未来へ紡ぐ初めての音

私は、自分の声が嫌いです。 女性系でも男性系でもない、しゃがれたノイズ交じりの声。 だから、私は歌わない。歌えない。
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ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel 一人と一台の間に緊張が高まる。「では…ミク」頷く。今までエネルギーパックを含むときしか使っていなかった口というパーツ。ゆっくりと開く。私というプログラムの中で、声を出す、という命令が初めて処理される。『…ァ』初めは小さく。『…ア、ア』

2012-04-06 00:06:26
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel 女性系でも男性系でもない、しゃがれたノイズ交じりの声。『ア、ア、ア』だけど、私達は笑っていた。『ア・イ・ウ・エ・オ』オウルの顔が綻んで。『1、2、3…』アンドロイドの私の表情も変わっていて。初めての音。初めての声。これでオウルと…話せる。

2012-04-06 00:11:38
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel しばらく試した結果、アクセントと単語の繋ぎが上手くいかないことがわかった。オウルに比べて私の声はどうも平坦になってしまう。「まあ、とりあえず現状はこれで良しとしよう」オウルが言った。「ミクと話せる。それだけで十分じゃ」『ハイ』「ただし!」

2012-04-06 00:19:06
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel オウルは私の目の前に後ろ手に持っていた紙を突き出した。いつの間にやら書いていたらしい。「これだけは!これを読んでくれ、ミクよ!感情を込めて!さあ!!」【大好き!オウルおじいちゃん!(はぁと)】にっこり笑って私は言った。『こ の 変 態』

2012-04-06 00:25:06
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel その夜、私達は色々な話をした。今までの事、これからの事。たくさん、たくさん。オウルの言葉に、私が答えて。私の呟きに、オウルが笑って。…ノイズ混じりなんて関係なくて。ただただ、私の思いを、考えを、声に出すことが楽しかった。…本当に楽しかった。

2012-05-08 23:06:35
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel 「うまく話せるようになったら、次は歌う事に挑戦したいのう」オウルの言葉に首を傾げる。『歌ウ…ですカ?』「うむ、あの遺跡には、まだまだ探索していない場所がある。もしかしたら他にも無事なパーツがあるかもしれん。ミクよ、ワシはの」オウルが笑った。

2012-05-08 23:17:03
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel 「ワシはミクが歌う姿を見てみたい。こんな時代に目覚めたお前が、いつか歌で皆を元気づけられたとしたら。それは、どんなに素敵な希望となるじゃろうかの」『私ガ…歌う』ピンとこない。『私は初期設定も終わっていないアンドロイドです』「ボーカロイド」

2012-05-08 23:24:07
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel オウルが言う。「歌を歌うアンドロイドの事をボーカロイドと呼んだそうじゃ。遺跡の中で見つけた資料に書いてあったよ。ここで発掘されたお前さんは、本来は補修パーツとして存在していた。それは、つまりボーカロイド用だったという事じゃろう」

2012-05-08 23:35:33
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel 『不可能です。ボーカロイドと呼ばレル機能を追加スル事ができません。私ハ、私の性能を理解しています。私は…』「やれやれ、まだそういう事を言うのか」『オウル…』「食事を毎日作ってるのは誰だ?洗濯をしているのは?発電機の修理は誰がやってる?」

2012-05-08 23:43:27
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel 「発掘品の整理は?遺跡の地図は誰が書いた?」オウルの優しい手が私の頭を撫でる。「ワシの助手は、初めは何もできんかった。ひどいもんじゃった。お湯を沸かす事もできんかった。じゃがの…ワシの助手は」笑う。「覚えのいい子じゃ。自慢の助手じゃ」

2012-05-08 23:48:57
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel 『オウル…』「今は歌えん。それだけじゃ。いつかでいい。いつか、ワシにミクの歌を聞かせておくれ」私はコクリと頷いた。『アリガトウ、オウル…』「何、礼などいらんわい…それよりもじゃ」ギランとオウルの目がぎらつく。「これだけは言っておくれ!!」

2012-05-08 23:54:01
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel ウザい老人の声が聞こえる。「一度でいい!おじいちゃんと呼んでくれ!!」鼻息荒いです。『くそじじい?』「冷たい目でそんな風に呼ぶな!ゾクゾクくるじゃろう!」最悪です。最低です。やがて始まった口喧嘩は深夜まで続いた。勝者はあえて語るまい。…フ。

2012-05-09 00:00:24
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel 一週間が過ぎた。私とオウルは、その間遺跡の探索を続けていた。補給飲料の貯えもしたかったし、補修用パーツが見つかるかもという期待もあった。「ミクはなかなかワシに言ってくれんが、身体のあちこちに不調があるからのお」「…」何も言えない私。

2012-07-21 22:23:18
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel オウルの考えが正解だったのか、遺跡の奥にはアンドロイド関連の施設が幾つか存在した。機能は停止していたが、奇跡的に風化を免れた機材が見つかる事もある。私の両目は同じ型のパーツとなり、綺麗な色で世界が見えるようになった。

2012-07-21 22:28:26
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel 遺跡から出る時、私はいつもコンサートホールに立ち寄った。無数の椅子が並ぶ空間。その中心にある円形のステージ。廃墟となった今、そこは歌う者も無く、歌を聴く者もいない。目的は無い。しかしステージに立って、明かりの無い周りを見るのが日課となった。

2012-07-21 22:40:15
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel 「そろそろ帰ろうか、ミク」オウルの声に振り返る。ステージに立つ私に、オウルは優しく微笑みかけた。「気に入ったか、その場所が?」「分かりません」首を振る。「でも、この空間はどこか他とは違う気がします。こんな事私が言うとおかしいですね」

2012-07-21 22:55:27
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel 「いつか、この場所でミクが歌うのを聴きたいの」「またその話ですか」「無理とか言うでないぞ。年寄りの楽しみを奪うもんじゃないわい」「分かりましたクソジジイ」「その台詞はおかしい」「気のせいですクソジジイ」「笑顔で言われると傷つくぞい!?」

2012-07-21 23:00:03
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel 話せるようになってから私とオウルは口喧嘩ばかりだ。言いたい事を言うのが『楽しい』。私の中のシステムが、軽快に動作しているのがわかる。少しずつ機能を増やしていく私の身体。私が『目覚めてから』、今が一番幸せな日々。だから、私は。

2012-07-21 23:08:39
ハラヨシ @harayosy

未来へ紡ぐ初めての音 #twnovel この後の記憶、いえ『記録』がどうしても忘れられない。

2012-07-21 23:09:36