『竜』連作twnovelまとめ(全20話)
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2010-03-19 22:55:57小柄で病弱な少女は強くて大きいものに憧れています。ある日、ベッドに体を起こして本を読んでいると、青空が急に翳り、大雨が降りました。あまりにも強い雨ですので、庭の木々も見えない程です。そして、唐突に世界は晴れ渡り、少女の目の前には虹が掛かりました。竜1 #twnovel
2009-12-10 02:09:31少女は虹の向こうに何かとてつもなく大きなものの影を見た気がしました。大きくて強くて、優しい何かが、少女に虹をプレゼントしてくれたのではないか。本と魔法を信じる少女には、その正体が竜であることが分かりました。きっとまだ若い竜ね。隠れるのが下手だもの。竜2 #twnovel
2009-12-10 02:13:27それから、少女は竜にお礼をしたいと思い手紙を書き始めました。ただの気まぐれや偶然だったとしても、少女はとっても嬉しかったのでお礼をしたかったのです。しかし、竜の住む住所はトールキンもジョーンズも教えてくれません。手紙が出来ても竜まで届けられないのです。竜3 #twnovel
2010-01-16 01:42:19少女の日課に、空を見上げる時間が増えました。竜の姿を探すためです。しかし、竜を見つけても身体の小さな少女の声では空まで届かないかもしれません。そこで、少女は歌を習い始めることにしました。両親は心配しましたが、固い決心の少女のために歌の先生を呼んでくれました。竜4 #twnovel
2009-12-10 02:22:26少しずつ、少しずつ、少女の歌は上達していきます。最初は発声練習だけで倒れてしまう程でしたが、体力を付けようと犬と一緒に散歩にも出掛ける様になりました。季節を一巡りする頃には、少女は犬と一緒に走れるまでになっていました。走りながらも少女の目は時折空を探します。竜5 #twnovel
2009-12-10 02:27:44少女は何度も何度も手紙を書きました。竜に贈る手紙です。虹を見せてくれたお礼の手紙です。まだ送り先不明です。あれから、何十冊の本を読んでも竜に手紙を届ける方法は分かりません。サンタクロースには簡単に届くのに、竜は随分と恥ずかしがり屋に違いない。少女は思います。竜6 #twnovel
2009-12-10 02:32:11少女は空を見上げ、本を読み、犬と共に走り、歌を歌いながら、毎日のように手紙を書きました。いつしかその手紙には、虹のお礼だけではなく様々な出来事を書くようになりました。覚えた花の名前、面白かった本、素敵な歌、好きな言葉。それらを少女は大切に大切にしまいました。竜7 #twnovel
2009-12-10 02:36:51季節がさらに巡ります。ひとつ、ふたつ、みっつ。病弱だったはずの少女はいつの間にか普通に学校に通えるようになりました。そして、初めて友だちが出来ました。それはそれは、とても素敵なことでした。少女は空を見上げ、また手紙を書きました。友だちができました、と。竜8 #twnovel
2009-12-10 02:40:28たくさんの友だちと一緒に歌った方が、空からは聞きやすいに違いない。少女は空を見上げて気付きました。少女は友だちを誘って合唱部を作ります。歌をずっと習い続けてきた少女が教える役になって、皆で歌いました。歌の先生からも褒められるくらい、上手になっていたのです。竜9 #twnovel
2009-12-10 02:44:52少女たちは少しずつ上手くなっていきます。犬と一緒に走って体力づくりも欠かしません。校舎には空き教室が無かったので、発声練習も歌の練習も青空の下でした。少女はいつでも空を見上げていました。もしかしたら、竜がこっそりと歌を聴きに来ていないかとも期待したのです。竜10 #twnovel
2009-12-10 02:48:47季節は瞬く間に過ぎて行きます。少女たちはいつも外で歌っていましたので、大変に目立ちました。最初は笑われたり呆れられていましたが、いつからか少女たちの歌を近所の人たちも楽しむようになっていました。少女は皆と一緒に歌いながら、毎日を楽しく過ごしました。竜11 #twnovel
2009-12-10 02:53:02そんな幸せな日々でも、少女は竜のことを忘れはしませんでした。授業の最中でも、空を見上げていて注意されることがよくありました。また、郵便に頼らずに自力で手紙を届けられないだろうかと休みの日には自転車に乗ってあちこちの湖や滝を見て回りました。空を見上げながら。竜12 #twnovel
2009-12-10 02:56:17竜の棲家探しの小旅行も、しばらくすると行き詰ってしまいました。お小遣いで初めて買った地図は、赤いバッテンで埋まっています。相変わらず、本には役立ちそうな話もありません。竜はだいぶ秘密主義なようです。手紙に、家を教えてください、と書いてしまい頭を抱えます。竜13 #twnovel
2009-12-10 03:02:10少女は空を見上げてあの日の事を思い出します。目の前が真っ暗になるほどの大雨はあの日しか覚えがありません。そう、絶対に竜があの雨を降らせて少女に虹を見せてくれたに違いないのです。少女はふと思い立って今までに書いた手紙を読み返してみようと思いました。竜14 #twnovel
2009-12-10 03:06:49何年も経って色褪せた紙が折り重なっています。全てが丁寧に丁寧に折られ、しまってあります。一枚一枚、少女はかつての少女がしたためた手紙を読み返します。拙い字、不思議な言葉遣い、誤字脱字。それらの手紙は決して上手くはありませんが、心の篭もった手紙でした。竜15 #twnovel
2009-12-10 03:11:42そして少女は初めて気付きます。少女はかつて、小柄で病弱で、一日の大半をベッドの上で横になって過ごしていました。家の外の世界はまるで別世界。そこに憧れるだけでした。少女にとっては家の中と本の中だけが世界の全てでした。あの虹を見てから、全てが変わったのです。竜16 #twnovel
2009-12-10 03:15:36あの虹は、やはり竜が掛けた虹でした。特別な、竜の虹だったからこそ少女は魔法に掛かったのです。少女の中に芽生えた気持ち、竜にお礼を言いたいという気持ちが少女を外の世界に連れ出してくれたのです。今では、歌も友だちも学校での日々も、全てが少女の大切な宝物でした。竜17 #twnovel
2009-12-10 03:18:44涙が、溢れました。少女の頬を透明な透明な雫が、後から後から流れ出てきます。大切な手紙を涙で濡らさない様にするのが大変でした。ずっと思っていたけれど、今ほど切実に心の底から竜に会いたいと思ったことはなかったでしょう。少女は泣きながら青空の下へと向かいました。竜18 #twnovel
2009-12-10 03:21:44もはや、少女は青空の下で泣くのを我慢しませんでした。ありがとうの気持ちで、少女の胸は張り裂けそうなほどでした。涙で滲む目でそれでも竜を求めて空を見上げます。太陽の光が涙のせいで虹色に輝いていました。その時、少女の心から浮き上がり、羽ばたくものがありました。竜19 #twnovel
2009-12-10 03:25:10歌です。それは竜の歌でした。そして、少女の歌でもありました。まるで、今まで書いた手紙がみんな燃え上がって一つの炎となったかのようです。止め処なく溢れてくる言葉を、少女は声の限り歌いました。強く大きな歌でした。遠くから聞くと、優しい竜の歌声のようでした。竜20完 #twnovel
2009-12-10 03:28:39ファンタジーに意味はあるのか。サンタクロースは実在するのか。有りもしない魔法や、存在しない生物を描く意味はあるのか。知識を増やすわけでも、新たな知恵を得るわけでも無い「物語」に、意味は本当にあるのか。――ある。全ての「物語」には、絶対に、意味がある。「物語」の持つ力を、信じる。
2010-01-16 01:20:19ファンタジーを否定する人の多くは、現実では無いものに意味は無いという。でも、僕は「物語」を信じてやまない。今までも、これからも、「物語」を求め続けたい。「物語」だからこそ動かせるものが、必ずあると思うから。と、いうわけで、そういう想いを込めた短編『竜』です。
2010-01-16 01:24:22