山本七平botまとめ／「八百長のある日本、八百長のないアメリカ」

山本七平bot @yamamoto7hei

1】一体アメリカとは何なのか。アメリカという形で統一された「伝統なき空間的モザイク」が、組織として機能するように構成している枠組みは何なのか。＜日本人とアメリカ人

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2】「憲法です、そしてそれに基づく法規です。アメリカとはそれだけの国でそれ以外には何もありません」これは～略～『デンバー・ポスト』の論説主幹の言葉である。氏の言葉をきいていると「法的規制以外にアメリカ人を規制するものはないし、あってはならない」という風にも聞こえる。

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3】その通りかもしれぬ。否応なしにモザイク型に多様化した文化が併存するなら、文化的統合とか伝統的・慣習的規制とかは許されず、ましてや文化の中心である中央への指向で統合する訳にもいかず、「明記された法」という枠組み以外の事では、各人は勝手たるべし、と言う以外にない。

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4】ところが各人勝手といえば「法の間隙を埋める為」、各人勝手に法とか規約とか規則とか相互契約とかをつくり、その構成員とその当事者はそのルールを守るという以外に、統合の方法はなくなる。そこでアメリカとは「法だらけ」の国で「石を投げたら弁護士にあたる」という形になる。

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5】まず合衆国憲法に始まり、州憲法、州法、古法、町法、村法から、私的な法、いわば博物館法、店内法、家法とでも言うべきものまで、各人が勝手に判定しているという感じである。そして法がそれより”上級”の法と衝突すれば、弁護士のお出ましとなる訳であろう。

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6】「何かといえばすぐ弁護士、こんなに法だらけでは窮屈でたまらんでしょう」 「いえ、アメリカにはスペースがありますからネ、その州の州法がいやなら、気に入った州法の州へ行け、という事ですな。端的にいえば博打をやりたくなったらネバダ州へ行け、死刑反対なら死刑のない州へ行け（続

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7】続＞禁酒州にいたいなら酒をのむな、という事なんです」とＮさんは言った。 「じゃ、全部いやだったらどうすればいいんですか」 「そんならアメリカから出てけ、でしょうネ。ここは何しろ、”入ってきた人間の国”ですから、いやなら”出てほかへいけ”という発想が絶えずあるんです。

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8】続＞これは町にも、村にも、店にもあります」～略～そしてこれは店でも変わりはない。いわば、ここはオレの店だ、オレの店に入ってくるなら、オレ様の定めた店内の法規に従え、いやなら出てほかへいけ、であって「お客様は神様」ではない。

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9】この事を最初に知らされたのは、ワシントンでＮさんとコーヒーハウスに入った時であった。見ればカウンターの上に「禁煙」と書いてある。店主の定めた店内法規であろう。私は内心甚だ不愉快であった。

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10】というのは、それは国務省での討論の後、コラムニストのコノー氏に会いに行く途中で、簡単にいえばコーヒーを飲んで一服したいから入ったのである。喫茶店に入って、「禁煙」とやられては欲求不満が募り、余計にタバコが吸いたくなる。

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11】「禁煙を破ったらどうなります」「つまみ出されるかもしれませんな」と言ってＮさんは南部の禁煙バーでの体験を話してくれた。～略～そういうバーに入って、Ｎさんがカウンターで喉を潤していると、町のオニイちゃんといった風体の二人連れが入って来て禁煙を無視してタバコに火をつけた。

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12】その瞬間、店主が物凄い見幕で「タバコが吸いたきゃ他の店へ行け。俺の店に入るのなら俺の店のルールに従え。いやなら出て行け。」と怒鳴った。「アメリカ人が拳銃をつきつけるのはああいう時なんですよ。二人はすぐ出て行きましたから、それで済みましたけれど……」という事であった。

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13】店内法、館内法、ホテル内法でこの有り様、全くアメリカ人は「それは法規だ」と言い出すと始末の悪い問答無用の人間になる。もっとも多人種モザイク国家にはこれ以外に秩序を保つ方法はないのかもしれぬが、ＳＦ市警の交通整理を見た時には、問答無用のその荒っぽさには少々呆れ（続

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14】つくづくと「日本でこんな事をやったら大変な事だろうな」と思った。 一言でいえばルール違反者に対しては極めて”非民主的”であり、全く”人間性無視”の”物理的規制”を平然と、無表情でやってのけるのである。

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15】それはその日の三時頃だったと思う。～略～ホテルを出た。すると次の十字路に人だかりがしており、交通はストップで名物の電車もとまっている。～略～天皇が出てくる処らしい。こういう交通規制に対して、アメリカ人は少しも文句をいわず、急ぐ者は迂回し、暇な者は見物している。

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16】アメリカ人は権利の主張はうるさいが「天皇のため交通どめまでして……」といった様な日本的な小姑的批判は皆無である。～略～白バイが二台、パトカーが二台、次に何かの車があって、そのうしろの大型車が天皇の車～略～それがホテルの入り口に並んでいる。

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17】群集は歩道に並んで見ている。だが、並んでいると、天皇から遠くなるにつれて天皇の方がよく見えないから、遠い者はつい隣のものより車道へ首を出す結果になる。～略～何しろ車止めになっているから、ついつい皆が車道へと出てしまう。

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18】結局天皇の行進方向の道路の歩道からは、天皇の車から離れるに従って次第に人が車道へとはみ出して来て～略～道路を塞いでしまった形になっている。日本なら「車道へ出ないで下さい」「道をあけて下さい」と拡声機で怒鳴りつづける処だろうが、パトカーも警官も平気でこれを放置している。

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19】一体この車道にあふれた群集をどう整理するつもりなのか。天皇が出てきたらしく、ホテルの入り口が少しざわめいている。その瞬間、私は思わずアッと言いそうになった。白バイが二台、走り出した。この二台が、車道に出ている人の列すれすれにダダダダッと走るのである。

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20】群集は驚いてダダッと後ずさりする。二台は一定のところまで行くとＵターンをして、またものすごい勢いで、女性のバストすれすれにつっ走る。～略～警官は全く無表情でこのＵターンを数回くりかえし、結局、一言も発さずに、群集を”物理的”に歩道に押し上げてしまった。

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21】それを見極めてパトカーが走り出し、ついで天皇の車も動き出し、一行は飛行場の方へ走った。こういう時の警察官の表情はまるで仮面のように無表情、そしてこれは「法の命ずるところで私の意志ではない」といった態度、文字通りの法の執行吏である。

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22】確かに「車道に出るのはルール違反」であろう。違反と知ってやっているのだから、これを規制するには何の注意も必要がない、”物理的”に規制すればそれでよろしい、というのが恐らく彼らの考え方である。そして不思議な事に～略～これに対して抗議らしい態度を示した者は一人もいない。

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23】皆それが当たり前、という顔をしていた。日本なら「権力的」とか「非民主的」とかいった非難の大合唱になるであろう。だがこういう事は、この国では「個人の生命の安全」のために、必要不可欠の事かもしれない。

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24】 #真珠湾攻撃 のパニックの時、なぜハワイで、日系が手引きしたというデマのもとに日系狩りが起こらなかったのか、多人種国家の中で、 #関東大震災 の朝鮮人殺害のような悲劇がなぜ起こらなかったかを調べてみた。そして何よりも驚いたのが、その瞬間における徹底した物理的規制である。

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25】外出禁止令と電話使用禁止令で全ての人間を家に閉じ込めて遮断し、これを群集化させず、デマの電話交換をやらせず、ラジオによる一方的指示のほか一切を断って魔女狩り的騒動を防いでいる。これで見るとアメリカとはこういう荒っぽい統制以外に統制の方法がない国という気もする。