ザ・ファンタスティック・モーグ #3
「なかなか面白い説話だ。オヌシらの間で流行しておるのか?」接近するニンジャスレイヤーの瞳がジゴクめいて赤く光った。「その説話はナイトサーバント=サンも好んでいたようだ。私が心臓を握り潰して殺したがな」「な……」クルーエルアイアンが後ずさった。「奴は貴様に……!?」 23
2012-04-02 17:44:01「死ぬ前にハイクを詠みたくば、私がこれからオヌシの首を刎ねるより先に話せ。モナカ・ギンザに……そして彼女のかつての家に、何の用がある」「モナカ?」飛び下がりながらクルーエルアイアンが叫び返す。「貴様、あのババアに何の用だ?なぜ守る?ファックでもするのか?お節介焼きめが!」 24
2012-04-02 17:51:20クルーエルアイアンは素早く己のキセルに口をつけた!「勝ったつもりで油断したなバカめがーッ!」その胸が異様に膨らむ!なんたるニンジャ肺活量か!そして息を吹き込む!「ブフゥーッ!」キセルから黒煙が噴き出した!あきらかにこれは有毒な何らかのガスだ!至近距離!アブナイ! 25
2012-04-02 17:54:47「イヤーッ!」だがニンジャスレイヤーは研ぎ澄まされたニンジャ反射神経によって攻撃に対応!地面スレスレまで身を沈めながらの水面蹴りだ!彼のすぐ上にはモクモクと毒雲が立ち込めるが、煙は上に上がってゆく!身を沈めた彼には無効だ!「グワーッ!」足を刈られ転倒するクルーエルアイアン! 26
2012-04-02 17:59:11転倒の勢いによって、クルーエルアイアンの身体は空中で上下逆さになる。頭が地面に!そこへ、ニンジャスレイヤーの水面蹴り二回転めが!「イヤーッ!」直撃!「グワーッ!」クルーエルアイアンの頭が蹴りの勢いで切断され、地面を転がる!転がった先、倒れたゴミバケツに突入!ポイント倍点! 27
2012-04-02 18:10:02「サヨナラ!」ゴミバケツの中からくぐもった断末魔が聴こえ、頭を失ったクルーエルアイアンの身体が爆発四散した。ニンジャスレイヤーは転がって煙の範囲を逃れ、起き上がってザンシンした。オリガミ・メールが彼の目の前をヒラヒラと舞う。彼はそれを素早く掴み取った。 28
2012-04-02 18:14:30「……」彼はオリガミメールの文章に目を走らせ、眉根を寄せた。そしてセントー廃墟を……かつてモナカ・ギンザとその家族が暮らしていたであろう場所を一瞥すると、「イヤーッ!」電柱と建物の壁を三角飛びで上り、そのまま夜の闇に再び消えて行った。 29
2012-04-02 18:21:29ナンシーは窓ガラスからネオサイタマの美しい夜景、サラリマンの残業によって維持される地上の宇宙を見下ろす。彼女の後ろで、そんなサラリマンの一人はいびきをかいて寝ていた。ツケナミである。 31
2012-04-02 22:31:32ガウン姿のナンシーは折りたたみ型の携帯UNIX端末を開き、セッションをリクエストした。ツケナミが起きてくる気配は無い。やがてリクエストへの反応がある。ニンジャスレイヤーのログインだ。 32
2012-04-02 22:37:40彼女は無造作に耳の後ろの生体増設LAN端子にケーブルをコネクトし、タイピングを開始する。ツケナミ?起きてくるものか。ナンシーの名誉のために……あるいはツケナミの名誉のために申し添えておくと、両者は行為には至らなかった。しかしナンシーは有益な情報を聞き出せるだけ聞き出した。 33
2012-04-02 22:43:44ナンシーはチカチカと点滅するニンジャスレイヤーのアカウントを感じる。だがコトダマ空間へのエントリーは無い。ニンジャスレイヤーは高速移動中であり、タイピングに集中できる環境下に無いというわけだ。|ドーモ|ナンシーはojigiコマンドの後、アイサツした。|ドーモ|と返答。34
2012-04-02 22:56:58|音声変換に切り替える|とニンジャスレイヤー。|ところで上司殿が隣で寝ています|とナンシー。ニンジャスレイヤーはこの手の冗談には乗って来ない。ナンシーは音声に切り替える。『上司のツケナミ=サン、酔いつぶれて寝ているの。オデン屋台で思う存分グチを聞いてあげたわ』『そうか』 35
2012-04-02 23:06:25そう、ナンシーはツケナミを泥酔させて情報を収集し、そののち彼を会社近隣のこのビジネスホテルに休ませた。何か面倒があった時の為のハラスメント脅迫材料として、彼女はツケナミの写真を撮った。せっかくだから彼女自身はホテルのスパ・サービスを利用し、今こうして部屋へ戻って来た。36
2012-04-02 23:10:01『ヒトミ=サンの事だけど、やっぱり会社と一揉めあったの。サラカイカ・ヘクトはつい最近、新役員を受け入れて、組織の大規模な再編成を行った。その首切り役が彼、ヒトミ=サン』『……なるほど』ニンジャスレイヤーは答えた。『罪悪感と責任感の板挟みという、サラリマンの例のインガか』 37
2012-04-02 23:20:16ナンシーはニンジャスレイヤーの無感情な言葉に潜む、言外の何かを感じ取る。だが、続けた。『……新役員のドロムラ、かなりヤバイみたい』ナンシーは言った。『社内で護衛のニンジャを連れ歩き、恐怖で会社を支配している。名前はカコデモン……聞いた事は?』『いや』38
2012-04-02 23:29:12『ドロムラは元国家官僚。経緯はよくわからないけど、いきなりサラカイカ・ヘクトにやってきた。サラカイカ社の業績は順調だし、株のおかしな動きも特に無かった。それをいきなり、横から鷲掴みよね』『……』39
2012-04-02 23:36:43『ええと、ヒトミ=サンが、よくあるストーリー、首切り役を気に病んで自殺したとすれば、私のこの後の仮説は憶測になってしまうけど……』ナンシーは前置きした。『いや』ニンジャスレイヤーはそれを遮った。『それは無い。彼が自殺を選択する事は、絶対に無い』 40
2012-04-02 23:39:56『なにか掴んだ?』『うむ。だがまずは話を聞かせてもらおう』ニンジャスレイヤーが促す。ナンシーはチャを一口飲んだ。『彼、ドロムラと事を構えたんじゃないかしら?ヒトミ=サンはいわば、高潔な人物。そんな彼が過酷な首切りを命じられる……なら、せめて、首切り断行の理由に納得したい筈』41
2012-04-02 23:52:23『納得……か』『そう、納得。せめて自分がサラカイカ・ヘクトの発展に貢献できているという納得。首切りが会社の為になっているという納得。愛社精神ってやつよね。でもそれが違ったとしたら?首切りを命じた人間が……会社を私するだけの、邪悪な存在であったとしたら?つまり、ドロムラが!』42
2012-04-03 00:02:50『成る程。説得力がある』ニンジャスレイヤーは言った。『僭主のもとで個人が左様な正義感を持てば、待つのは悲劇だ』『好奇心は猫を殺す』ナンシーは言った。『ドロムラが会社を手中に収めた経緯を知る人間が社内に殆どいないの。何かそこにまつわる秘密を掴もうとした、掴んだ……?そして……』43
2012-04-03 00:22:56『そして排除された』ニンジャスレイヤーが言った。ナンシーは頷く『ええ。殺された……とすれば、辻褄があう。突然死扱い、そのまま社葬、二階級昇進、至れり尽くせり。ね?そしてここでモナカ=サンが登場。血のつながった家族、危険の迫った彼は死ぬ前に何かを、外部……家族へ送っていたら?』44
2012-04-03 00:34:35『モナカ=サンは、』ニンジャスレイヤーの言葉は、ナンシーのUNIX端末が発する電子ナリコアラートでかき消された。液晶パネルにホテルの廊下が映し出される。ルームサービスめいた姿の男。インターホンに手を伸ばす。ナンシーは目を見開いた。彼女は立ち上がり、ガウンをその場に脱ぎ捨てた。45
2012-04-03 00:51:18ブザー音。それから、ドアをノックする音。「ルームサービスでしてェ」「ドーモ、今開けますから」ナンシーはハンガーにかかった秘書スーツを無視。足元のスーツケースを開き、ライダースーツを着込む。そして拳銃を手に取る。ルームサービス?そんなものは頼んでいない。つまり、それは! 46
2012-04-03 00:55:31