山本七平botまとめ/「富める社会の社会保障が、人間の”内なる”自然を破壊してはいないだろうか?」

山本七平著『「常識」の研究』/Ⅰ国際社会への眼/44頁以降より引用抜粋。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①ニューヨークヘ行ったところ、偶然の機会から「戦後30年のアメリカ」というビデオをある宗教団体で見せて貰った。トルーマンからアイク、ケネディ、ジョンソン、ニクソンと移り行くうちに、社会がどのように変化し、悪化し、崩壊して行ったかを克明に辿っているビデオである。<『「常識」の研究』

2012-05-24 04:56:40
山本七平bot @yamamoto7hei

②少年ギャング、麻薬患者、児童虐待、少女売春等々がこれでもか、これでもかといった調子で登場し、同時にベトナム反戦運動、公民権運動、徴兵令状焼却、「人殺し」とホワイトハウスに向かって叫ぶデモ隊、警官隊の弾圧、ケネディの暗殺、キング牧師の暗殺、ニクソンの辞任等々の場面が入ってくる。

2012-05-24 05:26:32
山本七平bot @yamamoto7hei

③そしてそれを見ていると少々不思議な気持になる。というのは誰一人、社会を悪くしようと努力しているわけでなく、人びとの叫ぶスローガンはすべて立派であり、平和、人道、博愛、反戦、人間の権利、差別撤廃、最低賃金制の確立、社会保証の充実が常に口にされ(続

2012-05-24 05:56:52
山本七平bot @yamamoto7hei

④続>しかもある意味では確かにその一つ一つが達成されながら、一方ではぐんぐんと社会は悪化していくのである。なぜであろうか。ビデオはそれを問いかけながら、何一つ解答は提示されていない。

2012-05-24 06:26:32
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤15年ほど前、全米を自転車旅行をした人の話を間いた。当時は全ての人が親切で、こんな良い国はないと思い、更に叫ばれるスローガンの内容から、もっともっと立派になると思ったそうである。そこでもう一度自転車旅行をやろうとしたのだが、今ではそんなことは到底不可能だと思い知らされたという。

2012-05-24 06:56:44
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥そしてその人は、一国がかくも短期間に、このような悪しき変化を遂げたことの理由を何とか探りたいと思ったが、だれに聞いてもそれはわからなかったという。

2012-05-24 07:26:32
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦そして、以上のようなことから得た私の大変に乱暴な結論は、社会を良くしよう良くしようという努カがすべて裏目に出て、そのたびに社会が崩壊していったということであった。

2012-05-24 07:56:54
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧というのは、どこをどう探しても、それ以外に理由らしい理由は見当たらず、個々の問題で人びとが口にする言葉は結局、要約すれば以上のようになってしまうからである。

2012-05-24 08:27:34
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨たとえば最低賃金制が確立する。すると使用者側は当然、生産性が高い者を雇用しようとする。その際、それならば自分はもっと安い賃金でよいから雇って欲しいと思っても、それは許されない。ただし、生活保護は受けられ、フード・クーポンが簡単にもらえるから、日々の生活には不安はない。

2012-05-24 08:56:54
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩だが、政府というものはそれ以上のことはしないし、現実にできない。では人は、その状態で精神的満足が得られるかとなると、そうはいかない。人間はこの地上に出現して以来、何らかの労働によって食を得て来た。

2012-05-24 09:26:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪と同時に、その社会の何らかの集団の中で一定の役割を演ずることによって精神的充足を得てきたその両方を失えば、精神的におかしくなるであろう。しかし結婚をすれば、子供も生まれる。そのためか、児童の虐待は少々異常である。

2012-05-24 09:56:49
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫子供をオーブンで焼き殺したなどという例もあり、現にビデオには背中に大きく格子縞のような火傷のある子供が映されていた。これは特異な例としても、宗教団体のカウンセラーが家庭訪問をすると、母親は大声でわめき散らし、手当たり次第に子供を殴打している例などは少しも珍しくないという。

2012-05-24 10:26:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬そこには、もはや「崇高な母親像」など全く見られない。育児を喜びとし誇りとすることで保たれて来た「母」という位置は、その責任がどこにあるのか曖昧になることによって消えてしまった

2012-05-24 10:56:44
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭確かに託児所も養護施設も完備しているし、この面でボランティアとして熱心に働いている人もいる。しかしそれらが完備すればするほど、また従事する人たちが熱心になればなるほど、育児の責任はだれにあるのかわからなくなっていく

2012-05-24 11:26:46
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮以上は、ビデオで見せられたことと、それと関連なく聞いた話との二つから得た印象である。印象はもちろん印象に過ぎず、アメリカは多様な国だから、それらとは別に、普通の生活をしている人も多いのであろう。

2012-05-24 11:57:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯現に私の友人はすべてノーマルである。しかしそこには、ある種の問題が提起されているように思う。多くの人は、自然の破壊とか巨大産業とか機械文明とかに危惧をもっており、自然を尊重し、自然に順応すべきだと説く人は決して少なくない。

2012-05-24 12:26:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰しかし不思議なことにその人たちは、人間もまた自然界の一員であり、おそらく何十万年か何百万年かをそれで過してきた「自然な生き方」というものがあり、自然を尊重せよというなら、まず最初に尊重すべきことはそれだということを忘れているように思われる。

2012-05-24 12:56:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑱アメリカ人が、社会を良くしよう良くしようと努力してきた事は、ことによったら「人間の内なる自然」の破壊だったのではないか、それは、ひたすら富める社会を造って全てを充足しようとした事が、外なる自然を破壊して行ったのと同じ事ではなかったかと、ふとそんな気もしたのである。

2012-05-24 13:26:40