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猫と少女とバラの物語 #twnovel

不定期で呟いていた連作モノTwitter小説まとめです。 この物語がどこから始まり、どこへ向かおうとしているか、作者自身にもまだわかりません。 何となくでも、楽しんで戴ける方がいらっしゃいましたら嬉しいです。
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ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

兵士たちは町の花屋を訪ね、そんな薔薇は無いと言われれば店主を殺し、店を壊した。町中全ての花屋が無くなると、町を出て野を駆け、山を登った。見つからなければ、野の草花も山の木々も全て焼き払った。それでも青い薔薇は見つからなかった。国には灰や炭ばかりが積もっていった。 #twnovel

2012-06-15 21:15:07
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

兵士のうさぎも、もはや見つからぬと諦めかけた。所詮死にかけの后が吐いた戯言だ。青い薔薇など、そもそも実在するわけがない。 #twnovel だが城へ引き返そうとしたとき、うさぎは幼い白猫と出会った。その猫が手に持っていたのは、何と青い薔薇。正しくうさぎが探し求めていたものだった。

2012-06-15 21:20:02
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

「その薔薇をよこせ」うさぎは剣を抜き、猫を脅した。「嫌よ。これは、病気のお母さんへの贈り物だもの。あなたになんかあげない」「黙れ、これは王の命令だぞ。それに背くとあらば殺す」剣先は、猫の喉元を捕らえている。 #twnovel 「やってみなさいよ」だが猫は、物怖じせずにそう言った。

2012-06-15 21:25:02
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

うさぎはゴクリと唾を飲んだ。何だこの猫は、俺に剣を向けられて怖くないのか?ただ花を一本差し出せば済むものを、命をかけて抗うつもりか? #twnovel 剣を向けた相手がそんな振る舞いをするのを、うさぎはそれまで見たことがなかった。あるとすれば、慄き怯える者の醜く愚かな姿ばかりだ。

2012-06-15 21:30:07
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

うさぎは猫を殺すのを躊躇った。死を目の前にして怯えない者などいない筈なのに。 #twnovel 否、己が母はどうだったか。城のおふれで、まだ幼い息子を兵士として差し出すよう命じられたとき、母は必死に息子を守ろうとした。その結果、息子の目の前でバッサリと切り捨てられてしまったのだ。

2012-06-15 21:35:02
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

今、城の遣いの者たちに毅然とした態度で立ち向かう母の姿と、目の前の幼い猫の姿が重なった。俺はこの猫を切ることなど出来ぬ。 #twnovel しかしそのとき、銃声が鳴り響いた。うさぎの背後にいた仲間の兵士からだ。目の前の猫が、腹を撃ち抜かれ倒れる。その光景がうさぎの目に焼き付いた。

2012-06-15 21:40:03
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

「何をしている。目的の物は見つかった、早く回収して城へ戻るぞ」猫を撃った兵士が言う。うさぎの手がわなわなと震えた。今まで感じたことのない気持ちが、心を満たしていた。 #twnovel 気づけば目の前に、胸に剣を突き立てられた仲間の兵士が転がっていた。剣は、紛れもなくうさぎの物だ。

2012-06-15 21:45:04
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

うさぎは倒れた猫の元へ駆け寄った。まだ少し息がある。だが、腹を撃ち抜かれて助かる見込みは果たしてあるのか。「この薔薇は渡さない…」猫は薔薇を掴んだまま、呪文のように唱え続ける。 #twnovel その猫を、うさぎは突然背負った。「お前を、母の元へ連れて行く!それまで持ち堪えよ!」

2012-06-15 21:50:07
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

猫の家に辿り着き、「私を扉の前で降ろして…」と言う猫。瀕死の己が姿を病の母に見せるわけにはいかぬとの思いか。うさぎは言われた通りにする。 #twnovel 「この薔薇を…お母さんに見せてあげて」今初めて、猫はうさぎに薔薇を託した。そして次の瞬間、ガクリと体勢を崩す。事切れたのだ。

2012-06-15 21:55:04
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

うさぎは黙って家に入る。「おや、お帰り。遅かったじゃないか」目の前に姿を現すも、猫の母には相手が誰であるかわからぬ様子だ。何故ならその目は深く落ち窪み、何も見えていなかったのだから。 #twnovel 「これが、アプローズ…青い薔薇かい?」嗅覚のみに頼り、母は薔薇に顔を近づける。

2012-06-15 22:00:22
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

「まぁ、なんて美しいんだろうね…見えなくても、臭いでわかるよ」満足げに、猫の母は言う。「それにしてもアンタ、娘じゃないね?」ギクリとする。臭いの違いでわかったのか? #twnovel 「アンタ…息子かい?」が、母親はまだ何か勘違いしている様子である。うさぎはホッと胸を撫で下ろす。

2012-06-15 22:05:08
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

「嬉しいねぇ…アンタが家を出て、もう5年かい…」感慨深げに、母親は言う。「妹には会ったかい?まだまだ幼いけど、気立ての良い子に育ってるだろ…将来が楽しみだよ」その言葉に、うさぎの胸が痛んだ。 #twnovel 娘は今、家の前で事切れている。彼女の将来は、永遠に閉ざされてしまった。

2012-06-15 22:10:03
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

「これで、ようやくまた三人で暮らせるね…アプローズ、その薔薇の花言葉の通りだ」そして呟く、『夢が叶う』と。「これで安心して、私は眠れるよ…」やがて、猫の母親は眠りに就く。 #twnovel 否、それは眠りではない。彼女はもう息をしていなかった。それは、とても幸福な死の訪れだった。

2012-06-15 22:15:06
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

「貴様は死刑だ!」城の謁見の間にて、うさぎは王に言い渡される。薔薇を持ち帰らなかったばかりか仲間を殺したことを罪に問われて。うさぎは逃げ出す。文字通り脱兎の如く。 #twnovel 一方、薔薇は直に別の兵士に見つかり、王へと差し出される。うさぎが拵えた猫の母子の墓が暴かれたのだ。

2012-06-15 22:20:04
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

「国を出よう」灰の山を登り、うさぎは呟く。よくもここまで燃やしたものだと思いながら、その先もずっと灰の道を越えていく。やがて緑が広がる土地に辿り着き、それが国境と知る。 #twnovel 数月後、風の噂であの薔薇の話を聞く。王が后に差し出した時、薔薇は何と黒く染まっていたそうだ。

2012-06-15 22:25:03
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

后はショックのあまり、その日のうちに亡くなったらしい。王も激怒して、持ってきた兵士を死刑とし、他にも腹いせで次々罪なき兵士を殺めたという。そして今、かの国では多くの兵士や市民たちが革命の為に立ち上がろうとしているそうだ。 #twnovel やれやれ、あの国は滅びるしかないだろう。

2012-06-15 22:30:07
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

それにしても、あれは紛れもなく青い薔薇だった。黒く染まっていたとは何事か。今、他国で亡命者として暮らすうさぎには、その理由がわかる。 #twnovel 数日前に行商が、かの国から持ってきたという薔薇を買い取ったのだ。色は確かに真っ黒だが、臭いを嗅げばわかる。紛れもなくあの薔薇だ。

2012-06-15 22:35:04
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

しかしよくよく嗅げば、その臭いに嘗て嗅いだものとは違う香りが混ざっていることに気づく。鉄の錆びたような臭い。それは、血液だ。 #twnovel 恐らくこの薔薇は吸ってしまったのだろう。殺された幼き猫の、花屋の、兵士たちの血を。そしてまた、あの国で渦巻いていたありとあらゆる混沌を。

2012-06-15 22:40:03
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

うさぎは嗤う。瀕死の妻のために多くを殺し、焼き払い、その結果妻自身を無くし、祖国すら失おうとしている愚かなかの国の王を。 #twnovel そしてうさぎは泣く。自らも嘗て、それに荷担した兵士だった事を。涙で薔薇が青く染まるなら、この涙枯れ果てても構わぬ。この哀しみが癒えるならば。

2012-06-15 22:45:04
ひらばるまなぶ(平原学)@もの書き @chocolatesity

青い薔薇、アプローズの花言葉は『夢が叶う』だったな。少女に刺され、意識が朦朧とする中でうさぎは思い出す。今目の前には、カラカラに干からび枯れ果てたあの時の薔薇。 #twnovel 今その薔薇がうさぎの涙を吸い、一瞬青の輝きを取り戻す。「夢は叶った」満足げに言い、うさぎは事切れた。

2012-06-15 22:50:04