重症急性膵炎に予防的抗菌薬投与は必要か(Pro and Con)

重症急性膵炎に対する予防的抗菌薬投与の必要性はいまだにControversial.そのざっくばらんなまとめ.
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⅃ЯAƎ⊿せかんどらいふすたあと @DrMagicianEARL

1990年代以降の急性膵炎に対する予防的抗菌薬は重症膵炎または壊死性膵炎を対象とした臨床試験になっており,いまだに重症例に対する予防的抗菌薬投与は賛否両論があり,結論は出ていない(抗菌薬を投与しなければいけないわけではない).

2012-04-04 19:27:14

急性膵炎は日常診療で遭遇する一般的な消化器疾患のひとつであり,保存的治療にて軽快する軽症例から,炎症が膵局所に留まらず全身に及び,集学的治療を必要とする重症例まで多彩な病状を呈する疾患である.特に高齢者に発生した重症急性膵炎は,非高齢者に比べ予後が不良とされており,しばしば治療に難渋する.また,重症急性膵炎の初期治療においては,抗菌薬投与による治療が重要な役割を果たしており,日本及び海外の急性膵炎に対する診療ガイドラインでも抗菌薬による治療が推奨されている(急性膵炎診療ガイドライン2010/J Gastroenterol Hepatol 2002;17:S15―39/Pancreatology 2002;2:565―73).

しかしながら,近年相次いで報告された重症急性膵炎に対する予防的抗菌薬使用に関するメタ解析は,予防的抗菌薬投与が死亡率や感染症合併率を抑制しないという結果を示している(Pancreatology 2007;7:531-8/Am J Gastroenterol 2008;103:104-10).これに伴い,ガイドライン2010では重症例に対する予防的抗菌薬投与の推奨度がAからBに下げられている.

この2つのメタ解析の対象となったRCTにおける急性膵炎症例の重症度,用いた抗菌薬の種類や投与方法,開始時期などが不均一であるため,これらメタ解析のエビデンスレベルが高いことは事実であるが,本邦の基準による重症急性膵炎患者に対し,発症早期に膵組織移行性のよい抗菌薬の予防的投与を否定するだけの根拠は不十分である.また,本邦では抗菌薬膵局所動注療法が広く行われており,このような投与法における抗菌薬の効果はメタ解析の結果には反映されていない.

■Pro:重症急性膵炎に対して予防的抗菌薬投与を推奨

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急性膵炎病初期の2週間以内に腸管内常在のグラム陰性桿菌と真菌が腸管壁の透過性が亢進することで膵壊死組織に移行し(bacterial translocation),壊死組織で増殖することで感染が成立する(Pancreas 2003;27:133-8)

2012-04-04 18:59:52
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典型的には急性膵炎の2-3週目に膵臓感染(感染性膵壊死,膵膿瘍,膵周囲感染)を発症する(CID 2003;37:208-13)

2012-04-04 19:02:35
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急性膵炎における感染の32-57%は複数菌による感染であり,特に重症急性膵炎の膵外感染では半数以上に複数菌が検出される(JOP 2011;12:19-25)

2012-04-04 19:17:15
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膵臓への細菌・真菌感染は,抗菌薬非投与患者ではそれぞれ40-70%,5-8%でみられ(Pancreas 2003;27:133-8/CID 2003;37:208-13/World J Surgery 2002;26:372-6)膵組織の半分以上の壊死で40-70%が感染症合併

2012-04-04 19:06:55
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予防的抗菌薬投与の有意な有効性を示した報告は6編,そのうち致命率低下を示したものは1編.有効であった報告で使用された抗菌薬はIPM,CXM,CAZ+AMK+MNZ,OFLX+MNZ.

2012-04-04 19:34:16
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非壊死性膵炎であっても,膵周辺の液体貯留箇所が多いほど感染のリスクは高い(Radiology 1985;156:767-72/AJR 2008;190:643-9)CTで2箇所以上に液体貯留がみられる症例の60.9%に感染成立が確認されている.

2012-04-04 20:03:43

膵虚血が生じる機序の1つとしてvasospasmがあり,急性膵炎発症12時間という早期にすでに認められると報告されている(Pancreas 2005;30:40-9).膵が虚血から壊死となり,血流が完全に途絶えるといかに組織移行性のよい抗菌薬でも十分な抗菌作用を発揮することは難しい.したがって虚血が起こる前に予防的抗菌薬は投与される必要があり,投与するのであれば遅くとも24時間以内に行われる必要がある(日腹救医会誌 2011;31:529-34).しかし,重症度によってその効果は異なり,予後因子5点以上で壊死を形成した症例では感染症を予防できないとも報告されている(同文献).

動注療法は推奨度C1であり,動注抗菌薬はIPM/CSを選択する施設が多く,膵感染の起因菌(J Am Coll Surg 1997;183:499-504/Surgery 1986;99:688-93)に対し広域スペクトルを有するカルバペネム系抗菌薬は優れた抗菌力を示すことから,細菌学的にも有用と考えられている.かし,IPM/CSは蛋白分解酵素阻害薬に対し安定性が悪く配合変化を起こしやすいとも言われており,回路内での血晶析出や回路の閉塞をきたすことがある.IPM/CSの代替薬としてはPAPM/BPを用いた報告(医薬の門 1997;37:94-7)やMEPMを用いた報告(日腹救医会誌 2002;22:969-73)やBIPMを用いた報告(新薬と臨床 2006;55:1745-7/膵臓 2008;23:578-86)があるが,系統立った比較研究を行った報告は少ない.BIPMはIPM/CSと比べ非劣性であるという前向き比較試験の報告がある(日腹救医会誌 2011;31:705-12).

■Con:重症急性膵炎に対して予防的抗菌薬投与を推奨しない

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軽症急性膵炎を対象としたRCTは3編あり,そのメタ解析(J Gastrointest Surg 1998;2:496-503)では,感染性合併症の発生率,死亡率が低く,予防的抗菌薬投与は推奨されていない.

2012-04-04 19:22:33
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重症急性膵炎を対象とした予防的抗菌薬投与のRCTは3編あり,2006年以降に7つのメタ解析があるが,死亡率を低下させたとする結果はなく,入院期間短縮を示したものが1編,感染率低下を示したものが1編.

2012-04-04 19:42:11
⅃ЯAƎ⊿せかんどらいふすたあと @DrMagicianEARL

質の高い報告ほど予防的抗菌薬投与が膵感染のリスクを下げない(Br J Surg 2006;93:674-84/Pancreatology 2007;7:531-8)この報告を見るに,膵壊死を伴わないのであれば予防的抗菌薬は投与すべきではないかもしれない.

2012-04-04 19:46:17
⅃ЯAƎ⊿せかんどらいふすたあと @DrMagicianEARL

壊死性膵炎にIPMを用いた報告では,真菌感染が有意に増加した報告あり(J Gastroenterol Hepatol 2009;24:736-42)

2012-04-04 19:37:15
⅃ЯAƎ⊿せかんどらいふすたあと @DrMagicianEARL

壊死性膵炎に,合併症が持続する限り14日間以上IPMの投与を行っても,14日間投与と比べて感染性合併症低下が認められず,上部消化管出血の合併症が増加(ICM 2003;29:1974-80)14日間以上の予防的IPM投与のエビデンスは乏しい

2012-04-04 19:50:28
⅃ЯAƎ⊿せかんどらいふすたあと @DrMagicianEARL

臓器不全を伴う膵壊死のケースで予防的抗菌薬投与を行わない場合は,採血・造影CTで再度胆石性膵炎の除外と膵局所の評価を行う.同時に膵臓以外のフォーカスがないか(肺炎,副鼻腔炎,CRBSI,皮膚軟部組織感染,Clostridium difficile関連腸炎)の検索を行う.

2012-04-04 19:54:53
⅃ЯAƎ⊿せかんどらいふすたあと @DrMagicianEARL

そして超音波エコーガイド下もしくはCTガイド下穿刺吸引による膵組織のグラム染色・培養およびその他培養(血液・喀痰・尿など)を採取のうえ,これらの結果がでるまでカルバペネム系抗菌薬によるエンピリック治療を開始する.その後,中止やde-escalationを検討.

2012-04-04 19:58:39