七人の第七王女の話

suwazoさんによるツイノベ「七人の第七王女」の話をまとめました。
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すわぞ @suwazo

#twnovel 父王が途中で数えるのを面倒臭がったので七番目以降の娘は皆ひとくくりに第七王女と呼ばれた。後宮に妾妃は溢れている。姉妹はどんどん増える。男子ならともかく女子など放置される。第七王女は剣を玩具に自由に育つ。長じて反乱を起こす。父王を殺した七人の第七王女が王位につく。

2012-05-11 23:33:31
すわぞ @suwazo

#twnovel 七人の第七王女の結束はかたい。というより、まるでひとつの魂を共有しているよう。あちこちの周辺国の美しい女を母に持ち、容姿はみな異なっているがそれぞれ美しい。ただ情の薄い凍りついた眼差しは共通している。女狂いの王から王位を奪った七姉妹を、民は女神のように評する。

2012-05-11 23:43:35
すわぞ @suwazo

#twnovel 母達は息子にかまけるか、娘しか産めなかった自分を恥じるか、娘が娘であることを責めるか、他国に人質のごとく売られた我が身を哀れむかするだけだった。父王は父親の顔は持たなかった。七姉妹は無感情と薄い魂を抱いて育った。七つ集まってようやく一つぶんの重さになるような魂。

2012-05-11 23:51:14
すわぞ @suwazo

#twnovel 後宮の廊下を這いつくばって床磨きをする老婆は、かつて女傭兵だった。後宮内を幽霊のようにうろつき誰にも見向きされない七姉妹を一つに集め、剣を教えたのはこの老婆だった。表情のない娘らを、七つでやっと一人分の心と言った。しかし剣の腕は七つで七十にはなる、いやもっと。

2012-05-12 00:01:08
すわぞ @suwazo

#twnovel やがて老婆は死ぬ。七姉妹は稽古を続ける。女子に政治的利用価値はない、他国にでも嫁がせる以外には。父王やその側近が第七王女を忘れたままであれば、あるいは反乱は起きなかったかもしれない。七つで一人分。その言葉が七姉妹に染み着いていた。分け離されることは死を意味した。

2012-05-12 00:05:49
すわぞ @suwazo

#twnovel 第七王女がしたことは生き残るための作業だった。第七王女にとって、食べることも母と対峙することも剣の研鑽も作業だった。学習したことがなかったので、あらゆる感情を知らなかった。すべてを機械的に当然の帰結のように姉妹は行動し、それゆえに誰にも予測は不可能だった。

2012-05-12 00:11:55
すわぞ @suwazo

#twnovel 王が殺された報せに、自らも同じ運命を与えられると考えて自害した母の躯は静かに片づけられた。臭うので。ようやく死ねると思った母はいつまでも待ちぼうけをくらった。放置された。逃亡をはかった母はそのまま逃げ出した。第七王女に母への関心がないことすら、母は知らなかった。

2012-05-12 00:17:29
すわぞ @suwazo

#twnovel 玉座は七つ並ぶ。王の名はひとつ。王は美しい剣のごとく研ぎ澄まされた七つの身体を持ち、一つの魂を持つと言われる。王の欲は自らの楽園を守ることに費やされる。すなわち国を守ることに。王は機械神のような統治を行う。若き騎士どもは女神のように手の届かぬ王を愛し焦がれる。

2012-05-12 00:25:50
すわぞ @suwazo

#twnovel 感情を知らない王は幸福も不幸も知らない。ただ生き残らなければならないことを知っている。そしてそのようにした。他人を理解できないのは当たり前だった。そもそも理解したこともされたこともないのだ。そうして生きた。満足も不満足もなかった。

2012-05-12 00:33:00
すわぞ @suwazo

#twnovel あるとき王宮に旅の歌い手が招かれる。王のためではない。王はそんなものに興味を示さない。隣国の賓客のためだった。だがそれ以降、新たな旅の歌い手があれば必ず王宮に呼ばれるようになる。必ず一晩きりだが、報酬は弾まれる。その評判が他国まで響く。大勢の歌い手が国に集まる。

2012-05-12 00:46:36
すわぞ @suwazo

#twnovel 歌い手は王宮の中庭に案内され、そこで己れの最良の歌をうたう。この国の王の存在のありかたは知れわたっている。歌い手は女神へ向かって、女神が聴いてくれていることを信じて、宮殿の暗がりに向かってうたう。感動のあまり歌の終わりとともに失神する者もいる。

2012-05-12 00:51:27
すわぞ @suwazo

#twnovel 評判は評判を呼ぶ。歌い手と共にさまざまな楽器演奏者が国に集まる。国は彼らを手厚く保護する。女神の意図を人々は感じる。奏者たちは女神を称える音を響かせる。女神を愛している。愛されていると信じている。王宮の壁に向かってさえ、毎日演奏は続く。女神は、王は愛されている。

2012-05-12 00:57:22
すわぞ @suwazo

#twnovel 奏者のみならず、詩人、画家、彫刻家、あらゆる芸術家が国にやってくるようになる。国は美しく発展する。様々な国から留学生が集まる。国と民は新しい歴史と誇りを刻みはじめる。そうして日々が過ぎ、年月が過ぎ、やがて、王の魂の一部が欠けるときが訪れる。

2012-05-12 01:06:12
すわぞ @suwazo

#twnovel 七姉妹は六姉妹になっている。国民は喪に服さない。王はまだ死んではいない。魂は一人分、ある。毎晩、歌い手は王宮に招かれ続ける。ただ、必ず一晩きりという前例は覆された。二晩を招かれる者もいる。歌い手のみならず奏者も同時に呼ばれる。一晩に複数が招かれることもある。

2012-05-12 01:18:13
すわぞ @suwazo

#twnovel 王は愛されている。王宮の壁に向かって歌う者は増える。壁を絵で彩る者さえ許される。あらゆる場所で女神は称えられる。王の魂がまた一つ欠けたとの報せが国に流される。民は喪に服さない。王はまだ死んではいない。歌い、演奏する者は増える。裏町の幼児でさえ女神のためにうたう。

2012-05-12 01:25:34
すわぞ @suwazo

#twnovel 民はうたう。自らが必要とされていると信じている。女神を想う。歳月は流れてゆく。王の魂は少しずつ削られてゆく。国民は喪に服さない。王はまだ死んではいない。民は王を、女神を愛している。彼女を称える音を鳴らし続ける。王宮の中庭に誰しもが訪れたがる。

2012-05-12 01:34:24
すわぞ @suwazo

#twnovel 王宮の壁の外側で絵描きが絵を描いている。美しい女神の絵。その傍らにその娘が立っている。まだ幼いゆえ、絵筆を握ることは許されていない。父親の命ずるままに絵の具を絞る。父親が絵に没頭して娘の存在を忘れたその隙を狙って、絵の具を放り出して壁をよじ登る。

2012-05-12 01:40:15
すわぞ @suwazo

#twnovel 王は音を聴いていた。音を聴いている間だけ、何かを思いだしそうになった。もう少し、もう少しなのに何も思い出せなかった。中庭に楽士を呼んでは音を鳴らさせて、その糸口を捕まえようとした。いつもそれは寸前で逃げてゆく。音が必要だった。もっと、もっと。

2012-05-12 02:01:19
すわぞ @suwazo

#twnovel 生きている間ずっと削られつづけた魂は、すでにもうひとかけらしか残っていなかった。じきにすべて消える。王は宮殿から中庭へ降りる。久しぶりの土の感触を二本の足で感じる。可憐な花を咲かせる樹木の枝をかきわけ進んでゆく。そうだ、幼い頃もそうやって身を潜めていた。

2012-05-12 02:08:37
すわぞ @suwazo

#twnovel はるか昔も、誰にも存在を感知されない自分をこうして樹木の葉の陰に隠した。帰ってきたのだと王は想う。第七王女のひとかけらは思う。ようやくぎりぎりで一人分を保っていた魂の大半を失い、魂を生かすための剣も持てない弱い身体になって、この暗がりに戻ってきたのだと。

2012-05-12 02:14:12
すわぞ @suwazo

#twnovel 絵描きの娘は暗がりの中で老婆に出会う。それが王であり女神なのだと思う筈がなかった。父の描く女神は常に若く美しい女性だ。老婆は皺だらけの指で数を数えていた。何を数えているのかと訊けば、魂の欠けた数と言う。娘には理解できない。つまり理解する必要はないのだと理解する。

2012-05-12 02:23:38
すわぞ @suwazo

#twnovel 老婆は第七王女と名乗る。ふうん、と娘はうなずく。王のかつての呼称など知る由もない。私も王女様になりたいな、と言う。第七王女は微笑む。そんなものになってもいいことなんて何もないのよ。いいことなんて、毎晩誰かの歌を聴けたくらいね。そんなのつまんないな、と娘は答える。

2012-05-12 02:31:15
すわぞ @suwazo

#twnovel そんなの自分でうたえばいいじゃない。娘の言葉に第七王女はきょとんとする。うたったことなんてないわ。その言葉に今度は娘がきょとんとする。信じられなかった。この国には歌や音楽が溢れている。裏町の乞食でさえ歌を知っている。

2012-05-12 02:38:09
すわぞ @suwazo

#twnovel 喋れなくても聞こえなくても振動を感じられる。ダンスは? 踊ったことは? 第七王女は首を横に振る。剣をふるうステップは知っている。誰かの手を取って踊ったことはない。七つぶんの手を持つ相手はいなかったから。

2012-05-12 02:44:10
すわぞ @suwazo

#twnovel あなたちゃんと喋ってるじゃない。喋れるなら歌もうたえるよと娘が言う。あたしが教えてあげるよ、その言葉を第七王女は期待している。あたしが教えてあげるよ、娘が期待通りの言葉を告げる。第七王女はふしぎな気持ちになる。

2012-05-12 02:50:24