しろちち氏によるナウシカ考察、上人編

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しろちち@C103日曜西け28b委託 @shirochichi0707

城と各国歴史、提督業等を嗜むお兄さん。TLとサークル「異端審問官城」にてビザンツ&金沢城研究・ナウシカ考察を展開中。 BOOTH⇒shirochichi.booth.pm メロブ⇒melonbooks.co.jp/circle/index.p…

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一月ぶりの漫画版 #ナウシカ 考察は、4巻で彼女が出会う「上人さま」と、5巻以降で彼がナウシカの内なる「虚無」として立ち現れる意味について掘り下げていきたいと思います。 pic.twitter.com/drrfY8AaGk

2024-02-17 18:40:51
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まず、実在人物としての「上人さま」は4巻半ば、ナウシカが土鬼内を移動中にとあるオアシスで出会います。そこで彼は「墓所の封印が解かれた」こと、それに伴う破局=大海嘯が不可避の宿命であることをナウシカに告げます。 pic.twitter.com/YCfRKguzLp

2024-02-17 18:44:34
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これに対しナウシカは「私は生きるのが好きだ」「私は諦めない」と反駁しますが、5巻に入り大海嘯が進むにつれ、上人の姿と言葉は「内なる虚無」となって彼女を苛むようになります。 pic.twitter.com/PL4YqTDBjD

2024-02-17 18:49:57
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ただ、上人とナウシカの「内なる虚無」の言動には微妙な差があります。即ち、両者とも死・滅びを「必然」「宿命」と見る点は同じなのですが、よく読むと上人は「滅びは必然であり浄化の過程」とは語っても、死=滅びそのものに積極的な価値(救済)を見出してはいません。

2024-02-17 18:54:29
しろちち@C103日曜西け28b委託 @shirochichi0707

一方、ナウシカの「虚無」は死=滅びに「もはや苦しみ悩むことのない救済」という「意義」を釈き、もう一人のナウシカ自身が必死にこれを否定しようとする点が大きく異なります。 pic.twitter.com/xAGf2YanSQ

2024-02-17 18:58:03
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寧ろ実際の上人は「神に仕えるため」自ら盲になる苦行を受け、また土鬼皇帝からの弾圧を受けても決して折れず耐え続け、加えて人生の最期に自分に反駁を加えた少女を「優しく猛々しい風が来た、永く待った甲斐があった」と歓迎までしており、死を救済とみる姿勢とは対極的ですらあります。 pic.twitter.com/1st65AYIwt

2024-02-17 19:05:29
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とすると、上人が「虚無」として立ち現れるのは、ナウシカ自身の問題が大きいと言えそうです。もう一度、ナウシカの上人への反駁を読んでみましょう。彼女は上人に対し「違う、私の信じる神は生きろと言っている。私は生きるのが好きだ」と返しています。 pic.twitter.com/RIVabLsWgc

2024-02-17 19:08:11
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これは裏返すと、ナウシカは上人の主張を「もはや我々は死ぬべきである、生きることに意味などない」と取ったことになります。ですが先に述べた通り、上人自身は「滅びは避けられない宿命だ」とは説いても、「生きようとすること」自体を否定してはいません。

2024-02-17 19:11:41
しろちち@C103日曜西け28b委託 @shirochichi0707

だからこそ上人はナウシカの反駁を歓迎し、「心の赴くままに進みなさい」と温かく送り出す訳です。その意味では、ナウシカの反駁は、些か「独り相撲」の感がありますが、実は彼女の反駁にはより危険な点があります。 pic.twitter.com/sk8xXNJxsC

2024-02-17 19:18:10
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それは「生と死(滅び)」を対置し、後者を強く否定している点です。これが先鋭化すると、5巻後半のナウシカ自身のように夥しい死に押し潰されることになるという以上に、「いずれ来る死」を受け入れられず、「死なないこと」そのものに縛られ、「どう生きるべきか」を見失いかねない危険があります。

2024-02-17 19:23:55
しろちち@C103日曜西け28b委託 @shirochichi0707

そうした「死なないこと滅びないこと」が自己目的化し、「生」を見失った極北が、例えば神聖皇帝ミラルパであり、更には本作のラスボスである「墓所の主」となります。 pic.twitter.com/iY2ihKusna

2024-02-17 19:30:36
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即ちミラルパは自らの死=帝国の崩壊を恐れる余り延命を繰り返した末、帝国に圧政を敷き続ける晩年を過ごします。また墓所は「人類という種の永続(或いは浄化世界の完成)」という未来の目的だけを見続けた結果、現在を生きる生命を「浄化の途中経過」として等閑視するに至りました。 pic.twitter.com/MNK38fKi6J

2024-02-17 19:37:59
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翻ってナウシカと「虚無」との対話(?)ですが、ここでも死を救済・安寧として説く虚無に対し、ナウシカは「生」を訴え反駁します。それに対し虚無は鋭く糾弾します。生きるためにおのが手を血に染め、屍の上を歩いてきたお前がそれをヌケヌケと語るのか?と。 pic.twitter.com/uO6yYtIT44

2024-02-17 19:43:12
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しろちち@C103日曜西け28b委託 @shirochichi0707

そう、結局「死を否定して生を肯定する」限り、ナウシカのように「生のよって立つ所にある矛盾」に耐えられなくなるか、ミラルパ達のように「他者の生命・死を顧みなくなり、生きることそれ自体が自己目的化する」かのどちらかになる訳です。それこそが正に「虚無に呑まれる」という事態となります。

2024-02-17 19:47:49
しろちち@C103日曜西け28b委託 @shirochichi0707

この問題を乗り越えたナウシカが語る生死観こそが、墓所と対峙した際の「いずれ死すべき者として、それでも目一杯「現在」を生きること」となるわけです。その意味では、虚無との対話(?)は最終決戦に向けた、避けがたい「試練」だったと言えるのではないでしょうか。 pic.twitter.com/ck4P1rQBsY

2024-02-17 19:55:36
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しろちち@C103日曜西け28b委託 @shirochichi0707

以上の点を踏まえると、ナウシカの内なる「虚無」が上人の姿と言動を真似たのは、上人自身の問題と言うより上人との対話を通じ露呈した4-5巻時点のナウシカの価値観ー生と死を対置して後者を否定する姿勢―に起因していた…と考えますが、如何でしょうか。

2024-02-17 19:59:32
しろちち@C103日曜西け28b委託 @shirochichi0707

今回の考察はこんなことこで。以下宣伝。これまでのナウシカ考察総集編を下記BOOTHとメロブで絶賛頒布中ですので、ご興味のある方は是非。なおBOOTHの方には総集編Ⅰ~Ⅴの電子版もあります…! BOOTH shirochichi.booth.pm メロブ melonbooks.co.jp/circle/index.p…

2024-02-17 20:03:08
しろちち@C103日曜西け28b委託 @shirochichi0707

宣伝②。現在、夏のC104に向けた総集編Ⅶも絶賛制作中です。今回は漫画版/映画版の比較検証を、絵コンテや初期設定などの「途中経過」とあわせ考察していく予定ですので、乞うご期待!

2024-02-17 20:05:42