EGFR活性化肺腺癌→小細胞肺癌転換マウスモデル論文の解説

がん遺伝子、がん抑制遺伝子を改変したマウスを組み合わせて、より複雑な系を観察可能にした論文https://doi.org/10.1126/science.adj1415 の解説です
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Jun Yasuda @jyasuda1

これどうやったのかな。EGFR活性化肺腺癌は阻害剤によって治療されるが、やがて抵抗性を獲得する。その際に組織学的トランスフォーメーションを引き起こし、小細胞癌のようになるものがある。この分子機構を解明したという論文。マウスEGFR肺癌を誘導し、その後EGFRを(続く)

2024-02-11 08:55:11
Jun Yasuda @jyasuda1

OFFにして各種がんドライバ遺伝子変異を加える実験のようだ。MYCの活性化とRB1の失活が決め手らしい。本来休眠状態にある幹細胞様の細胞ではMYCによって小細胞癌になるのだが、それを変異EGFRが抑制しているらしい。さらにRB1の失活も必要とか。science誌。science.org/doi/10.1126/sc…

2024-02-11 08:58:48
Jun Yasuda @jyasuda1

解説記事、読んでみました。そもそも元論文はHarold Vamusの論文であり(そこまで見とらんかった)、上記解説はやや誤解を招く表現でした。今週中に内容をきちんと紹介したいと思います。

2024-02-12 11:22:08
Jun Yasuda @jyasuda1

さて、先週研究室内での論文紹介で紹介したので、少し連続ポストして内容を紹介してみます。まずAuthorにはHarold Vamus以外にLewis S. Cantley(PI-3Kの発見者)もいて、かなり重厚な論文です。

2024-02-27 14:26:28
Jun Yasuda @jyasuda1

研究の目的ですが、いかなる分子経路を経て肺腺癌が小細胞がんに変わるのか明らかにするというものです。実は去勢抵抗性の前立腺がんの抗アンドロゲン療法のなれの果ても類似の神経内分泌系腫瘍だそうで、こうした事例の解明ががんの治療抵抗性の分子機構の解明につながりそうだということですね。

2024-02-27 14:30:15
Jun Yasuda @jyasuda1

一応ですが、肺がんの場合は細胞系譜的に違うクローンが出てきて小細胞癌になっているわけではないことは、EGFR変異があることから確定的らしいです。その点にも配慮した実験系になっています。最初に用いている系がなかなかすごいマウスで、交雑を繰り返して作ったようです。(1/n)

2024-02-27 14:33:01
Jun Yasuda @jyasuda1

遺伝子変異の情報に基づくとRB1, TP53の両方の欠失が小細胞肺癌へのHistological transformation(HT)で目立つそうで、Cre-floxの系でこの二つを除くマウスが出発材料の一つです(2/n)。

2024-02-27 14:34:53
Jun Yasuda @jyasuda1

L858RをもつEGFRについてはTet-Onの系で誘導します。これはドキシサイクリンをOnにしておいて、その後offにすることであたかもEGFR肺癌が発症し、その後オシメルチニブで抗EGFR治療をした結果に近い結果を生むとかんがえられます(実験結果は微妙に違う:後述)。(3/n)

2024-02-27 14:38:13
Jun Yasuda @jyasuda1

さらにCbioportalでは決して小細胞がんのメジャーなドライバーではないのですが、MYCの安定化変異の入った発現ユニットがLSL(loxP-flanked stop cassette)と一緒にセーフハーバーであるHipp11に組み込まれています。Creが選択的に活性化した細胞でMYCが活性化するわけです(4/n)

2024-02-27 14:46:24
Jun Yasuda @jyasuda1

同じ発現ユニットにはLuciferase遺伝子も組み込まれており、in vivoでの腫瘍観察も可能になっています(supplementary全部に目をとおしてませんが、少なくとも本文の図にはなかったような)。別なセーフハーバーのRosa26座にはtdTOMATO(細胞系譜追跡用)とrtTA3があり、こちらもLSLと一緒です(5/n)

2024-02-27 14:49:09
Jun Yasuda @jyasuda1

つまり、Creが発現した細胞では安定化MYCとtdTOMATO、rtTA3が発現したうえにRB1とTP53(マウスなので正確にはTrp53)が欠損し、癌化しやすい状態になるというマウスが出来ています。ここにDOXが入るとL858RをもつEGFRが強発現するという仕組み(6/n)

2024-02-27 14:52:41
Jun Yasuda @jyasuda1

Cre発現の特異性はどのように制御するかというと、アデノウイルスの系のようです。SpcというのがAT2細胞(いわゆるII型肺胞上皮細胞)で特異的に発現するプロモーターで、Cgrpが肺神経内分泌系細胞で発現するプロモーターという事のようです(7/n)

2024-02-27 14:54:56

二種類の肺がんモデルを1系統のマウスで作成

Jun Yasuda @jyasuda1

このマウスをERPMTと称し、遺伝型の説明がFig. 1Aでした。Fig. 1BがこのマウスにAT2細胞特異的にMYC誘導、RB1, Trp53欠損を引き起こさせ、そこにEGFRの誘導ありなしで比較したものです。EGFRが誘導されると2か月程度ですべてのマウスが肺癌死しますが(8/n)、

2024-02-27 15:01:09
Jun Yasuda @jyasuda1

MYC+, RB1-, Trp53-だけでは3か月くらいは腫瘍を発生しませんでした。この肺癌は肺腺癌のように肺の末梢部で出やすいなど、AT2細胞の分布とも一致していたようです。また神経内分泌系腫瘍でのCre誘導ではEGFRの誘導がないほうが2か月程度で癌死に至り、こちらは肺門部付近にできるようです(9/n)

2024-02-27 15:06:20
Jun Yasuda @jyasuda1

これらの腫瘍細胞を分離し、tdTOMATOで精製後にシングルセルRNA解析を実施するとそれぞれ元株に近い発現パターンを示し、2種類のがんを作成可能なマウスとなっていることを確認しました。それぞれのがん細胞はヒトの対応するがん細胞によく似た発現パターンも観察されています(10/n)

2024-02-27 15:13:55

EGFR-ON→OFFの連鎖でMYC発現上昇によって腺癌→小細胞癌への転換が起こる

Jun Yasuda @jyasuda1

AT2細胞を標的にCreを発現させ、そこに①DOXを投与、肺癌を発症させたのちに②DOXオフによって抗EGFR治療を模倣、さらに③その後再度DOXを投与するという3つのパターンでは①、③、②の順で予後が悪く、①と③は腺癌、②は神経内分泌的性格が出たがんとなることを示しました(11/n)。

2024-02-27 15:21:31
Jun Yasuda @jyasuda1

この③はいわばC797SないしはKRAS活性化の模倣と言えますが、もとになる細胞の数が減っているためそれぞれの腫瘍径が大きくなっています。また、クローン性が異なることもDNAのラベル取り込みのパターンから確認しています(12/n)。

2024-02-27 15:33:31
Jun Yasuda @jyasuda1

さて、3/nでも触れましたが、DOXオフにするパターンとオシメルチニブ投与のパターンでは何が違うのかというと、がん細胞がなくなる点ではなく、なくなった後でtdTOMATO陽性細胞を調べるとDOXオフの方が神経内分泌腫瘍のマーカーであるAscl1発現が高い細胞が多いようです(13/n)。

2024-02-27 15:36:39

腺癌→小細胞肺癌への流れの解明:シングルセルRNA解析

Jun Yasuda @jyasuda1

②のパターンは著者らが肺腺癌→小細胞癌となることを期待している系ですが、この系で複数時間帯でマウスをサクリファイス、肺の全細胞をシングルセルRNA解析した結果が期待通りのパターンを示しています。先ず一つ一つの細胞ですから、がんになっていないAT2細胞や神経内分泌系細胞もある中(14/n)

2024-02-27 15:49:48
Jun Yasuda @jyasuda1

腺癌の細胞や、小細胞系に近い発現パターンを示す細胞が出現していることを確認しました。これらの細胞を力学モデルで図示すると、AT2→腺癌→未分化な細胞集団(=ボトルネック)→小細胞癌の流れが細胞集団の規模とともに確認できました。(ここまで図2E:15/n)。

2024-02-27 15:52:08