16世紀末の成りすましロマンス詐欺事件、偽のポルトガル王セバスティアンと尼僧王女アナの物語

やめろー!貴種流離譚は人を傷つけるための道具じゃねぇー!(悲痛)
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海鷹 @SakrelBahr

THE HISTORICAL NIGHTS' ENTERTAINMENT 二巻収録のTHE PASTRY-COOK OF MADRIGAL - The Story of the False Sebastian of Portugal(マドリガルのペストリー職人 ~偽のポルトガル王セバスティアンの物語) サバチニ先生が書き出しからえらくしんみりしててて note.com/itomaru/n/nc05…

2024-03-13 21:38:58
リンク note(ノート) ラファエル・サバチニの歴史夜話|vic isono サバチニ歴史夜話は「歴史実話を極力創作要素を排して短編小説形式で描く」をコンセプトにしたシリーズ。とりあえず収録作品の概要だけ書き出しておきます。 The Historical Nights' Entertainment, 1st Series(1917年刊行) I. THE NIGHT OF HOLYROOD〜The Murder of David Rizzio ホリールード宮殿の夜 ~ダヴィッド・リッチオ殺害 スコットランド1566年、メアリー・ステュアートの秘書ダヴィッド・リッチオ殺害事件 II.
海鷹 @SakrelBahr

虐殺、暗殺、陰謀、裏切り満載の短編集で今さら何曇ってるんスか先生、と思って読んでみると、そりゃ歴史冒険エンタメ作家としては曇らざるをえないし、なんなら歴史秘話集や伝奇小説を愛読するような読者も巻き添えで心に傷を負ってしまうエピソード #さあみんなも曇ろう

2024-03-13 21:39:44
海鷹 @SakrelBahr

"我々が歴史と呼んでいる人間の本質的な脆さを記録した苦い悲喜劇の中でも、このアン王女の物語ほど悲しいものはない。彼女はかの華々しきドン・フアン・デ・アウストリア、神聖ローマ皇帝カール5世の庶子にして無情なるスペイン王フェリペ2世の異母弟の庶子であった。"

2024-03-13 21:41:12
海鷹 @SakrelBahr

"王室、あるいは準王室に生まれた女性の中でも、これほどまでに生まれた環境の完全なる犠牲者となった例は他にない。" THE PASTRY-COOK OF MADRIGAL - The Story of the False Sebastian of Portugal The Historical Nights’ Entertainment, Second Series by Rafael Sabatini より

2024-03-13 21:41:12
海鷹 @SakrelBahr

舞台は16世紀末のポルトガル、主人公はレパントの海戦の英雄ドン・フアン・デ・アウストリアの庶子マリア・アナ(María Ana de Austria y Mendoza 1568年 - 1629年) es.wikipedia.org/wiki/Mar%C3%AD… スペイン王兼ポルトガル王フェリペ2世から見ると庶弟の庶子にあたる女性

2024-03-13 21:42:04
リンク Wikipedia María Ana de Austria (1568-1629) María Ana de Austria y Mendoza (Pastrana, 1568 - Burgos, 1629) fue una dama española del séquito de la infanta Juana de Austria, princesa viuda de Portugal. Era hija de Juan de Austria y María de Mendoza, por lo tanto, sobrina y prima de reyes. Quedó temp
海鷹 @SakrelBahr

この時代、王侯貴族の庶子は僧門に入るのが一般的だが、男児ならば適正次第でドン・フアンのように軍人として立身出世する道もあった しかし厳格なカトリック教国では、王家の庶子の庶子であるアナのような女児は(母方の事情にも左右されるが)基本的には修道院で飼い殺し

2024-03-13 21:43:56
海鷹 @SakrelBahr

そんなわけで、ドン・フアンとスペインの名門メンドーサ家の令嬢が若気の至りでこの世に誕生せしめた女児は、パストラーナ公爵宮の片隅で乳母と限られた侍女たちの手で育てられ、7歳になると当然のように修道院に入れられた 非嫡出子とはいえ王家の血筋なので、侍女や家庭教師付きの特別待遇だ

2024-03-13 21:47:16
海鷹 @SakrelBahr

修道女としての適性に欠けるマリア・アナの興味の対象は騎士道物語や戦記もの、特に亡き父ドン・フアンの武勇伝を聞くのが大好きだった ドン・フアン・デ・アウストリア(Don Juan de Austria, 1547年 - 1578年) ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89…

2024-03-13 21:47:17
リンク Wikipedia ドン・フアン・デ・アウストリア ドン・フアン・デ・アウストリア(Don Juan de Austria, 1547年2月24日? - 1578年10月1日)は、神聖ローマ皇帝カール5世(兼スペイン王カルロス1世)の庶子で、軍人。幼名はJerónimo(ヘロニモ)あるいはJeromínと呼ばれた。スペイン王フェリペ2世は異母兄にあたる。 なお、記事名のうち「ドン」はスペイン語における男性への敬称で、本来名前に含まないが、一般的に「ドン・フアン・デ・アウストリア」で知られることから、本項ではこれを記事名としている。 カール5世の寵愛を受けた 41
海鷹 @SakrelBahr

顔も覚えていない父だが、庶子の出ながら僧門に入らず武人の道に進み、カトリック教国連合軍の総司令としてオスマンの大艦隊を打ち破りキリスト教世界の英雄となったドン・フアンは彼女の誇りであり憧れだった 女である自分には、このまま僧院で朽ちていく道しか用意されていないのだけれど

2024-03-13 21:50:25
海鷹 @SakrelBahr

これが児童小説なら修道院を飛び出したお転婆王女の大冒険が始まるところだが、現実はそんな風にはいかなかった 世界というものが、こんなに荒漠としたものであるはずがない 人生というものが、こんなに味気ないものであるはずがない 多感な少女はそんな思いを押し殺しながら修身生活を続けた

2024-03-13 21:50:26

オレオレ、オレだよセバスティアン!

海鷹 @SakrelBahr

ところで、アナが父の武勇伝と同じくらい夢中になったのが、ドン・フアンの死と同年の1578年に24歳の若さで戦死したポルトガル王セバスティアン1世の逸話 セバスティアン1世(Sebastião I, 1554年 - 1578年)在位:1557年 - 1578年 ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB…

2024-03-13 21:55:37
リンク Wikipedia セバスティアン1世 (ポルトガル王) セバスティアン1世(Sebastião I, 1554年1月20日 - 1578年8月4日)は、ポルトガル王国アヴィス王朝の王(在位:1557年 - 1578年)。「待望王」(o Desejado)と呼ばれる。 ジョアン3世の五男(第8子)ジョアン・マヌエルと、スペイン王カルロス1世(神聖ローマ皇帝カール5世)の娘フアナの子。父ジョアン・マヌエルの母カタリナはカルロス1世の妹、母フアナの母イサベルはジョアン3世の妹であり、セバスティアンの両親は父方と母方の双方で従姉弟の関係にあった。 祖父ジョアン3世には 6 users 1
海鷹 @SakrelBahr

この王が世継ぎを残さず若死にしたお陰でポルトガル王家は断絶し、親戚筋であるスペイン王家の支配下に入った訳 客観的には、莫大な国費をつぎ込んで無謀な遠征をした挙句に大敗を喫した暗君でしかないんだけど、スペインからの独立を望む人々からは悲劇の騎士王として崇拝されていた

2024-03-13 21:55:39
海鷹 @SakrelBahr

乱戦の中で斃れたセバスティアン1世は遺体も回収されておらず、お定まりの「生存説」もささやかれ、若く夢見がちなアナも密かに英雄王の帰還を待望するようになっていた そんな思いに拍車をかけたのが、彼女が尼僧になるべく移動した修道院にいたミゲル・デ・ロス・サントスという修道士

2024-03-13 21:57:52
海鷹 @SakrelBahr

この人、聴罪僧としてポルトガル王宮に出入りしていた経歴があり、一時は政治活動のせいでスペインで投獄されていたこともあるゴリゴリ独立派の愛国者 セバスティアン1世とも面識があるので王の実像は当然知っているのだが… アナには目一杯盛りまくった騎士王セバスティアン像を吹き込んだのである!

2024-03-13 21:57:53
海鷹 @SakrelBahr

輝く鎧を身に着けた聖ミカエルの化身がごとき英雄王 アルカセル・キビールの戦いにおいて、圧倒的な敵の大軍勢に蹂躙されるも、すべてを捨て落ち延びるようにとの臣下たちの嘆願を退けて、単騎でサラセンの大軍団に立ち向かっていった誇り高き騎士 その日を境に御王の姿を見たものはいないのです……

2024-03-13 21:59:51
海鷹 @SakrelBahr

実際は、無能なくせに異常に自己評価が高く、見切り発車でしなくてもいい遠征をした挙句に、周囲のまっとうな助言に耳を貸さず歴史的大敗を喫して国家と国民に多大な迷惑をかけた愚王なんですけどね

2024-03-13 21:59:52
海鷹 @SakrelBahr

でもアナ王女はミゲル修道士の語るロマンティックな英雄像に夢中になり、王の帰還を待望した そして二人の出会いから4年後の1594年、ミゲルは王女に告げたのである 「ドン・セバスティアンは生きておられます。私は先日、お姿を目にいたしました」

2024-03-13 22:00:40
海鷹 @SakrelBahr

セバスティアンは大敗により己が値せぬことが証明されてしまった王位を一旦離れ、再び生得の権利を取り戻す資格を得るために額に汗して労働し高慢の罪を贖うと聖墳墓に誓いを立てた 現在の彼はガブリエル・デ・エスピノーサと名乗ってマドリガルの町でペストリー職人として働いているのだと

2024-03-13 22:01:28
海鷹 @SakrelBahr

※この時代のスペイン、ポルトガルでpasteleroというのは現代のパティシエではなく、エンパナーダみたいなミートパイを作る職人のことらしい ちなみに有名なパステル・デ・ナタ(エッグタルト)はもっと時代が下がって17世紀くらいから? youtube.com/watch?v=HLyI7B…

2024-03-13 22:04:29