natsu1985さんによる2011年日本SF短編ガイド

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natsu1985 @natsu1985

予告通り、2011年日本SF短篇回顧を始めたいと思います。まだまだ読み切っていないものが残っているのですが、とりあえずタイムリミットということで当座の手持ち札だけで話させていただきます。ご寛恕ください。

2012-02-01 00:11:13
natsu1985 @natsu1985

去年国内で発表された広義のSF短篇と私がカウントしたものは、ざっと小説200篇(うちショート・ショートが40本くらい)、漫画が50篇。ただし連作や境界領域作、企画もののちょっとした作品なども律儀に数えたので、実感的な数値ではないかも。量的には去年よりも微増という印象。

2012-02-01 00:25:41
natsu1985 @natsu1985

小説の発表媒体の内訳は、SF専門誌37、オリジナルアンソロジー58、文芸誌22、中間小説誌等エンタメ系小説誌26、単行本書き下ろし30、ウェブ媒体での公開27、同人誌その他が11。(ただしアンソロジーにSS集の「物語のルミナリエ」を含む)。諸々の媒体で満遍なく書かれている印象。

2012-02-01 00:37:46
natsu1985 @natsu1985

ちなみに創元SF短篇賞受賞作家のミステリーズ!掲載作はSF専門誌としてカウントしております。

2012-02-01 00:41:11
natsu1985 @natsu1985

今年の傾向としてまず挙げられるのが、やはり3.11の影響下で書かれた作品。神林長平、牧野修、川上弘美、高橋源一郎、筒井康隆、萩尾望都、しりあがり寿、とり・みき等がこの状況にSFの形式で応答している。チャリティ関連のアンソロジーも多く組まれた。

2012-02-01 00:50:12
natsu1985 @natsu1985

もっとも、北野勇作「きつねのつき」や井上文月「ZNTV東京支局」等、震災前に執筆された作品でシンクロニティが話題になった作品もいくらか存在する。もともとカタストロフ的想像力を核とした作品は日本SFでは連綿と書き続けられていたテーマなので、ことさら震災と関連付ける必要はないのかも。

2012-02-01 01:01:03
natsu1985 @natsu1985

シリーズもの短篇が多かったのも今年の特徴。天冥の標、マルドゥック、MM9、スワロウテイル、機龍警察etc...。長編と併せて参照しなくてはならないため、リスト作成者としては難儀した。「NOVA」シリーズの登場で単発作品に脚光が当たったのと対照する現象と見るべきか。

2012-02-01 01:23:43
natsu1985 @natsu1985

難儀といえば、今年は短篇集の年でもありました。年刊傑作選以降のSF短篇復権の実りが一気に収穫された印象で、一つのメルクマールといえますが、反面、優れた作品がどれもこれも他で読めてしまい、年刊傑作選自体が編みづらくなってしまうというジレンマが。

2012-02-01 01:35:04
natsu1985 @natsu1985

長い前置きでしたが、いよいよメインイベント。私家版・日本SF傑作選2012を発表いたします。一応、単行本収録状況とかアンソロジーとしての相乗効果も考えたつもり。直前まで悩んだ。

2012-02-01 01:43:02
natsu1985 @natsu1985

①庄司卓「5400万キロメートル彼方のツグミ」(ファミ通文庫『3分間のボーイ・ミーツ・ガール』)②三島浩司「ミレニアム・パヴェ」(SF JAPAN春号)③大西科学「ふるさとは時遠く」(SFマガジン2月号)④小田雅久仁「耳もぐり」(小説新潮9月号)、

2012-02-01 01:49:43
natsu1985 @natsu1985

⑤間瀬純子「揚羽蝶の島」(小松左京マガジン41号)⑥宮内悠介「清められた卓」(webミステリーズ!6月号)⑦九井諒子「金なし白祿」(COMITIA98出品作)⑧タタツシンイチ「鋳像」(異形コレクション『物語のルミナリエ』)⑨上田早夕里「石繭」(同)、

2012-02-01 01:54:23
natsu1985 @natsu1985

⑩堀晃「崩壊」(同)⑪北野勇作「社員食堂の恐怖」(『NOVA4』)⑫須賀しのぶ「凍て蝶」(『NOVA5』)⑬深堀骨「卵の私」(SFマガジン10月号)⑭円城塔「良い夜を持っている」(新潮9月号)⑮神林長平「いま集合的無意識を、」(SFマガジン8月号)。500ページ弱くらいか。

2012-02-01 02:03:08
曽根卓 @sonesuguru

@natsu1985 お疲れ様です。多方面に目配りの取れたラインナップだと思います。自分ならNOVAからの収録を牧野修に、異形コレからの作品をいくらか間引いて同人誌作(何はともあれ大樹連司『劇画・セカイ系』)にすると思いますが、その他は(④、⑦は未読ですが)ほぼ同意します。

2012-02-01 02:18:50
natsu1985 @natsu1985

@sonesuguru ありがとうございます。同人方面はもう少し真面目にリサーチすればよかったかなあという気持ちもありますね。

2012-02-01 03:11:41
natsu1985 @natsu1985

推薦理由。①ド直球のラブストーリーながら、トップバッターとしての見栄えの良さを買って。②ワイドスクリーン・バロック的な世界背景が魅力。長編化にも期待。③「旅人の憩い」「海を見る人」の実に世知辛い変奏。小説技術・アイデア運用の点で難があるが、①②との恋愛もの繋がりの効果も含めて。

2012-02-01 02:20:22
natsu1985 @natsu1985

④ネタとしては新味はないものの、町田・舞城を思わせる饒舌体と感覚描写の精確さが買い。ただこれも恋愛ものなんだなあ。⑤怪奇幻想小説の秀作。蝶、纏足、廃電車と一見無造作に置かれたモチーフが綾なす様が、カメラアイでじわじわ描写される贅沢な趣向。

2012-02-01 02:32:36
natsu1985 @natsu1985

⑥「スペース金融道」との2択で、完成度の点でこちらを選んだ。「麻雀異能バトル」というコンセプトをネタに走らず、エンターテインメントとしてしっかり読ませる。⑦「画竜点睛を欠く」の故事が元ネタの和ファンタジー。九井諒子はSFも描いているが、資質的にはこっちの方がしっくりくる。

2012-02-01 02:42:28
natsu1985 @natsu1985

⑧⑨⑩SSは「100万光年のちょっと先」とか、他からも採りたかったが、結局すべて異形コレクションから。ヒノシオ風、人生の苦み、ある時代の終わり。⑪時節柄、未来の見通しの暗さを基調とする作品が目立った中、混沌をそのまま呑み込んでやろうという逞しさが心強い。

2012-02-01 02:53:12
natsu1985 @natsu1985

⑫あたかも「DQⅤ」の諸要素を分解・再構成して、現実世界に持ってきたような作品(勿論偶然の一致)なので、個人的なツボにはまった。語り一辺倒の歪な構成も波乱万丈な人生の表現として相応しい。⑬SFマガジンに載ってるからどう見てもSF。1行たりとも読み逃せない緊張感。

2012-02-01 03:04:27
natsu1985 @natsu1985

⑭フィクションとしての人生、生の虚構性に怜悧かつ親しく寄り添う傑作。現代科学によってゼンマイを巻かれた記憶の人、フネスの軌跡はかくも感動的。

2012-02-06 01:33:17
natsu1985 @natsu1985

⑮作中の主張にはいま一つ乗れないが(そういうもんでもないだろうと思う)それは実作を待つとして、震災直後の状況を静謐かつ余裕を持った筆致で切り取った私小説として賞賛したい。

2012-02-06 01:38:19
natsu1985 @natsu1985

というわけで続きです。(ヤケに間延びした上に大したこと書いてない…。)以下、その他の推薦作をば。

2012-02-06 01:42:47
natsu1985 @natsu1985

円城塔「道化師の蝶」(群像7月号)、宮内悠介「スペース金融道」(『NOVA5』)、伊坂幸太郎「密使」(同)、樺山三英「庭、庭師、徒弟」(『NOVA6』)、津原泰水「微笑面・改」(『11』)、篠田節子「エデン」(『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』)、

2012-02-06 01:56:51
natsu1985 @natsu1985

北野勇作「五丁目の穴ぼこ」(Web文芸誌MAOGROSSO連載)、深町秋生「スラッシュ&バーン」(別冊宝島『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしオールミステリー』)。

2012-02-06 01:59:11
natsu1985 @natsu1985

漫画では市川春子「月の葬式」(アフタヌーン10月号)、田中雄一「まちあわせ」(同7月号)、松井優征「東京デパート戦争体験記」(ジャンプNEXT SUMMER)、加藤宏「ヘビ女物語」(モーニング41号)あたりを推薦しておきたい。以下、あまり読まれていないマイナー作紹介をいくつか。

2012-02-06 02:05:48