『砂の城』

#砂の城 で連載しているツイノベ集です。 少しずつ更新する予定。
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愁夢 @s_shumu

そう語る彼の横顔はなにかをたどっているようだった。「砂浜って?」「砂で出来た岸、かな? さらさらと乾いた砂があってね、砂遊びとかもするね」「砂遊び?」「うん、砂で山を作ったり、そこにトンネルあけたりね。ああ、城なんかも作るんだっけ?」「砂で、お城を?」「そう」 #砂の城

2012-01-14 23:37:22
愁夢 @s_shumu

「砂のお城……」「まぁ、作っても場所が悪かったらいつの間にか波にさらわれたりするんだけどね」「さらわれる?」「そう、波で」「波?」「あ、そっか。えっと、海では水が絶えず揺れてて、打ち寄せてくるんだ。それを波って言うんだよ。波は砂浜に作った城を流して、潰してしまうんだ」 #砂の城

2012-01-14 23:46:46
愁夢 @s_shumu

「それは寂しいね」「うーん、そうだけど、そういうものでもある、かな」「そういう、もの?」首を傾げるシェルの青い、青い瞳。「そう。砂は脆い。だから、いつかは絶対に壊れてしまう」伏せられる瞳。灰銀の髪が揺れる。「でもね、作ったことは忘れない。そして、絶対また作り直せるんだよ」#砂の城

2012-01-14 23:51:53

雪、物思う夜。

愁夢 @s_shumu

「雪……」シェルも寝静まった夜。ふわり、ふわりと舞い始めた白い白い雲の欠片。外に出ると息が白く煙った。身に纏っていた空気の層が掻き消えて、冷たい空気がそっと忍び寄る。見上げれば、雪は後から後から落ちてくる。こんな風に、時間も降り積もって。気付かないうちに何かを隠すのかな。#砂の城

2012-01-16 00:40:20
愁夢 @s_shumu

思わず出した手の上に雪は舞い降りて、でもすぐに溶け出して消えていった。皮膚に吸い込まれたのなら、僕の一部になったということだ。そんな風に時間もすべて溜め込んでいけたらいいけれど。きっと気付かないうちに地面に落ちてしまうものだってある。そのまま溶けてしまうものだって。#砂の城

2012-01-16 00:46:46

雪降る、暖かな朝に。

愁夢 @s_shumu

目覚めると、いつだってスティはぼくのそばにいる。暖炉に火が入ってあたたかくなった部屋のなか、そっと意識を持ち上げると優しいスープの香り。まぶたをゆっくり持ち上げると、ぼくより先に「おはよう、シェル」と彼は笑う。「寒いね。今日は雪が降ってるよ」寒さなんてぼくは知らない。 #砂の城

2012-01-16 01:06:42
愁夢 @s_shumu

「おはよう、スティ……雪、ふってる、の?」寝ぼけた顔のまま、シェルがベッドからもぞもぞと這い出てくる。「昨日の夜からね」「ああ、夜のスティ、冷たかったもんね」ごそごそと着替える姿を見ながら、朝ごはんを温めなおしに行く。「あ、気付いてた?ごめん」「ぼくが暖めるから、いいよ」#砂の城

2012-01-16 01:23:21

雪遊び、達磨になるのはボク。

愁夢 @s_shumu

「今日は寒いから」とスティは何度もくりかえして、ぼくにいつもよりぐるぐるとマフラーを巻かせ、昨日より一枚多く服を着せ、手袋をさせた。「濡れて寒いと感じたらすぐに帰ってくること。着替えはあるからね」厳重な注意の後で、彼は銀世界に繋がる扉を開ける。「いってらっしゃい、シェル」#砂の城

2012-01-16 01:44:12

駆けてく君の足跡、振り返る君の笑顔。

愁夢 @s_shumu

「いってきます!」満面の笑みで飛び出していった彼の背中を見送る。駆けていく彼の真っ新な雪の上に残された小さな足跡。シェルはいつか僕を振り返りもせずに駆けていく。そう望んでいる自分の奥で、ちくりと胸が痛む。部屋に戻ろうとした瞬間。「スティー」振り返れば、手を振る小さな影。 #砂の城

2012-01-16 01:56:36