新しい楽器:25.分子の音と細胞の音

単著『サウンド・アートとは何か 音と耳に関わる現代アートの四つの系譜』(ナカニシヤ、2023年)(https://www.nakanishiya.co.jp/book/b10044931.html)の宣伝を兼ねてはじめた「新しい楽器」という読み物です。
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nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

25.分子の音と細胞の音|今日は分子と細胞という楽器について。 分子というものがあります。触ったことありませんが。あるいは、常に触っていますが。で、分子は音を出しているかもしれない、という話です。あと、細胞も音を出しているかもしれない、という話です。

2024-03-19 13:01:00
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

分子は常に動いているそうです。学研キッズネットによれば「ぶんしうんどう【分子運動】:物質を構成する分子(または原子)はその状態に応じた運動をしている。これを分子運動または分子の熱運動という。気体では分子はそれぞれ勝手な方向に運動し,容器の壁に当たって圧力をおよぼす。(続く)

2024-03-19 13:01:01
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

(続き)液体の分子も固体の分子も運動しているが,固体では振動になっている。拡散やブラウン運動は分子運動の証拠とされている。」とのこと。これ、良いウェブサイトですね。|ぶんしうんどう【分子運動】 | ふ | 辞典 | 学研キッズネット kids.gakken.co.jp/jiten/dictiona…

2024-03-19 13:01:01
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

「動く」という言葉から頭の中で思い浮かべる状態と、この「分子運動」とはけっこう違うんでしょうねえ。そして、そういう違いを違いとしてすんなり認められることが「分子運動」なるものを理解するためには重要なんでしょうねえ。たぶん。

2024-03-19 13:01:02
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

という感じで、「理系」のことをあまり理解できないままにそのことについて開き直りつつあるアラフィフは、「動く」という言葉の正確な定義についてはテキトーに済ませてしまいたいのですが、多分同じような感じで「分子運動」に言及したかもしれないと推測される人の一人に、ジョン・ケージがいます。

2024-03-19 13:01:03
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

有名なのは、ケージが灰皿について述べたこの言葉です。「この灰皿をみてください。これは振動状態にあります。私たちはそのことを分かっていますし、物理学者は証明することができます。しかし私たちはその振動を聞くことはできません。(続く)

2024-03-19 13:01:04
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

(続き)無響室に入った時、私は自分(が発する音響)を聴くことができました。だから今度は、自分(が発する音響)を聴く代わりに、この灰皿を聴きたいのです。しかし私は、打楽器にするように灰皿を叩くつもりはありません。(続く)

2024-03-19 13:01:04
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

(続き)私は灰皿に内在する生を聴こうとするのです。そのために私は、そのために設計されたのではないでしょうが、適切なテクノロジーの助けを借りるのです。」(ジョン・ケージとダニエル・シャルルの対話集『小鳥たちのために』より)

2024-03-19 13:01:05
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

この発言は、ジョン・ケージという作曲家の技法的展開を考える上で、ケージが打楽器をたくさん作った理由の証言として解釈されることがあります。

2024-03-19 13:01:06
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

ケージは作曲家として活動を開始した初期(1930年代末から1940年代)には、プリペアド・ピアノ作品とともに、打楽器作品も多く作っていました。で、ケージが打楽器に集中した理由は二つあるとされます。

2024-03-19 13:01:07
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

一つは作曲技法の問題。詳細は省きますが、1950年以前のケージは、作曲において、音高や和声ではなく、音の長さに基づいて作曲する方法が正しい、という信念のもと、リズムパターンだけを作曲する、ということをやっていました。「持続に基づく構造化」といいます。

2024-03-19 13:01:08
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

この考え方に基づいて、ケージは、ベートーヴェンよりもエリック・サティを高く評価したりしました。

2024-03-19 13:01:08
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

またもうひとつ。ケージは1930年代に、合衆国の西海岸に亡命してきていたオスカー・フィッシンガー[Oskar Fischinger 1900-1967、ドイツとアメリカで活動した実験映像作家]の助手をしていたことがあったらしく、そこである種の汎神論的な思想を聞いて影響を受けました。曰く

2024-03-19 13:01:09
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

「...ある日、伝統的な音楽の曲に従って正確に組み立てられた抽象的な映画を作っているオスカー・ フォン・フィッシンガーに紹介されたんです。….私が紹介された時、彼はこの世界にあるもの一つ一つに宿っている精霊について話し始めました。(続く)

2024-03-19 13:01:10
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

(続き)その精霊を解き放つには、ものに軽く触れ、ものから音を引き出すだけで充分だ、と彼は言いました。(改行) これが私をパーカッションへと導いた考えなんです。それに続く数年の間ーー戦争へ向かってゆく時期ですがーーどんな音が宿っているのか発見しようと(続く)

2024-03-19 13:01:11
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

(続き)ものにさわったり、ものを鳴らしたり、響かせたりすることをやめませんでした。…」(『小鳥たちのために』より)

2024-03-19 13:01:11
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

『小鳥たちのために』の色々な引用を見つけました。|ひとでなしの猫 ジョン・ケージ/ダニエル・シャルル 『ジョン・ケージ 小鳥たちのために』 青山マミ 訳 leonocusto.blog66.fc2.com/blog-entry-381…

2024-03-19 13:01:12
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

ちなみに、オスカー・フィッシンがーの作品は例えばこのようなものです。このようなものばかりではなく、実写ドキュメンタリーのようなものもあるのですが、つまりは、彼は1920年代の初期の実験映像作家です。youtube.com/watch?v=T6AeUy…

2024-03-19 13:01:13
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

で、ケージにとってこの考え方は、「無響室での経験」と同じように、世界における音響の遍在性を保証する考え方です。つまり、世界には常に既に音響が存在している、それゆえ、人はただ聞くだけで良い/作曲家は音を作り出す必要はない/耳を澄ますだけで音を聞くことができる…といった(続く)

2024-03-19 13:01:14
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

(続き)ケージ独特の音響世界観あるいはケージ的な実験音楽の基盤を保証する考え方です。

2024-03-19 13:01:15
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

ケージが繰り返し語った「無響室での経験」も同じく、世界には人間の意図とは無関係に音が存在していることを保証するエピソードでした。ケージは無響室に入った時、そこでは音が全く存在しないはずなのに、自分の体が発する高い音と低い音の二つの音を発見したそうです。

2024-03-19 13:01:15
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

そこからケージは、主観的に音がないと感じられる状況はあるが、実は、世界には常に音が存在しているのだ、という「発見」を導き出します。沈黙とは無音状態ではなく、音が気づかれていない状態、あるいは、非意図的に存在する音響(非意図的な音、環境音)だ、という発想です。

2024-03-19 13:01:16
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

そこでケージは、そのような音さえも使って音楽作品を制作するために、偶然性の技法などを発明し、1950年代以降は「実験音楽」に邁進していきます。こうした発想から、ケージの(それが魅力である場合も多い)様々なミスティックな言葉は生まれます。

2024-03-19 13:01:17
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

「私が死ぬまで音は鳴っている。そして、死んでからも音は鳴りつづけるだろう。音楽の未来について恐れる必要はない。」 などです。この話(ケージの音楽理念に関する話)はいつまでも続けられてしまうので、ここまでとします。

2024-03-19 13:01:18
nakagawa@『サウンド・アートとは何か』 @nakagawa09

灰皿に戻ります。ここでケージは「適切なテクノロジーの助けを借りる」という留保をつけています。つまり、そのままでは聞くことはできないので、コンタクトマイクなどを使って、その分子運動が生み出す振動を聞き出すのだ、と宣言しているわけです。

2024-03-19 13:01:18