山本七平botまとめ/日本人の思考を拘束する宿命論「なるなる論」

山本七平著『「常識」の研究』/128頁以降より引用
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山本七平bot @yamamoto7hei

①大分前の事だが、ある教授と話をしているうちに、大学における「議論」というものは、大変に面白いものであるという話になった。 教授が笑いながら、大学紛争のとき、火事になった際、消防士を校内に入れてよいかどうかが問題になったと言った。<『「常識」の研究』

2014-05-29 21:38:37
山本七平bot @yamamoto7hei

②「紛争が起こっても機動隊を入れてはいけない」 「では火事になっても消防士を入れてはいけないのか」 「いけない」 といった種類の議論で、教授は「消防士は学問の自由とは関係ないでしょうにね。大学内の議論は時々ヘンな方向へ行ってしまう…余りに論理的なのですかな」と言って笑った。

2014-05-29 21:40:53
山本七平bot @yamamoto7hei

③これはまじめな討論ではなく、雑談の間に出てきた一笑話なのだが、後でなぜそういう結果になるかを考え、その間にどういう論理が作用しているかを想像したとき、 これは大学だけでなく、われわれの社会のすべてに通ずる問題ではないか と思った。

2014-05-29 21:41:47
山本七平bot @yamamoto7hei

同じ社会に存在する以上、大学だけに全く別の論理が作用するとは考えにくいからである。 論理というよりも、そういう結論が出る思考の過程を結論の方から逆にたどっていくと、次のようになるに相違ない。

2014-05-29 21:42:30
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤「火事の時に消防士を入れてよいとなると、結局、紛争の時には機動隊を入れてよいということになる。 そうなると小さな紛争のうちに警察官をいれた方がよいということになり、次に紛争を芽のうちに摘んでしまうために刑事をいれた方がよいということになる。

2014-05-29 21:43:45
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥「となると……となり、さらにそれが……となって、最終的には学問の自由が侵される」。 これを「学問の自由」の方からたどれば、 「火事になっても消防士を入れてはならない」 という結論になるであろう。 議論はおそらく、そのような形で進行したものと思う。

2014-05-29 21:44:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦この思考の過程にあるものは、何であろうか。 それは簡単にいえば一種の宿命論で、 「こうなるとこうなり、そうなればああなる……」 という「なる」の論理であって、そこには意志的な「する」がないのである。 そしてこの論理に拘束されると、人間は何も「する」ことができなくなる

2014-05-29 21:46:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧では何もしなければよいのかというと、そうはいかない。 というのは 「何もしないとこうなる。こうなると、ああなる…」 という形になり、最小限、何かをしなければならなくなる

2014-05-29 21:46:55
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨そこで、 何かをしているが、実際には何もしない という状態に陥り、日常業務が機械的に動いていく以上のことは一切しないという状態に安住する結果になる。 以来私は、この議論を「なるなる論」と呼んでいる

2014-05-29 21:47:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩そしてこの「なるなる論」の方式をあてはめて、何かの議論の跡をたどってみると、現在マスコミで論じられている様々の議論が、実はこの「なるなる論」であることに気づく。 有事立法も、原子力発電の問題も、教育論も福祉論も、みなこの「なるなる論」に落ち着いていくのである。

2014-05-29 21:49:06
山本七平bot @yamamoto7hei

その結論はしばしば、「火事になっても消防士を入れてはいけない」式になっているが、この結論から論理を逆にたどると、大学におけるこの種の議論とほぼ同じ過程をたどっており、到底これを笑うわけにはいかなくなる

2014-05-29 21:50:10
山本七平bot @yamamoto7hei

この「なるなる論」の面白い点は、それが反論不可能だという点である。 事実、前記の教授も、消防士を入れてはならないという結論になったとき、これに的確に反論できなかったらしい。

2014-05-29 21:50:55
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬さらにそこに、 これに反対する者は、学問の自由を売り渡そうとする権力の手先だ… などという非難・糾弾が入ってくると、どうにもならなくなって当然であろう。 従って、反論されまいとすればこの「なるなる論」がもっとも便利だから、マスコミに愛用されても不思議ではない

2014-05-29 21:51:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭この「なるなる論」は、組織が、その組織を存立させている目的を見失ったときに起こる。

2014-05-29 21:52:28
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮いわば大字が「教育をする」「研究をする」というその目的への意識的な対応、すなわち「する組織」である限り、その「する」に対応して、発生する様々な現象にどう対処するかという「する」が問題になるが、この基本が失われれば一切は「なる」に還元される

2014-05-29 21:56:21
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯そして「なるなる論」は、誰かの「する論」を 「そうするとこうなる、こうなると…」 という形で葬ってしまっても、決して自分の方から「こうすべきだ」とは発案しない企業にこれが出てくると、それは倒産への第一歩と考えてよいであろう。もっともこれは企業だけの問題ではないが…。

2014-05-29 21:58:11