)、同じテンポで生き続けたいようだ、と推察しました。楽曲の中でテンポがズレていく部分があると面白かろうなあ。

2024-02-02 14:17:00
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

ちなみに米津玄師さんは、「ボカロP・ハチ」という方だったそうです。有名なことなのだろうけど僕はボカロ音楽にまったく馴染まずに生きてきたので、知りませんでした。何度か親しもうとトライしてきましたが、まだ難しい。|鮎川ぱて『東京大学「ボーカロイド音楽論」講義』kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-97841…

2024-02-02 14:17:01
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

ともあれ、ズレていく時間と言えば、Felix Gonzalez-Torres《Untitled (Perfect Lovers)》(1991)です。恋人がエイズであると診断されたアーティストは、同じ時刻を提示する隣り合う2つのアナログ時計、を提示する作品を製作しました。|参考:二つの時計は、二人の鼓動 heapsmag.com/sunday-art-scr…

2024-02-02 14:17:02
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

僕はこの作品を見たことが無いのですが、まったく同じ形態のふたつの時計は、同期して時を刻むけれども、展覧会の会期中に少しずつズレていくそうです。ずれていくことこそが二人の恋人の在り方なのだ、ということかもしれません。|"Untitled" (Perfect Lovers) en.wikipedia.org/wiki/%22Untitl…

2024-02-02 14:17:03
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

これは電波時計ではできなさそうですね。どうなんだろう。

2024-02-02 14:17:03
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

フェリックス・ゴンザレス・トレスは「ポスト・ミニマル」という枠組みで紹介されることがあります。作品の構成要素をたくさん詰め込まない、程度の意味なので、ここでは「ポスト・ミニマル」とは、ふたつの時計で二人の人間を表現するという「ミニマル」さを示す言葉だと思っておけば良いと思います。

2024-02-02 14:17:04
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

また、ズレていくといえば、(実は「ミニマル・アート」と必然的に関連するわけではない)「ミニマル・ミュージック」の代表的音楽家であるところのスティーヴ・ライヒの初期作品です。

2024-02-02 14:17:05
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

特にライヒの初期テープ作品がハードコアで素敵です。そこでは二つのテープループがずれていきます。| It's Gonna Rain, Pt. I (1965) - YouTube youtube.com/watch?v=vWN9I-…

2024-02-02 14:17:06
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

これは、〈牧師さんの説教を録音してその一部を二つのテープレコーダーで何度も反復し、反復するうちに片方のテープループを手で押さえて再生速度を少し落として、ズラす〉というやり方で作られた音です。

2024-02-02 14:17:07