- toshihiro36
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<ナレーション> そんな状況の中、歯科医師たちは遺体の口の中をくまなく調べ、治療の痕など歯の状態を記録していく。このデンタルチャートと呼ばれる記録が、遺留品やDNAと並び身元確認のための重要な情報となる。
2012-06-03 12:55:20江澤:「デンタルお願いします」ってあちこちから声がかかるんで…トイレに行く時にも遺体がブルーシートの上に並んでいましたから…それを避けて「ああ、こんなに・・・」と思って。
2012-06-03 12:58:54<ナレーション> 頼りになるのは工事用ライトだけ。しかし、燃料が切れるたび作業は中断した。真っ暗な体育館で、それでも遺体と向き合い手掛かりとなる記録を取り続けた。
2012-06-03 13:05:33江澤:何のきっかけだったか「これいつまでやるんですか?夜なべするんですか?」って言ったんです。そしたら「夜なべはないですね」という話で。遺体が残っているのに俺たち帰れるのかっていう気持ちがあったので、「どうするんですか?」と。
2012-06-03 13:10:41江澤:「ここをちゃんと閉めて、あれしますから」ということだったので、「あ、そう」とちょっと納得してね。このまま帰れないなという気持ちが強かったですね、やっぱり。
2012-06-03 13:13:16<ナレーション> 3月12日、検死1日目は夜8時で終わった。グランディ・21はわずか数日で、一面が犠牲者の遺体で埋め尽くされた。番号だけがふられたその人は誰なのか。棺が並んだ向こうの壁では検死が続いていた。
2012-06-03 13:18:08<ナレーション> 歯科医師たちが記録するデンタルチャート。遺体の歯1本1本に残された治療の痕・詰め物・ブリッジ・インプラントなど、32本の組み合わせが個人を特定する手がかりになる。つまり日々治療に通う歯科医院に残されたカルテがあれば、歯による身元確認が可能となる。
2012-06-03 13:22:37<ナレーション> あのアメリカ同時多発テロでも、2004年のスマトラ島沖地震でも犠牲者の多くは歯によって身元が判明している。歯は身体の組織の中でもっとも硬く、腐敗や変質など化学的変化が少ない。
2012-06-03 13:28:59<ナレーション> それゆえ遺体の発見が遅れたり、損傷が大きい今回のような大規模災害では、歯の重要性は増し歯科医師の存在は欠かせなくなる。 死者3000人以上、宮城県最大の被災地となった石巻市。町にあった歯科医院は、40以上が大きな被害を受けた。
2012-06-03 13:30:56<ナレーション> それでも同じ町に暮らす患者のためにと、診療を続けてきた歯科医師がいる。石巻で4代続く歯科医院を営む、三宅宏之さん。
2012-06-03 13:35:57<ナレーション> 診療所の1階部分は津波に遭い、満潮時には今も浸水する。診療を再開したのは5月、3月、4月は遺体の検死を続けた。向き合ってきた犠牲者の多くは石巻の人。その中には、自分の患者も大勢いたという。
2012-06-03 13:40:45三宅:やっぱり辛かったですよね。顔ではやっぱりわからなかったんですけれども、口の中を見ると自分が治療した痕っていうのは自分が一番わかってますんでね。「あれっ、これ俺が治療した痕だ」って思いまして…それで、もう死後硬直が始まっていましたので…
2012-06-03 13:47:29三宅:無理やり金属のヘラでこじ開けるんですけれども、「ごめんなさい、ごめんなさい」と言いながら無理やりこじ開けて、お口の中の状況を見せていただいてたので。何て言うんでしょうかねぇ…突然命を奪われて誰かもわからない…それは亡くなられた方があまりにも悔しいだろうなと思って。
2012-06-03 13:49:34<ナレーション> 町の歯科医だからできることを…自転車で遺体安置所に通った。運び込まれた遺体は1週間で300を超え、市の体育館は満杯。市の安置所は青果市場の跡地に移された。三宅さんはここでおよそ800体を検死。悲しい再会も数え切れないほど見てきた。
2012-06-03 13:55:07三宅:ご遺族が入ってきてご遺体を確認して…もうすごい号泣じゃないですか。警察の肩と一緒じゃないと中に入れないんですけども、「早く中に入れろ」と外で小競り合いが始まってるんですよ。すごい小さい女の子のご遺体があったんですけれども、母親らしい人が確認をして泣きも叫びもしないんです。
2012-06-03 14:02:47三宅:ただ遺体が入っている袋から小さい女の子を出して、ずっと抱きしめていたんですね。たぶん半日以上抱きしめていたと思うんです。そういう状況の脇で検死をしなきゃいけなかったんでね。本当に「明日は休もう」って毎日思うんですけど、休んじゃうと検死が進まないんで。
2012-06-03 14:06:50<ナレーション> 遺体安置所はどこも家族を探す人であふれていた。検死を行う検案所も震災直後は県内で2か所だったが、1週間で13か所にまで増えた。予想をはるかに超えた被害…歯科医師が足りない。
2012-06-03 14:14:31江澤:遺体が1000体以上あがっているわけですから、対応しきれないですよね。不安はみんなあったんですよ、全貌が見えないので。いつかまたどこかからとんでもない遺体が出るということは、みんな思っていたし。警察も我々も思っていたし。
2012-06-03 14:19:26<ナレーション> まず動いたのは地元、東北大学。歯学部に籍を置く多くの歯科医師が協力を申し出た。さらに日本歯科医師会の呼びかけで、全国から応援の歯科医師が派遣された。現場は動き出した。いまだかつてない大規模な身元確認。
2012-06-03 14:23:06<ナレーション> 次々とやってくる応援。彼らへのレクチャーやマニュアル作り。身元確認班はその対応と調整に追われた。被害の状況を把握すため、検死の現場も可能な限り見て回った。
2012-06-03 14:27:41