被災建物解体の日台比較 台湾東部沖地震をめぐる言説を起点として

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課内平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

すまじきものは宮仕え 東方と君主制(現代)とエスコンとミリタリーと偉大なる連合王国と緊急事態法制で我が議会は構成されている 。note note.com/wa8492 小説 ncode.syosetu.com/n1149fe/ 凍結など活動が困難な措置を受けた場合は、noteで報告します。

世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

台湾の地震の建物解体について、このような「中国との戦争を見据えた有事法制の整備された台湾では所有者の許可なく地元当局が取り壊しを行なうことができる」が大手を振ってますが、ではその台湾の有事法制とは何を指すのかについては殆ど言及がありませんので日本と簡単に比較しましょう。 x.com/surumelock/sta…

2024-04-13 17:38:27
世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

台湾東部沖地震において建物を解体する台湾法における法的根拠は「建築法」第81条の規定によるものであり、地方政府に公共の安全を脅かす建物の解体を命じる権限を与えています。まぁこの時点で「平時の法律じゃねーか。有事法制?」にはなりますが話を進めます。 pic.twitter.com/VRfwzHpJkq x.com/order1914/stat…

2024-04-13 17:55:50
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建築法および災害後危險建築物緊急評估辦法に基づく解体

世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

どのような基準で建物を解体して良いのかは日本の災対法に相当する災害防救法の委任に基づき制定される「災害後危險建築物緊急評估辦法」により判断されます。判定が「赤」であれば倒壊の恐れがあるとして解体が視野に入ります。4月6日時点では県政府は建物被害233件のうち32件が赤判定としています

2024-04-13 18:06:41
世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

これらの権限が市、県などの地方自治団体に付与されてるので、メガネの総統閣下が「やれ」と命じて、「はい閣下。私は撤去が出来ます!」という仕組みでは当然ありません。勿論これらの事務が地方制度法上の「委弁事務」である場合は、台北から指揮監督を受ける可能性はあります。

2024-04-13 18:18:05
課内平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

台湾では県政府による倒壊のおそれがある「赤」「黄」判定を受けた危険建築物の解体費用を助成する制度が開始されました。所有者の同意なしに県政府が解体できるのは当然ながら建築法第81条に規定する緊急性を満たす場合のみですので、大半は所有者が何とかする必要があります。 pic.twitter.com/oLzXqqD58R

2024-04-29 16:34:39
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準戦時国家としての枠組みは使われたか?

世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

今回は1999年の大地震のように台湾総統が立法院(議会)を迂回して法律を暫定的に制定する緊急命令権は行使されてませんので、準戦時国家らしい枠組みは殆ど用いられていません。

2024-04-13 18:30:09
世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

無論戦時に備えた規定以外に直接依拠してなくても、準戦時国家として形成された法体系そのものが迅速な建物解体を支えている可能性もあるでしょう。コロナパンデミックに制定された特別条例は防疫対策に白紙委任的な授権を政府に与えてしまい、大きな議論になりました。

2024-04-13 18:41:48
世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

〇無論戦時に備えた規定に直接依拠してなくても

2024-04-13 19:00:53
世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

ただ、日本よりも活発な司法審査を展開し人権保障の拡充に貢献している大法官といえども、災害時に建物の解体を所有者の同意せずに実施する建築法の規定を比例原則や依法行政(法律による行政)に反すると判示するとも思えません。無論個々の解体で違法であると判示するケースもあるでしょうが……

2024-04-13 18:52:00

日本法の場合

世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

さて、それでは日本編です。「災害が発生した時に建物を所有者の同意を得ずに解体できるか」ですが、結論としては「事態がどれだけ切迫しているかによる」になります。 pic.twitter.com/jOEwtERmBB x.com/order1914/stat…

2024-04-13 19:30:30
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災害対策基本法に基づく応急公用負担

世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

最も切迫した事態に使用されるのが、災害対策基本法に基づく応急公用負担です。市町村長は災害を受けた工作物(建物も含まれる)を緊急の必要があるときは除去する権限が与えられています。この措置を行う場合は所有者には公用令書の交付すら不要であり、本当に切迫した事態にのみ講じられる緊急措置です pic.twitter.com/Jq9sY3AFfr

2024-04-13 19:51:03
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画像出典:国土交通省HP掲載資料
「空き家対策における事例集 条例又は法令に基づく緊急安全措置の取組(条例、災害対策基本法、道路法)」

災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)

(応急公用負担等)
第六十四条 市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、応急措置を実施するため緊急の必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、当該市町村の区域内の他人の土地、建物その他の工作物を一時使用し、又は土石、竹木その他の物件を使用し、若しくは収用することができる。
2 市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、応急措置を実施するため緊急の必要があると認めるときは、現場の災害を受けた工作物又は物件で当該応急措置の実施の支障となるもの(以下この条において「工作物等」という。)の除去その他必要な措置をとることができる。この場合において、工作物等を除去したときは、市町村長は、当該工作物等を保管しなければならない。
(第3項以下略)

世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

余談ですが、この応急公用負担は市町村長に近隣の住民を強制的にその業務を従事させる事が可能であり、「知るか」と拒否した場合は拘留又は科料(変事非協力罪)を課されるという現行憲法下でもかなり強権的な緊急措置がおまけがついています。

2024-04-13 19:57:14
軽犯罪法(昭和二十三年法律第三十九号)

第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
(第1号~第7号略)
八 風水害、地震、火事、交通事故、犯罪の発生その他の変事に際し、正当な理由がなく、現場に出入するについて公務員若しくはこれを援助する者の指示に従うことを拒み、又は公務員から援助を求められたのにかかわらずこれに応じなかつた者
(第9号以下略)

世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

東日本大震災でも自衛隊がこの権限を行使して、県道上に放置されていた船舶を強制撤去し、所有者から国家賠償請求訴訟を提起されています。ただし仙台高裁(控訴審)はこれを認めず、自衛隊の行動はその必要性、緊急性、相当性を検討し、職務権限を超えるものではないと自衛隊側の行動を追認しています。 pic.twitter.com/LraZ5TzF4X

2024-04-13 20:08:20
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仙台地裁平成24年7月5日判決

原告が所有する船舶が,東日本大震災において発生した津波によって県道上まで流され,被告による同県道の障害物除去・通行確保作業の際に損傷を受けた事案について,同船舶の移動の必要性,緊急性の程度や,損傷の程度,損壊行為の態様等からすれば,被告による損壊行為に職務権限の目的・範囲の逸脱又はその濫用があるとは認められないとして,国家賠償法上の違法性を否定して,原告の請求を棄却した事例

判決主旨①

(略)災害対策基本法は,国土並びに国民の生命,身体及び財産を災害から保護し,社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的として,市町村長に対し,当該市町村の地域に係る災害が発生し,又はまさに発生しようとしている場合に,消防,水防,救助その他災害の発生を防禦し,又は災害の拡大を防止するために,応急措置を速やかに実施することを義務付け,このような応急措置を実施するために緊急の必要があることを要件として,応急措置の実施の支障となる被災工作物等の除去その他必要な措置をとる権限を与えている。
 同法に基づく応急措置及び応急措置の支障となる被災工作物等の除去その他必要な措置は,上記目的及び要件の下に認められるものであるところ,災害及び応急措置の性質上,災害の現場において,応急措置を実施した公務員(市町村長から要請ないし委託を受けた者を含む。)が,その実施の支障となる被災工作物等の除去に伴い,これを損壊することを余儀なくされる場合も当然に予想されるところといえる。
 そうであれば,同法64条2項前段の定める,被災工作物等の除去「その他必要な措置」には,被災工作物等の除去自体に加え,被災工作物等の除去を含むものと解するのが相当である。

判決主旨②

(略)災害対策基本法が,国土並びに国民の生命,身体及び財産を災害から保護し,公共の福祉の確保に資することを目的としている法意に鑑みると,応急措置の実施の過程で,その支障となる被災工作物等を除去し,当該被災工作物等を損壊した公務員の行為が,当該被災工作物等の所有者に対する職務上の注意義務違反に当たり,国家賠償法1条1項にいう違法な公権力の行使と認められるためには,当該行為が行われた当時の災害現場の状況の下で,当該被災工作物等の除去及び損壊行為について,その必要性,緊急性やこれによる被災工作物等の損壊の程度,行為態様から見て,社会通念上相当性を欠き,災害対策基本法の定める応急措置に係る職務権限行使の目的及び範囲を逸脱し,又はその権限を濫用するものと認められることを要するというべきである。

※控訴審・仙台高裁平成24年12月12日判決(判例地方自治375巻76-81頁)で控訴棄却。

世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

災害を受けた建物の解体が緊急に必要となった場合においても、仙台高裁の裁判例が示した「必要性、緊急性、相当性」を満たすかが重要な判断基準になるでしょう。

2024-04-13 20:15:51
世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

ただ、この3要件を常に満たす往生際が良い建物達ばかりでは無いので、この応急公用負担はそこまで出番がありません。そこで現実的には空き家対策法と廃棄物処理法での建物解体に対応する事になります。そちらを見ていきましょう。

2024-04-13 20:26:36

空き家対策法に基づく解体の実施・命令