ザ・マン・フー・カムズ・トゥ・スラム・ザ・リジグネイション #1
「大凶」「おんな心」「痴話喧嘩」「特別」、ボロボロのオスモウ・ステイトメント・ステッカーが無数に貼り付けられた地下階段の突き当たり、両開きの鉄製フスマを開くと、紫煙と妖しげな匂いが溢れ出し、彼を出迎えた。 1
2012-05-16 13:45:54まず目に入ったのは、床に座り込み、壁にもたれかかったオイランだ。ドロイドではない。キセルで阿片を吸っては吐いて、はだけたキモノから片方の乳房が露わだ。オイランは彼を見上げるともなく見上げ、ヨダレを垂らした。彼は構わず、角を曲がって「小さく会」と書かれたノレンをくぐる、 2
2012-05-16 13:50:15ノレンをくぐると、段差式セントーから湯を抜いたような広間だ。ひときわ濃厚なイリーガル気体が彼を包み込む。彼は頭全体を覆い隠す虚無僧編笠をかぶり、さらに耐毒性のあるバラクラバを着けている。それでも気体を吸い込まずに済ませることはできない……もっとも、彼は既に薬物中毒であった。3
2012-05-16 13:58:50「でっけえのが来たぜ」両手でオイランを抱いたニンジャが冷やかした。「中身はどうなんだ?え?大事なとこはよ。俺みたいに、サイバネティクスかよ?」「ワースゴーイ!」オイランが朦朧とした歓声をあげた。虚無僧編笠の男は無言で手振りし、その前を通り過ぎた。 4
2012-05-16 14:04:28この広間には既に十人以上の先客がおり、思い思いにドラッグを摂取し、ショーギを打ち、オイランと戯れていた。彼らは皆、ニンジャである……キョートにあって、ザイバツ・シャドーギルドに属さず、しかしながら、恭順する者たち……闇の傭兵……所謂ヨゴレニンジャ達の巣窟だ。5
2012-05-16 14:12:56彼らヨゴレニンジャはワザマエも玉石混交、所詮は烏合の衆であるが、ギルドからは必要とされている……タテマエとワビサビで堅牢に構築されたギルド内部のニンジャ達が手を出せぬヨゴレ・ビジネスを請け負う者達なのだ。即ち、派閥闘争の尖兵だ。 6
2012-05-16 14:24:07虚無僧編笠を被った彼の表向きの名は、ジャッジメント。やはりヨゴレニンジャの一人であり、数少ないタツジン……虚無僧編笠は彼の危険な処刑武器であり、これを投げつけ、敵の首を刎ねる……そんなニンジャであった。過去形?然り。本物のジャッジメントは既にこの世にいない。 7
2012-05-16 14:31:02では、彼は……いま実際この広間を横切り、薄汚れた赤布で覆われたカウンターへ向かう男は何者なのだ!?読者の皆さんの中には、知っている方もいよう!ディテクティヴ!それが変装者の名だ。ディテクティヴ……ご存知無い?では、タカギ・ガンドーならば、いかがだ! 8
2012-05-16 14:34:31……そう。彼、私立探偵タカギ・ガンドーは、数奇な運命に見舞われ、カラス・ニンジャを身に宿すニンジャとなった。宿敵ガンスリンガーとの凄絶なイクサの果て、その場に残されたジャッジメントの死体に彼は注目した……似た背格好であることから、その装飾品を利用し、すり替わったのだ。 9
2012-05-16 14:44:32(しかし、何だな……咄嗟のアレだったが、こうまで長い事、趣味じゃねえ格好をするハメになるとは……)「ドーモ?」「アイエッ!ドーモ、ジャッジメントです」ガンドーは咄嗟にオジギした。初老のバンガシラがアナログ台帳を開き、濁った目で彼を見上げている。「……」 10
2012-05-16 14:51:19ガンドーは咳払いして、懐から巾着袋を取り出し、卓上へ投げた。「ちと思案しておっただけだ。無礼だぞ、ジロジロ見るでない。カネをよこせ」「アイ、アイ」バンガシラはマイクロ片眼鏡を布で磨き、巾着袋の中にしまわれた生体ICチップを確認した。「そうね……クライアント指定の品ね、これは」11
2012-05-16 14:54:53「ああそうだ、カネを出せ」「ここ最近、よく働いてるね貴方」「成り上がりたいんでな」「いい事よ」バンガシラは手元のUNIXを操作した。キャバァーン!入金音が鳴った。「頑張ってね」「何か来てるか?同じクライアントから」「そうホイホイ暗殺ミッション無いよ」 12
2012-05-16 15:06:23「……」ガンドーの心には焦りがある。ポイントを稼ぎ、評価させて、ザイバツ・システムのより奥深くへ食い込まねば、この悪趣味な変装も徒労でしかない。ジャッジメントはもともと相当なやり手のニンジャであったから、スタート地点としては悪くない。もっと働けば良いのだ。 13
2012-05-16 15:10:58ガンドーは既に幾つか暗殺・脅迫ミッションを引き受け、成功させていた。対象は様々だった。場合によっては敵を粛々と殺し、寝覚めの悪そうな対象であれば、こっそりとガイオンから逃がし、物的証拠をでっち上げた。地道にやって、接点を欲しがっているとアピールせねばならない……。 14
2012-05-16 15:13:47(焦るな、首尾は悪くない。そろそろ声がかかるさ)奥ゆかしいキョートのシステムにおいて、直接声をあげてギルド内部に組み込まれようとする事など許されない。それは僭越である。常よりも活発な仕事ぶりなどを通して、言外のメッセージを伝えねばならないのだ。 15
2012-05-16 15:24:40「とにかく、また依頼が入り次第、私宛に真っ先に連絡をよこすのだぞ」ガンドーはバンガシラにオハギとコーベインを包んだ布を渡した。「アイ、アイ……WIN-WINよ」バンガシラは笑った。ガンドーは頽廃広間を見渡す。ニンジャの溜まり場……長居して良い事は無い……「ザッケンナコラー!」16
2012-05-16 15:40:22「あン?」ガンドーは怒声の方向を見やった。怒り狂ったニンジャがカタナを抜き、ショーギ台を蹴って立ち上がったのである。「六連敗?こんなわけアッコラー!?チェラッコラー!?イカサマかオラー!」因縁をふっかけられたニンジャも負けてはいない。「ダマラッシェー!」 17
2012-05-16 15:45:14そちらのニンジャはサイバネナックルダスターをギラリと光らせ、ニンジャスラングで威嚇した。「ヒカエオラー!ショーギ即ち頭脳のイクサ!神聖だぞッコラー!」「ア、アイエエエ!」抱かれていたオイランが悲鳴を上げて逃げ惑う!「ズガタッキェー!」叫んで立ち上がったのはさらに別の者! 18
2012-05-16 15:50:08「お、俺もこいつに10連敗した!お、おかしいぜ、イカサマにきまってるぜ!だ、だってよぉ……あれ?」そのニンジャは首を傾げ、首に突き立ったクナイ・ダートを見下ろしながら、息絶えた。ダートを投げたのは別のニンジャだ!「ガタガタうるせェ連中だな!黙ってファックもできねえ」 19
2012-05-16 15:54:49そのニンジャはカチャカチャとニンジャ装束のベルトをしめながら凄んだ。足元ではオイランが上気した背中も露わに、ぐったりとうつ伏せに倒れている。「俺と殺し合いがしてぇのか?アアッ?」「テメェ!」さらに別のニンジャがジッテを抜き放つ「そのオイラン、俺がツバつけてたんだ!殺す!」 20
2012-05-16 15:59:30「いいかげんにしろよォ……」さらに別のニンジャが近づいてくる。死んだ別のニンジャの頭を掴み、引きずっている。「そっちでもやってんのかァ……」「俺とやりてェ奴はいるか!」先程ガンドーに声をかけたニンジャがオイランを投げ捨て、叫んだ。「俺のサイバネティクスと!」 21
2012-05-16 16:47:37「オイオイオイ……」ガンドーは呆然として呟いた。バンガシラを振り返る。既にいない。鋼鉄製の係員フスマをピシャリと閉め、その向こうに避難済だ。「収拾つかないんじゃねえか……?」「イヤーッ!」ガンドーめがけスリケンが飛来!ガンドーは身をすくめて回避!「オイオイ!聴け!お前ら!」 22
2012-05-16 16:52:30広間のケオスが一瞬、停止した。生きているニンジャは8人。その全員がガンドーを見た。「アー……」ガンドーはオジギした。「ドーモ。ジャッジメントです」ニンジャ達が反応した。「ドーモ。アバランチです」「デーモンカインです」「ブラスナックルです」「マッドドッグです」「キャンサーです」23
2012-05-16 16:55:46「クロックタワーです」「フルブライトです」「……アンタは?アンタ」ガンドーは柱に寄りかかったニンジャを指差した。ニンジャは 答えた「……グラッジです。勝手にやれ」「ウオオーッ!」ケオスの一時停止が解かれた!「オイオイオイ!話を……」「イヤーッ!」 24
2012-05-16 17:05:19