本来の意味でのmathematician(数学者)とは?
Heideggerの"Modern Science, Metaphysics, and Mathematics"を久しぶりに読み返す。
2012-06-19 16:36:30この論文の中でハイデガーは「数学」は「数学的(the mathematical)」の中の一形式に過ぎないということを明言しています。そして、mathematicsが本質的に「数的(numerical)」なのではなく、逆に数がたまたまmathematicalなものの一例なのだと。
2012-06-19 16:46:09mathematicsを「数学」と訳してしまった時点で、本来mathematicsという語が内包していた意味の広がりは失われて、数学が文字通り「数についての学」という、"the mathematical"の一つの具体例に過ぎなかったものに回収され、矮小化されてしまったわけです。
2012-06-19 16:52:19the mathematicalはギリシア語の"ta mathemata"という言葉を起源にもつ。これは「手元にあるものをあらためて掴みとるというかたちで獲得されるところのもの」という意味である。
2012-06-19 23:38:15だとすれば、本来の意味でのmathematician(数学者)とは、はじめから知っていたことを知ろうとするもの、ということになる。これでは一見すると、内田先生が『他者と死者』の中で書かれていた、西洋の「呪われた独学者」の典型のようである。
2012-06-19 23:38:42しかし、「手元にあるものを掴みとる」というかたちで知を獲得していくmathematicianとは、見方を変えれば、知るという行為において、常に知られるものと一体化しているような行為者である、と見ることもできるかもしれない。
2012-06-19 23:39:04既知に取り囲まれた孤独な独学者というのではなく、知るという行為において知られるものとの区別を解消していってしまう、そのような行為者のことを数学者と呼ぶのだとすれば、僕はそのような意味での数学者を志したいと思う。
2012-06-19 23:39:39古代ギリシア語のta mathemataは、その他のta physica, ta poiumena, ta chremata, ta pragmataなどから区別される概念として使用されていた。
2012-06-19 23:53:50例えばta physicaには、おのずからそうであるところのもの、という意味があり、ta poiumenaには、人の手によってつくられたところのもの、という意味がある。
2012-06-19 23:54:24対象を自分から切り離して理解しようとすれば、その対象はただおのずからそうであるところのもの(=ta physica)となり、一方、対象と一体化して、ミメーシスにおいて対象を感得すれば、その対象はもとから手元にあったもの(=ta mathemata)ということになるのかもしれない。
2012-06-19 23:55:02そう考えるとmathematicianとは、世界に没入し、対象と一体化しながら、ta physicaをta mathemataへと変えていく魔術師、という気がしてくる。
2012-06-19 23:55:14