- karafuto1979
- 9505
- 1
- 0
- 0
【デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ】より
1より
ズッタンズタタン、ズッタンズタタン、ビュイーン、ビュビュイーン、ビュビュイーン、ビュビュイーン。薄暗いガレージ内に置かれた8基のスピーカーから、エレクトロ・ダークポップ『ブッダコスモス』のギンギンに歪んだ電子音イントロが流れた。励起された魂が、今にも大宇宙に飛び立ちそうな勢いだ。
2010-12-28 22:31:243より
「一億か……」熟練の霊柩車ドライバーである彼にとっても、相当でかいヤマだ。彼は感情をフラットにする方法を武装霊柩車ドライバーの師匠ゲバタから学び、殺人機械のように淡々と運びをこなしてきたが、それでも今回は金額が金額だ。音楽と酒を少し足さねばなるまいと考え、ラジオのスイッチを捻る。
2011-01-09 22:32:11するとハードコア・ヤクザパンクバンド『ケジメド』の高速チューンが流れ出した。フロントマンのタケシは両手の中指以外をケジメしていることで若者に人気がある。「アーッ?未来!未来!未来!もう無い?未来!未来!未来は今!未来!未来!未来!もう無い?未来!未来!アーッ?アーッ?アーッ!!」
2011-01-09 22:35:12耳の奥をナイフで切り刻まれるような、性急で生々しい音が車内に響いた。運転が乱れる。「ブッダファック……!」デッドムーンは小さく舌打ちし、さらにスイッチを捻って、レトロなエレクトロ・ダークポップ・チャンネルを探し当てる。
2011-01-09 22:40:48ズッタンズタタン、ズッタンズタタン、ビュッイーン、ビュビュイーン…。心安らぐ電子音とBPMだ。それでいてロケット発射秒読みのような緊迫感がある。真の男はこれを聞かねばならぬ、と彼は常々考えていた。ダッシュボードに置かれたテキーラを呑み乾す頃、指定された廃コロシアムが視界に入った。
2011-01-09 22:45:265より
「ギュギューン、ギュギュイーン……カウンダウン……ファイヴ、スリー、ツー、ワン……ブッダコスモス、ユーアーインザスペース」……武装霊柩車のレディオからは、スペイシーなダークエレクトロ・ポップが流れてくる。まるで銀色の弾丸宇宙シップが孤独な銀河を漂っているかのようなアトモスフィア。
2011-01-21 20:56:04「ブッダコスモス……ウィーアーインザスペース……」武装霊柩車のレディオから流れるダークエレクトロ・ポップに合わせ、デッドムーンは無表情に鼻歌を歌っていた。ドアの外で起こっている殺戮に比べ、快適な車内はまるで別世界だ。ネズミハヤイに搭載されたAIが、マッチャとオカキを2人に振舞う。
2011-01-22 01:03:206より
「…ブッダコスモス……ユーアーインザスペース…」デッドムーンはレディオから流れてくるエレクトロ・ダークポップを口ずさみながら、ニンジャスレイヤーが正座していた場所を……通過する! 何故だ? 手応えが無い! フロントガラスに血飛沫も飛び散っていない! ニンジャスレイヤーは何処へ?
2011-01-23 23:32:25「……ジャーニージャニーウィズブッダ……」デッドムーンは曲を口ずさみながら、急ブレーキをかける。タタミが燃え尽きえぐれてゆく。動揺は無い。ネズミハヤイのカワラ屋根に備わったカメラが敵の行方を捉えていたからだ。激突直前、ニンジャスレイヤーは正座の姿勢のまま上空へとジャンプしていた。
2011-01-23 23:37:46ニンジャスレイヤーの体は壁に叩きつけられ、そのまま「一同」とショドーされたハナワの下敷きになる。「…ブッダロケット……ダイビンイントゥ・ブラックホール…」デッドムーンはニンジャスレイヤーに止めを刺すべく、曲を口ずさみながら武装霊柩車をカーブさせた。カメラヤクザの体が激しく揺れる。
2011-01-23 23:57:44快適な武装霊柩車の車内には、耳障りな高速回転音など聞こえてこない。「……ギュッイーン……ギュギュイーン……」リピートされていたダークエレクトロ・ポップが、ギンギンに歪んだアウトロを演奏しているところだった。ネズミハヤイのAIが、車内の2人にオシボリを振舞う。よくできたレディーだ。
2011-01-24 00:09:57【ウェルカム・トゥ・ネオサイタマ】より
3より
ギュウイーン……ラブ……ラブイズペイン……ラブイズディザスター……ユーアーサッチアペイン……ライク・サンズリバー……。ギュウイーン……ディキディキ、ディキディキディキ……
2011-06-05 13:43:24完全防音の車内は、ひんやりしたエレクトロダークポップの支配するゼンめいた小宇宙。真空に放り出されるダストめいて後方へ吹き飛んでゆく周囲の風景は、まるで他人事のように無味乾燥だ。逆モヒカン・ヘアーとサイバーサングラスが特徴的な運転者の表情もまた、無感情の極みである。
2011-06-05 13:55:36冷たいマシーナリー・ビートを時折ザラザラしたノイズが乱す。「……突入……天守閣……」だがこれは彼自らが進んで違法に傍受しているマッポ無線だ。彼、ミフネ・ヒトリ、通称デッドムーンはクロームシルバー塗装された武装霊柩車を駆る。ネオサイタマをほとんど横断するルート。目的地はマルノウチ。
2011-06-05 14:14:44マッポ無線の傍受はデッドムーンの日課だ。タフな仕事なのだ。闇の帝王ラオモトの死、トコロザワピラーを包囲する軍隊めいた規模の機動隊員。情報の断片はダークエレクトロポップをオツに彩るエフェクトとなり車内を漂う。前方の空を横切るヘリコプター……。ギュウイーン……ラブイズテイストレス……
2011-06-05 14:32:20やがて前方にトコロザワピラーの威容。ディキディキディキディキ、ラブイズディザスター……ラブイズユー、ユーアーラブ……アイヘイトラブ……「違いない」デッドムーンは感傷的な歌詞に同意した。「右手の反対に進め」古式めかした語り口でマイコ音声がガイドする。デッドムーンはハンドルを切った。
2011-06-05 15:09:014より
ネズミハヤイは自由落下めいた浮遊感覚を乗り手に与えつつ、真っ直ぐに大地めがけ下降する。ギュウイーン……ブッダギャラクシー……ロストインスペース……。ダークエレクトロポップがウーハーの効いたスピーカーから流れ出す。
2011-06-06 19:23:17