被災建物解体の日台比較 台湾東部沖地震をめぐる言説を起点として

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世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

空き家対策法(空家等対策の推進に関する特別措置法)では災害その他非常の場合において、居住者がいない特定空家等が保安上著しく危険な状態にある場合はその解体を命じたり、市町村長が自ら実施できる権限を与えています。応急公用負担とは異なり「緊急の必要がある」の要件もありません。

2024-04-13 20:45:53
空家等対策の推進に関する特別措置法(平成二十六年法律第百二十七号)

第二十二条
(第1項~第10項略)
11 市町村長は、災害その他非常の場合において、特定空家等が保安上著しく危険な状態にある等当該特定空家等に関し緊急に除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとる必要があると認めるときで、第三項から第八項までの規定により当該措置をとることを命ずるいとまがないときは、これらの規定にかかわらず、当該特定空家等に係る命令対象者の負担において、その措置を自ら行い、又は措置実施者に行わせることができる。
(第12項以下略)

世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

当然ながら所有者の事前の同意も求められておらず、令和6年能登半島地震においてその適用について国から事務連絡が発せられています。出来立ての新法なので知名度はそこまで高くは無いですが、災害対策基本法や行政代執行法よりかは適用が楽でしょう。

2024-04-13 20:50:51

廃棄物処理法に基づく公費解体

世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

さて最後に廃棄物処理法に基づく解体です。半壊又は全壊した建物を災害廃棄物として市町村が処理する方法です。国が市町村に対して補助金を支出し、それを元に被災者の被災建物を解体します。「公費解体」と呼ばれ、原則として所有者の申請に基づき、所有者の同意を求めるべきであるとしています。

2024-04-13 21:12:46
公費解体・撤去マニュアル第3版(環境省災害廃棄物対策情報サイト掲載資料)

2.所有者の確認
 損壊家屋等の解体は、私有財産の処分であることから、公費解体を行う場合でも所有者自らの申請又は所有者の同意を得てから進めることになる。ここでは、所有者の特定、所有者不明であった場合の損壊家屋等の解体の考え方を示す。
(後略)

世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

ただ国の公費解体マニュアルでは、所有者全員の同意を得られずに二次被害を齎す場合は民法上の緊急避難に該当し、同意を得ずに解体もあり得るとしており、非常に運用が「ふわっと」しています。この公費解体そのものは法定された制度でも無いので当然ですが。

2024-04-13 21:20:38

(参考)損壊家屋等の解体に係る法的整理について
1.建物の解体と所有権との関係について
(略)
2.個別法による対応可能性について
 損壊家屋等による二次災害の発生を防止するなど、行政上の課題に対するために実施される措置については、個別法の趣旨及び内容に照らして違法性がないと判断される可能性があることから、所有者の解体の同意が得られない場合(所有者の一部の同意が得られない場合も含む)における個別法による対応可能性について以下のとおり整理した(個別法の並びは所管官庁の建制順)。
○災害対策基本法に基づく応急措置、応急公用負担等
(略)
○民法に基づく緊急避難
二次災害のおそれが急迫しており、放置すると危険な状態で緊急に解体をする必要がある場合には、所有者の同意を得ずに市町村長が解体することが、民法(明治29年法律第89号)第720条第2項の緊急避難として許容される場合もあり得る。
○道路法に基づく措置
(略)

非常災害における特例措置(東日本大震災の事例)

世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

東日本大震災では「東北地方太平洋沖地震における損壊家屋等の撤去等に関する指針」では所有者等に連絡が取れない場合や倒壊等の危険がある場合には、建物の価値が無いと認められるなら所有者の意向を無視して撤去する事を認めていました。一人一人の人生が凝縮された家も災害廃棄物になるわけです

2024-04-13 21:25:03
東北地方太平洋沖地震における損壊家屋等の撤去等に関する指針(平成23年3月、環境省pdf資料参照)

1.作業のための私有地立入りについて
(略)
2.損壊家屋等の撤去について
(1)建物について

  • 倒壊してがれき状態になっているものについては、所有者等に連絡し、又はその承諾を得ることなく撤去して差し支えない。
  • 本来の敷地から流出した建物についても、同様とする。
  • 敷地内にある建物については、一定の原形をとどめている場合には、所有者等の意向を確認するのが基本であるが、所有者等に連絡が取れない場合や、倒壊等の危険がある場合には、土地家屋調査士等の専門家に判断を求め、建物の価値がないと認められたものについては、解体・撤去して差し支えない。その場合には、現状を写真等で記録しておくことが望ましい。
    (以下略)
世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

災害対策基本法では著しく異常かつ激甚な非常災害が発生した場合はこのような災害廃棄物の収集を国が市町村に代わって広域的に実施する特例措置が設けられており、今度の大震災ではそれこそ雑に我が家がいつの間にか解体される可能性はあるでしょう。

2024-04-13 21:32:05
災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)

(廃棄物処理の特例)
第八十六条の五
著しく異常かつ激甚な非常災害であつて、当該災害による生活環境の悪化を防止することが特に必要と認められるものが発生した場合には、当該災害を政令で指定するものとする。
(第2項~第3項略)
4 環境大臣は、第一項の規定による指定があつたときは、期間を限り、廃棄物の処理を迅速に行わなければならない地域を廃棄物処理特例地域として指定することができる。
(第5項~第8項略)
9 環境大臣は、廃棄物処理特例地域内の市町村の長から要請があり、かつ、次に掲げる事項を勘案して指定災害廃棄物を円滑かつ迅速に処理するため必要があると認めるときは、その事務の遂行に支障のない範囲内で、処理指針に基づき、当該市町村に代わつて自ら当該市町村の指定災害廃棄物の収集、運搬及び処分を行うことができる。
一 当該市町村における指定災害廃棄物の処理の実施体制
二 当該指定災害廃棄物の処理に関する専門的な知識及び技術の必要性
三 当該指定災害廃棄物の広域的な処理の重要性
(第10項以下略)

《補足》道路法に基づく措置

とみしゅー @tomishu_eqrc

枢密院勅令さんは書かれていませんが、加えて、倒壊した建物等が道路に流入して道を塞いでいる場合には、道路法第42条(道路の維持又は修繕)を根拠に、倒壊した建物等のがれきをバックホウ等の重機を用いて啓開を行うこととされています(画像は長崎県道路啓開計画より)。 pic.twitter.com/1BUEsitDEv x.com/order1914/stat…

2024-04-14 12:55:51
世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

さて、それでは日本編です。「災害が発生した時に建物を所有者の同意を得ずに解体できるか」ですが、結論としては「事態がどれだけ切迫しているかによる」になります。 pic.twitter.com/jOEwtERmBB x.com/order1914/stat…

2024-04-13 19:30:30
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とみしゅー @tomishu_eqrc

専門ではないので詳細な基準等は存じ上げませんが、岐阜県ホームページに掲載されている道路啓開マニュアルなどを見る限り、作業時には所有者等に連絡することとされているものの、緊急時はその承諾を得ることなく撤去して差し支えないという運用になっているようです。 pic.twitter.com/wiklsJ8VZP

2024-04-14 13:00:59
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公費解体・撤去マニュアル第3版(環境省災害廃棄物対策情報サイト掲載資料)

(参考)損壊家屋等の解体に係る法的整理について
1.建物の解体と所有権との関係について
(略)
2.個別法による対応可能性について
(略)
○災害対策基本法に基づく応急措置、応急公用負担等
(略)
○民法に基づく緊急避難
(略)
○道路法に基づく措置

  • 災害を受けた工作物又は物件で道路管理上の支障となるものについては、道路法(昭和27年法律第180号)第42条を適用し、原則として所有者等の同意を得て、道路管理者が撤去を行うこととなるが、所有者等が財産性を主張する損壊家屋が道路法上の道路の区域に存置されており、道路の構造に影響を及ぼし、若しくは交通に危険を及ぼし、又はそれらのおそれがあると認められるにも関わらず、所有者等が撤去に同意しない場合には、以下の措置がとりえる。
  • 道路法上、道路区域内に道路管理者の許可を得ずに物件を設置することは禁じられているところ、道路法第44条の3において、当該損壊家屋等の占有者、所有者その他道路区域内に存置されている損壊家屋に権限を有する者(以下、「家屋の占有者等」という。)に対し、道路法第71条第1項に基づく必要な措置をとるように命じたにもかかわらず当該措置をとることを命ぜられた者が当該措置をとらない場合又は家屋の占有者等が現場にいないために、道路法第71条第1項の規定に伴う必要な措置をとることを命じることができない場合には、道路管理者は「自ら除去し、又はその命じた者若しくは委任した者に除去させることができる」こととされている。
  • なお、道路法による場合、道路区域内への影響などを踏まえ、道路管理上必要な範囲に限定され、必ずしも損壊家屋全てを撤去できるわけではないこと、撤去したものについては道路管理者に保管義務があること及び除去等により生じた費用については家屋の占有者等の負担となることについても留意が必要である。
道路法(昭和二十七年法律第百八十号)

(道路の維持又は修繕)
第四十二条
 道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。
(第2項以下略)

(違法放置等物件に対する措置)
第四十四条の三
 道路管理者は、第四十三条第二号の規定に違反して、道路を通行している車両から落下して道路に放置された当該車両の積載物、道路に設置された看板その他の道路に放置され、又は設置された物件(以下この条において「違法放置等物件」という。)が、道路の構造に損害を及ぼし、若しくは交通に危険を及ぼし、又はそれらのおそれがあると認められる場合であつて、次の各号のいずれかに該当するときは、当該違法放置等物件を自ら除去し、又はその命じた者若しくは委任した者に除去させることができる。
一 当該違法放置等物件の占有者、所有者その他当該違法放置等物件について権原を有する者(以下この条において「違法放置等物件の占有者等」という。)に対し第七十一条第一項の規定により必要な措置をとることを命じた場合において、当該措置をとることを命ぜられた者が当該措置をとらないとき。
二 当該違法放置等物件の占有者等が現場にいないために、第七十一条第一項の規定により必要な措置をとることを命ずることができないとき。
(第2項以下略)

(道路管理者等の監督処分)
第七十一条
道路管理者は、次の各号のいずれかに該当する者に対して、この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定によつて与えた許可、承認若しくは認定(以下この条及び第七十二条の二第一項において「許可等」という。)を取り消し、その効力を停止し、若しくはその条件を変更し、又は行為若しくは工事の中止、道路(連結許可等に係る自動車専用道路と連結する施設を含む。以下この項において同じ。)に存する工作物その他の物件の改築、移転、除却若しくは当該工作物その他の物件により生ずべき損害を予防するために必要な施設をすること若しくは道路を原状に回復することを命ずることができる。
一 この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定又はこれらの規定に基づく処分に違反している者
二 この法律又はこの法律に基づく命令の規定による許可又は承認に付した条件に違反している者
三 偽りその他不正な手段によりこの法律又はこの法律に基づく命令の規定による許可等を受けた者
(第2項以下略)

総評と応答

世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

以上が日本、台湾の災害時における被災建物の解体の簡単な比較です。本格的に比較しようと思うともっと文献が必要になるでしょうが、ここで紹介した情報は議論のたたき台として最低限のものでしかありません。

2024-04-13 21:34:14
とり赤 @thrired

@order1914 これは台湾の場合はこれくらいの災害(異常かつ激甚と言えるとは云えなさそう)で受け入れられ、日本ではそのようなことは今のところ受け入れられない可能性がある(とされている)と言う所に注目点があるということでしょうか?

2024-04-13 21:35:15
世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

@thrired 特定の建物の解体が所有者や居住者の同意を得ずに実施されたという事実から「有事法制があるからだ」に飛躍する論理的根拠が無いという話です。

2024-04-13 21:45:02
とり赤 @thrired

@order1914 有事法制関係ないですもんね... どちらかというと政府としての考え方の違い(まあ強権的な方がやりやすい(政府としての行動は)と思いますが)

2024-04-13 21:47:22
世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

まぁ深夜残業明けに資料を漁りながら調べても、適当に煽った方が幾らでも伸びるんだろうな。

2024-04-13 21:59:00
世界平和を祈願する枢密院勅令 @order1914

コロナや災害と比較されて、「韓国と台湾は準戦時国家だから」で脳内停止して、そもそも彼らはどういう根拠でどんな対策しててどんな評価なんだまで調べようともしないから。

2024-04-13 22:05:22