国産ミステリ諸行無常

2/12~13の笠井潔さんのミステリ関連の呟きのまとめです。主に60年代以降の国産ミステリの栄枯盛衰について語ってらっしゃいます。
7
笠井潔 @kiyoshikasai

江戸川乱歩から都筑道夫、島田荘司まで、本格がミステリの中心である(あるべきだ)と考えているが、それは違う。犯罪小説の歴史は「モルグ街」より古いし、本格ジャンルが事実上消滅した第二次大戦後のアメリカで、広義ミステリの諸ジャンルが隆盛を極めてきた事実もある。

2012-02-12 15:16:31
笠井潔 @kiyoshikasai

それにしても『黄色い部屋はいかに改装されたか?』には、作者の真意を突きとめがたい箇所が少なくない。笠井が、1970年当時のミステリシーンをよく知らないからだろうか。この年は本を読む暇などなかったし、少し前まで購読していたのは「ミステリマガジン」でなく「SFマガジン」だった。

2012-02-12 15:22:04
笠井潔 @kiyoshikasai

正確には都筑は、「本格推理小説が、推理小説のいちばん純粋なかたち」だと述べている。「純粋である」と「中心である」は、少し意味が違うかもしれない。

2012-02-12 15:33:12
笠井潔 @kiyoshikasai

都筑道夫の森村誠一批判を読み返していたら、最初に森村作品を読んだときのことを思いだした。所要で関西に行くとき、東京駅の売店で『新幹線殺人事件』を買って、新幹線の車内で読んだ。ちょっとした洒落のつもりだった。夏樹静子と並ぶ力のある新人だと思い、『高層の死角』も続けて読んだ。

2012-02-13 02:55:16
笠井潔 @kiyoshikasai

森村氏の新作を追っていたが、やめたのはミステリだと思って読んだのが恋愛小説だったからだ。松本清張にも似たような記憶がある。たしか「ロマン・ミステリー」とかいう惹き句だった『波の塔』が、たんなる恋愛小説で、騙されたように感じ、しばらくは新作を読まないことにした。

2012-02-13 02:59:13
笠井潔 @kiyoshikasai

当時のカッパノベルスには、このように看板を偽る姑息なところがあって、純真な中学生から恨みをかっていたのである。「社会派」として売り出された梶山季之や黒岩重吾も同じで、デビュー当初はともかく、どんどんミステリとは関係なくなっていった。

2012-02-13 03:05:03
笠井潔 @kiyoshikasai

国産ミステリは面白くないし、創元文庫の大戦間本格も主なところは読み尽くし、興味の中心はSFに移った。さきほど長山靖生氏の『戦後SF事件史』を読み終えたところだが、1960年代の日本SFは本当に輝いていた。ミステリからSFに乗り換えた少年は、笠井一人ではないと思う。

2012-02-13 03:15:23
笠井潔 @kiyoshikasai

60年代の国産ミステリは大人のサラリーマン読者を獲得した反面、「新青年」時代以来の中心的読者層だった青少年読者を失ったのである。それでも、ジャプリゾやボアロ/ナルスジャックやアルレーは読んでいた。ベ平連事務局長の吉川勇一氏に『シンデレラの罠』を貸したことを覚えている。

2012-02-13 03:19:41
笠井潔 @kiyoshikasai

吉川氏は筋がね入りのSFファンで、銀背のSFシリーズを全巻揃えていた。高校を中退してぶらぶらしていた少年は、自分では買えない翻訳SFの新作を、もっぱら吉川氏から借りて読んでいた。『シンデレラの罠』などを貸したのは、そのお返しのつもりだった。

2012-02-13 03:22:38
笠井潔 @kiyoshikasai

ともあれ時代は変わり、1990年代に入ると、今度はSFが青少年読者を新本格に奪われることになる。そして21世紀のいま、本格はラノベに若い読者を奪われている。諸行無常の響きあり、というところか。

2012-02-13 03:25:09
笠井潔 @kiyoshikasai

もちろん、このような事態が放置されていいわけはない。若い読者から支持されるのは結果で、前提は探偵小説が21世紀的な質を獲得することだ。探偵小説は伝統芸能だから型を反復していればいい、いちいち時代に対応する必要などないという書き手もいるようだが、それでは本格は滅びてしまう。

2012-02-13 04:14:47
笠井潔 @kiyoshikasai

まあ、滅んでも別にかまわないという立場もありうるだろうが。

2012-02-13 04:16:05