natsu1985さんによる2011年日本SF短編ガイド

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natsu1985 @natsu1985

前掲の深町秋生「スラッシュ&バーン」は年金制度が崩壊し、スラムと化した近未来の東北(!)を舞台にした痛快バイオレンス・アクション。大麻の収穫期を求めて山形にやってきたスケバン・桐崎マヤは、地域の元締め達と死闘を繰り広げる羽目に…。

2012-02-06 02:34:54
natsu1985 @natsu1985

著者はてダの読者にはお馴染みの、現代日本社会の底抜けな部分を思いっきり誇張して作りあげた救いのない世界観が見どころ(年金機構が搾取機関化してたり特高が復活してたり)。ある種確信犯的にオリエンタリズムな描き方をされている「ねじまき少女」の日本像と読み比べると、あまりの落差に笑える。

2012-02-06 03:00:53
natsu1985 @natsu1985

雀野日菜子「死に母たちの告げ口」(小説宝石1月号)。今様に官僚機構化した極楽浄土で、菩薩がモンスターなお母さん達に翻弄される話(シリーズ2作目)。コメディとしてウェルメイドな作りながら、キャラ立ての上手さと仏教ネタの豊富さは確か。

2012-02-06 03:15:29
natsu1985 @natsu1985

井口ひろみ「20th century beauty」(小説新潮11月号)、新型インフルエンザが副次的にもたらした摂食障害により、人々の美的感覚が大幅に変わってしまった平行世界の日本。流行のぽっちゃりモデルのマオは男友達の彼女で重度インフル患者のリカとファッションショーで対決する。

2012-02-06 03:34:37
natsu1985 @natsu1985

というあらすじから「顔の美醜について」な展開を期待するとオチで盛大にずっこける。それでいいのかという。空気作り自体は極端なデフォルメに走らずいい感じなんですが。

2012-02-06 08:24:38
natsu1985 @natsu1985

前川知大「鬼の頭」(群像4月号)、変人肉食系女子・鬼頭さんの秘密とは。文芸誌というよりは“fellows!”か「ヤングジャンプアオハル」でコミカライズしたらしっくりきそうな話。この手の話としてのポイントはしっかり押さえられていると思います。

2012-02-06 22:23:23
natsu1985 @natsu1985

木下古栗「Tシャツ」(群像11月号)、第三人称神の視点の胡散臭さをとことん追求して描く、日米ハイソ中年群像劇(と要約してもどうしようもない)。筋が全然記憶に残らない感じは中原昌也、ふざけ方と文体の乾きぶりは清水義範のパスティーシュものを連想させ、最後にはバブリング創世記化する。

2012-02-06 22:54:57
natsu1985 @natsu1985

意欲作であることは認めるがいかんせん長い。長く書くのが一つの目標であるはずだがそれでも。ギャグのパターンは払底し、退屈に突入するにつれ作品自体も鬱いだ情感を醸し始めるが、その彼岸に見えるものがあるかといえば微妙。素直に笑い一本で突き通して欲しかった。

2012-02-06 23:09:25
natsu1985 @natsu1985

田中雄一「まちあわせ」(アフタヌーン7月号)、異性生命体(あらゆる生物と交雑する)との相の子として生まれた少女と、その幼馴染みとの純愛を描く“泣ける”ポストヒューマンSF。身なし子、貧困、生き別れ、妊娠に出産と筋だけ抜き出せばこれでもかといわんばかりの泣かせ要素だが、続)

2012-02-06 23:43:05
natsu1985 @natsu1985

これがSF設定と有機的に綺麗に重なり、ストレートな感動を演出する。あざといがそれだけでは終わらないのは、丁寧に考えぬかれた構成と描写の細やかさゆえか。韓国映画の原作とかどうですか。

2012-02-07 00:09:17
natsu1985 @natsu1985

この機会にもう少し言及しとこう。壁井ユカコ「flick out」(小説新潮6月号)。は少年時代、周囲に自身を「失せろ」と念じている人間がいると、どこか離れた場所へテレポートしてしまう能力を持っていた春木直。彼は息子に能力が遺伝しているのではないかと感づき…。

2012-02-11 21:58:52
natsu1985 @natsu1985

SF設定はメタファーとして機能する程度だが、学園生活の無風さの対比として効果的に使われている。どうということもない話なのだけど、個人的にはこういう話は好物。

2012-02-11 22:16:04
natsu1985 @natsu1985

岡本倫「きみとこうかん」(週刊ヤングジャンプ08号)、エスパー魔美における「超能力」と「お色気」の2要素を一つにまとめた(おそらく)オマージュ作。いろいろと粗いがこの設定を思いついた時点で半ば勝ったも同然。最後寸止めで終わるのは少年誌的制約と見せかけた作者の悪意と読んだがどうか。

2012-02-11 22:44:18
natsu1985 @natsu1985

加藤宏「ヘビ女物語」(モーニング41号)、MANGA OPEN大賞受賞作。僻村出身で進路に悩むヘビ女子高生・ミナコの成長とその周辺をほのぼのと、しかし力強いタッチで描く。画力・構成・キャラクター造形ともに新人離れした巧さ。

2012-02-11 23:25:57
natsu1985 @natsu1985

人外萌えマンガは今年数あまた描かれたが、本作の基調はひょうひょうとしたユーモアと生活感のこもった日常描写(ケータイの電波を求めて電柱に巻きつくなど)で、それらと一線を画す。クライマックスの脱皮シーンはSF的にはどうかと思うが美しい。

2012-02-11 23:47:57

勝手に同人誌推薦作を補完しておくと、大樹連司「劇画・セカイ系」(『正常小説。』)、森田季節「永理の縁が閉じるまで」(『正常小説。』)、波津尚子「帰らぬレール」(『SFファンジン』)、禾原葉一「不在の都市」(『ずんだ文学第五号』)、水なづき蕎麦「量子の海のカルペディエム」(『伊藤計劃トリビュート』)、clementia「感情の楽譜」(『伊藤計劃トリビュート』)。例年なら『新天狼』か『HORIZM』から一本入れるんだけど、今年は空回った印象かなー