工房径ついのべ集 2011年９月

工房径（koubou-kei） @pleaseinuplease

#twnovel 「そろそろ返事くれる？」残業でふたりきり。仕事の確認事項みたいにさらりと言われ、キーボードを叩く手が止まる。告白の後「一週間待つ」と一方的に決めたあなた。椅子をくるりと向けられて、あなたの瞳に私が映る。焦らされたら言いにくいんだってば。ずっと、好きだったなんて。

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#twnovel 落ち込んで沈んだ、ちょっと底まで。そんな時にいつも電話をくれるあなた。『え、別に。どうしてるのかと思ってさ』。今私はそんな彼の腕の中。彼が私を撫でる手が切ないほど語る。『心配したんだぞ？　もう何も気にするなよ』。私も身体を擦り寄せた、この気持ちが届くようにと。

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#twnovel 喉が渇いたとか、偶然だとか。会社近くのこのカフェで君と出会った理由はいくつでも言い訳できる。戸惑う君が勧めるまま、同じテーブルに向かい合わせで腰掛けた。さあ、どうしよう。仕事の話なんて野暮なことはしないよ。せっかく君が照れたような顔で、僕を見つめているんだもの。

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#twnovel わからないからあえぐのさ。自分の限りも、君への想いも。僕たちの海の向こうには、大陸はおろか島すら見えない。君の姿が波間に見えるのだけを頼りに、当て処のないクロールを繰り返し、繰り返し。生きるためだけじゃ苦しすぎる。藻掻け、藻掻け。そして僕のこの手を取れ、君。

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#twnovel もう、ノックはしないで。きらきら回るユニコーンの回転木馬はもう止めた。色とりどりの風船も空に放った。遊園地は閉園の時間。何重にも鍵をかけたの、私のウサギたちが飛び出して行かないように。お願い、その気もないのに手懐けないで。……ああ、今夜もノックの音がする。

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#twnovel 何だか切なくなるんだ、久しぶりに君と会うと。冷たいのも、ある意味君の持ち味だってわかってる。君の着る驚くほど鮮やかな衣装も、甘く熟した果実も、嫌いじゃないのに。こんこん、ノックの音がする。泣きたくなるのはなぜだろう。幾つになっても慣れないよ、こんな、秋の気配は。

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#twnovel 「大好きな『エヌ氏』のために頑張って！」からかいの声に、僕が好きなあの子は、しいっ、と慌てた。ねえ「エヌ氏」って誰？　僕は切なくなって眼鏡を外しレンズを拭く。かけ直した時感じる彼女の視線。目が合えば赤くなって俯いて。まさかね。フレームに記されたロゴは、Ｎだけど。

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#twnovel 酔った勢いで意中の彼に電話した。ねえ、月の光が猫みたいに鳴いてるよ。お散歩しない？　だって一緒の方が、何かと幸せになれるもの。電話を切って、ふうとため息。何やってんだろ。まどろんでいると部屋にノックの音がする。「誘ったのは君だ」驚く私に、彼は月のように微笑んだ。

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#twnovel 「ちょっと我慢すれば済むことだろ」上司と喧嘩した私に、同僚の彼は手厳しい。「できるならやってるよっ」涙を隠して俯いた私を、彼は自分の胸に引き寄せた。温かい。だめ、勘違いしちゃ。きっとこれは同情。意を決してもがけば彼が睨んだ。「だから！　ちょっとは我慢しろって！」

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#twnovel あなたが冷たくみえるのは、冷静に皆のためを思うから。今日も歯に衣着せずものを言い、悪者になってしまった。でもそんな生き方しか出来ないあなたの棘は、オルゴールのピンとなり私の鍵盤を鳴らすんだ。だからずっとここにいて。あなたの旋律を聴いて、私ごと。

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#twnovel 私の言葉はドロップス。缶をからから逆さにしなきゃ何が落ちるかわからない。確かあったと思うんだ、陽気なオレンジ、あまーい苺。なのにいつもあなたには、ひりひりからいミント味。それでもあなたは笑うんだ。どうか私を許さないで。きっと最後の一個まで、また懸命に探すから。

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#twnovel 今日も俺たちはいつもどおり生きている。日曜だから特撮見ながら朝飯食って。妻は休日出勤。地下鉄に乗って、いつもの駅に降りるんだろう。「パパ、昼ごはん何にする？」「今食ったばっかじゃん」なんて笑って。泣かない、祈らない。だけどそれが俺たちのR.I.P. 3.11。

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#twnovel 片手に酒瓶携えてぶらりと彼がやってきた。今宵は十五夜。『私の部屋、窓から月が見えるんだ』自慢のつもりが”ふたりきりで月見”とは。飲むほどに感じる視線は酔いのせい？「月、見なよ」「ばぁか」彼の笑みは月より怪しく。「十五夜なんて口実だ。夜、お前の部屋に行くための」

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#twnovel 「月は元々ふたつだったんだ」と彼は言った。「地球に衝突した星の欠片がふたつの月に、それが又ぶつかってひとつになった。だから月は裏と表でまるで違う」彼は硝子の杯を置く。「こんな風にね」私たちは重なり合いそのままひとつに。カーテン開いたままですよ、と月が笑った。

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#twnvday 君と出会ったのは博物館。エジプトのミイラを穴の開くほど見ていた君は、ヒエログラフ柄のバッグを下げていた。思わず僕は言ったんだ「それロゼッタストーンだよね？」って。振り向いた君と目が合い、瞬間僕は恋に落ちた。今でも僕は読み解いている。難解で魅惑に満ちた君の秘密を。

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#twnvday 僕が君を好きだというと、君はいつも「なぜ？」と答える。なぜって、それはわからないけど。他に術を知らなくて、僕は君に触れるんだ。君の素晴らしさ、君の愛しさ。この指で、唇で、くまなく君の身体に刻み込む。エジプト王を称えたあのロゼッタストーンのように。

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#twnvday 「ロゼッタストーン！　あの元BCRのイアンのバンドでしょ？　『二人のパラダイス』いい曲だったわあ」ついのべをひねる俺にそういう嫁は６つ年上。あっけにとられる俺を尻目に、洗い物をしながら熱唱する彼女。BCRもイアンも知らんが、ふたりのパラダイスはここかもね。　

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#twnvday 今宵、君をもらう。リストランテは予約済み、指輪の箱は胸ポケットの中。甘いプロポーズの言葉は、眠ってたって言えるほど復唱した。略奪者は用意周到なもの。エジプト遠征に学者を連れて行きロゼッタストーンを奪った、かのナポレオンのように。 #twnovel

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#twnvday カクテルは如何？　グラスが空になる前に、私の謎を解き明かしてみせて。ジンにレモンジュース、アマレットにグレナデンシロップ。キスはまだよ。女の手の内は、そう簡単にはみせないもの。まずはあなたの手札を見せて。淡い紅のグラス、そのカクテルの名はロゼッタ・ストーン。

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#twnvday なあ、 こっち向けよ。ふたりきりの夜、背中合わせじゃ淋しいぜ？　こう見えてナイーブなんだよ、この俺は。びっしり埋まった言葉の裏は、でこぼこだらけのクレーター。気の利いた台詞なんか言えねえし。なあ、なあ。頼むから、こっち向けって。仲直りのキス、させてくれよ。

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#twnvday 僕はたんぽぽのロゼッタ葉。ぎざぎざの葉を四方に這わせて、君の声を聞く。君がつらいとき、真っ先に手を差し伸べてあげられるように。僕はロゼッタ。地面一杯に葉を広げる。少しでも多く、君の愛を受けられるように。 #twnovel