EGFR活性化肺腺癌→小細胞肺癌転換マウスモデル論文の解説

がん遺伝子、がん抑制遺伝子を改変したマウスを組み合わせて、より複雑な系を観察可能にした論文https://doi.org/10.1126/science.adj1415 の解説です
1
Jun Yasuda @jyasuda1

ダメ押し的にも感じるのですが、先のポストのように今回の解析対象(AT2にDOX-on→DOX-offの各点での全肺組織シングルRNA-seq)には様々な細胞が含まれており、いわばアーキタイプがあり、それらを意識した細胞系譜解析をCellRANKというパッケージでやっています(図2G, H)。(16/n)。

2024-02-27 16:25:36

AT2細胞(腺癌の起源)ではEGFRがないとMYC高発現に耐えられない

Jun Yasuda @jyasuda1

この系からEGFRを除いたPRMTマウスでの実験がこのモデルでのEGFRの意義を明らかにします。PRMTのAT2及び神経内分泌細胞でそれぞれCreを誘導すると当初は細胞数の母数が多いAT2の方がtdTOMATO陽性細胞が多い(といっても全体の0.1%程度)ですが、その後、神経内分泌細胞での組換え体が優勢と(17/n)

2024-02-27 16:30:45
Jun Yasuda @jyasuda1

なります(図3A)。AT2細胞は0.1%あたりを停滞し、増殖していないと思われます。さらに踏み込んだ実験としてMYCのみが安定的に発現誘導される系で細胞集団の変化を見るという実験をします(RB1やTrp53も野生型)。この系では神経内分泌系及びAT2細胞でMYCが上昇した場合、(18/n)

2024-02-27 16:35:15
Jun Yasuda @jyasuda1

神経内分泌細胞ではMYCが高発現の細胞が生き残り、EGFRは生き残っている細胞では発現が低下、AT2では逆にEGFRの高発現細胞が生き残り、MYC発現が低下していることが分かりました。これらのことからAT2細胞ではMYCの高発現は細胞生存の障害になるということになるようです(19/n)。

2024-02-27 16:37:30
Jun Yasuda @jyasuda1

一方で、神経内分泌系の細胞ではMYCがあるだけで生存に有利になり、早期に発癌、個体死を導きます。MYC高発現だけの場合、AT2細胞が癌化し個体死を導くには+EGFRの場合よりも3倍の期間がかかり、癌細胞ではEGFR発現上昇が起こります(20/n)。

2024-02-27 16:40:22
Jun Yasuda @jyasuda1

これらのことからAT2細胞はEGFRの活性化なしにMYCの高発現には耐えられないが、神経内分泌系細胞はMYC高発現に耐えられるが、EGFR高発現によって増殖できなくなるという違いがあることが見て取れます。(ここまで図3D: 21/n)

2024-02-27 16:44:36
Jun Yasuda @jyasuda1

この後MYCで誘導された神経内分泌系腫瘍細胞がEGFR発現によって腺癌細胞になりうるかの実験をしていますが、結論はならないということのようですべての図がsupplementary figureで説明していました(22/n)。

2024-02-27 16:50:01

腺癌→小細胞肺癌への流れのボトルネックではPI3Kの活性化(=PTENの抑制)が起こる

Jun Yasuda @jyasuda1

その後も細かい確認実験からAT2細胞はMYC活性化だけでは簡単には癌化しないなど示しているようですが、こちらもすべてがSupplementary figureになっています。次の図は「何がEGFRが抑制されている腺癌を小細胞がんに導くのか」という問いに答えるものになるようです(23/n)

2024-02-27 17:04:32
Jun Yasuda @jyasuda1

このツリーの15番目で説明した実験(多段階の全肺組織シングルセルRNA-seq)で、小細胞癌様の細胞集団ではPI3K活性化のパターンが観察されたことから、試みにPTENの抑制(=PI3K活性化)での実験をしたところ、EGFRの活性化変異発現が誘導されなくとも腫瘍が形成できることを確認しました(24/n)。

2024-02-27 17:09:57
Jun Yasuda @jyasuda1

この系(図4a, b)で発生するがんは小細胞癌というよりは腺癌なのですが、それでも未分化な細胞成分が増えています(図4c)。また、AT2細胞がMYCによって癌化する場合にPTENの活性低下が必要なことも示しています(図4E: 25/n)。

2024-02-27 17:17:20

ダメ押しでRB1欠失も腺癌→小細胞肺癌では重要

Jun Yasuda @jyasuda1

最後にダメ押し的なのですが、MYC発現安定化のない系ではAT2細胞でEGFR-on→EGFR-offのシークエンスでもなかなか小細胞がんが作れないこと、さらにはMYC発現が幹細胞様の発現パターンを誘導すること(図5a-e :26/n)

2024-02-27 17:21:48
Jun Yasuda @jyasuda1

実臨床で腺癌→小細胞癌への形質転換を示した症例ではMYCの下流遺伝子の発現が上昇していること(図5f)、MYC発現上昇に加えてRB1の失活が必須であることなどを確認して(図5J)としています。かなり複雑な系で、実験を多数重ねた論文でした(27/n)

2024-02-27 17:23:37

まとめと感想

Jun Yasuda @jyasuda1

こうして読み進むと解説記事の図の横の軸が論文の各図に対応しているのでわかりやすいことに気づきました。 science.org/doi/10.1126/sc… (28/n)。

2024-02-27 17:24:50
Jun Yasuda @jyasuda1

まとめその1 複雑なマウス系統を駆使した、説得力のある論文で、がんの治療による組織転換のモデルを作ったことは評価できる。特に実際に腺癌→小細胞肺癌(腫瘍マーカーが陽性)というのを見たのは驚き(29/n)

2024-02-27 17:30:15
Jun Yasuda @jyasuda1

まとめその2 とはいえ一部の実験では長期の観察(数百日)をしており、予期せぬ別のイベントの影響がどの程度なのか不明なのと、そもそもどこまでマウスのデータがヒトに外挿できるのかは悩ましい部分もある。実際のヒト肺小細胞癌でのMYCの増幅などの報告はあまりないようです(30/n)

2024-02-27 17:32:20
Jun Yasuda @jyasuda1

まとめその3 技術的にはかなり苦労している(紹介しなかったがナフタリンでの肺障害を誘導してbasal cellにアデノウイルスを導入するなど)ようでした。しかし、用いた実験系に必ずしも一貫性があるわけでもなかったです(例えばCgrpとAscl1プロモーターを使い分けた理由など)。(31/n)

2024-02-27 17:34:35
Jun Yasuda @jyasuda1

これは単なる愚痴ですが、本当に必要な実験とそうでないものの区別が難しい(=データ多すぎ)印象を持ちました。いずれにせよ、細胞系譜によって発がんシグナルへの感受性の違いをはっきり見せることに成功した点はおおきな研究上の成果だと思います(32/n:終了)。

2024-02-27 17:36:37