同じレポートでは仮に冷却水が失われた場合、炉心から取り出されて間もない燃料だと数時間で発火に至るという解析結果も示されています。当然のことながら、リスクは燃料が未臨界からどれだけ時間が経っているかに大きく依存します。
2012-05-19 00:32:322003年にAlvarezらが発表した論文は高密度に使用済燃料が保存されているSFPで冷却水喪失が起こった場合の影響を考察し、大規模なジルコニウム火災によってチェルノブイリ事故を上回る被害が出ると報告しました。著者らは、使用済燃料は5年以内に取り出すべきと推奨しています。(p45
2012-05-19 00:35:42この論文は反響が大きく、NRC含め各方面から反論がありました。尤も、反論はその結論に対してではなく、それが起こる確率は極めて低い、というものです。先に書いた通り、アメリカの規制はハザードの大きさではなく、リスクに対して合理性があるかどうかで判断されるからです。
2012-05-19 00:35:57結果的に、NRCはSFPへのテロ攻撃とそれによる潜在的社会コストは低く、Alvarezらが主張する、使用済燃料の1/3を乾式キャスクに移動するような複雑で高額な対策を正当化するものではないと結論付けました。2003年に発行された規制文書NUREG-0933で触れられています。
2012-05-19 00:37:29この文書では、Alvarezらの結論と同様の想定外の事故について検討しています。発生頻度の検討の結果、最大のリスクは想定を超える地震によるものとなりました。ただ、その確率は同等の地震による炉心ダメージよりは小さいとされています。(p46)
2012-05-19 00:38:00p48以降では各種のテロ攻撃によってSFPの冷却水が失われる可能性と、その際の放射性物質放出のシミュレーションについて述べられています。詳細は機密扱いとなっています。特定の条件に対し、ジルコニウム火災が発生しうることは明確に述べられています。
2012-05-19 00:38:52テロ攻撃その他によってSFPの冷却水が失われた場合も、有効な緩和策がいくつか紹介されています。例えば使用済燃料の燃焼度に応じて配置を考え、高燃焼度のものが1箇所に固まらないように配置することは比較的低コストで効果の大きな対策として推奨されています。
2012-05-19 00:39:14以上のNRCの研究成果を福島第一4号機に当てはめて考えると、SFPでジルコニウム火災が発生するとすれば、かろうじてあり得るのは巨大地震によってSFPが損傷して冷却水が失われ、かつ長時間有効な対策が取れなかった場合となります。
2012-05-19 00:40:09そのような巨大地震では1~3号機も壊滅的な打撃を受けるため、そちらの方が遙かに重大です。そもそも、東日本大震災の規模を加速度で数倍上回るような巨大地震の発生確率は極めて低いでしょう。
2012-05-19 00:40:45また、4号機の使用済燃料は最も新しいものでも未臨界から1年半ほど経過しています。仮に冷却水が失われても、ジルコニウム火災に至る可能性は低いでしょう。プラントごとに条件は異なるものの、NRCの見解では1年以上経た燃料でジルコニウム火災に至ることはまずあり得ないとしています。
2012-05-19 00:41:35昨年の事故で4号機の建屋で水素爆発が起こった際、NRCがジルコニウム火災によるSFPからの水素発生を疑ったのは事実です。この懸念は米国人を50マイル圏から退避させるという決定の根拠の一つともなりました。
2012-05-19 00:42:33最大の理由は、他に水素発生(事実は3号機側からの流入)が考えつかなかったことです。更に、当時は1~3号機がコントロールを失って超高圧状態にあり、新たな爆発的事象の可能性が現実的でした。つまり、発生したエアロゾルの運搬手段が存在し得たのです。
2012-05-19 00:43:11そのため、4号機SFPでジルコニウム火災によってほぼ全ての燃料と生成物がエアロゾルとなり、それが火災または別ユニットの爆発的事象によって上空へ移動、その後拡散するという「最悪シナリオ」が検討されたのです。
2012-05-19 00:43:46水素の流入経路が判明し、4号機SFPが冠水していることが確認された時点でそのシナリオは棄却されています。現在NRCは4号機を含め、福島第一原発で今後大規模な放射性物質の放出があるとは考えていません。
2012-05-19 00:44:05長くなりましたが、今なおジルコニウム火災の危険があるとの主張はNRCの見解及び研究成果を誤解していることによるもので、合理的な根拠はありません。ちゃんと納得したい人は、ぜひ自分でレポートを読んでみて下さい。
2012-05-19 00:44:15