「普通のひと」の意味を考える――川添裕子(2004)「『普通』を望む人たち」抜粋

 2012年6月、首都圏反原発連合主催により毎週金曜日に行われている「再稼働反対」を求める官邸前抗議行動は1万-10数万とも言われる参加者を集め、大きな関心を呼びました。そのさい、参加者や賛同者によって頻繁に用いられたのが「普通のひと」ということばです。「集まっているのは、みんなふつうの人ばかりです」「だれにたのまれたわけでもなく(略)『再稼働反対!』『こどもをまもれ!』と声をあげていました」(注1)。  こうしたレトリックは、どのような意味をもっているのでしょうか。そのことを考えるために、美容整形手術をうけたひとたちへインタビューした川添裕子(2004)「『普通』を望む人たち――日韓比較からみる日本の美容外科医療」(近藤英俊・浮ヶ谷幸代編著『現代医療の民族誌』、明石書店、2004年所収)からの引用をまとめました。 (注1) 続きを読む
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dabitur @dabitur

たぶん「普通の人」のデモじゃないと、まわりに「デモに行った」とか公言できないんだよ

2012-07-09 02:10:22
dabitur @dabitur

と思う理由のひとつはこれ。読み返したが、やはり整形といっしょでデモ参加は公言しにくいと感じるひとが多いのではないかと思った。 / 川添裕子「『普通』を望む人たち:日韓比較からみる日本の美容外科医療」 in: 近藤英俊・浮ヶ谷幸代編著『現代医療の民族誌』、明石書店、2004年

2012-07-09 02:14:42
dabitur @dabitur

「一般的に、美容外科の患者は、『美』を渇望する人だと思われている。しかし筆者の聞き取り調査においては、『美』よりも『普通』を強調する声が多い。そうした患者たちは、自らの身体を劣ったものとして否定的に捉えている。それは彼らの人生に暗い影を落としていた」(川添裕子(2004:88f)

2012-07-09 02:23:30
dabitur @dabitur

「マイさん(重瞼術希望、10代、学生)は、同級生から『お岩さん』とからかわれてから、自分でもそのようにしかみえなくなってしまったと述べている。/『自分の目は普通じゃない……。満員電車とか人と接する時は、目をみられている気がして』」(川添裕子(2004:89)

2012-07-09 02:25:04
dabitur @dabitur

「クニコさん(整鼻術希望、30代、主婦)は、以下のように語っている。/『男の子たちにからかわれました。ボーイ・フレンドからも*。もちろん大人になってからはいわれませんよ。でも鼻の印象のために、きつい性格と思われて損をしていると思います』」(川添裕子(2004:89))

2012-07-09 02:26:18
dabitur @dabitur

「鼻のコンプレックスは向上心とチャレンジ精神を作ってきましたけど、そのために違う自分を演じ続けてきました。……普通の鼻だったら普通にできていたのに……」(川添裕子(2004:89))

2012-07-09 02:26:56
dabitur @dabitur

「ミチエさん(整鼻術、50代、主婦)は、小学生の頃同級生に鼻をからかわれてから悩むようになったと述べている。家族には内緒にしているという鼻に対する悩みは、彼女の行動を制約していたようである」(川添裕子(2004:89))

2012-07-09 02:27:53
dabitur @dabitur

「『決して碕麗になりたいわけじゃあないんです。せめて人並みになりたくて。*夫の地位も上がってきて、いろいろ付き合いもあるし、自分がけなされるのは良いけれど、夫まではかわいそうで*夫と旅行した時も誰かが『どこが良くてあの奥さんと』っていってましたし*』(川添裕子(2004:89))

2012-07-09 02:29:06
dabitur @dabitur

「ヒロユキさん(整鼻術、20代、学生)は、中学時代に同級生から鼻をからかわれたと述べている。からかいは、高校を卒業するまで続いたそうである。」(川添裕子(2004:90))

2012-07-09 02:30:13
dabitur @dabitur

「もういじめられることはないし、からかわれたりすることもないです。*前は嫌で嫌でしょうがなかった鼻や顔も、人生の問題のほんの一部と考えられるようになったし*でも顔のコンプレックスは、こびりついて、しみついてるんです。』」(川添裕子(2004:90))

2012-07-09 02:31:48
dabitur @dabitur

「『鼻を変えて過去の嫌な思い出を全部吹っ切りたい。……イイ男になりたいわけじゃない、ふつうの、標準の鼻になりたいだけなんです。』(川添裕子(2004:90))

2012-07-09 02:32:12
dabitur @dabitur

「流行の兆しをみせているとはいえ、日本でも韓国でも美容外科手術に対して一種の忌避感をもつ人々は少なくはない。その理由としてはまず、手術失敗への恐れをあげることができる」(川添裕子(2004:105f))

2012-07-09 02:38:55
dabitur @dabitur

「また、短時間での身体の劇的変化という非日常性もあげられる。さらに、手術をした身体に人工的という印象を抱く人もいる。そして、美容外科医療自体が境界的な立場にある点を指摘することができる」(川添裕子(2004:106))

2012-07-09 02:40:28
dabitur @dabitur

「美容外科は、従来の『病気』概念では括りきれない外見美を対象としている。日本においても韓国においても、美容外科手術は基本的には健康保険の対象外である」(川添裕子(2004:106))

2012-07-09 02:43:18
dabitur @dabitur

「美容外科は、医療と美容ビジネスに位置しているのである。ビジネスとのかかわりから、美容外科には金儲け、胡散臭い医療といったイメージがつきまといがちである」(川添裕子(2004:106))

2012-07-09 02:43:51
dabitur @dabitur

「加えて、日本の場合は、人々が最も信頼を置く大学病院が美容外科手術に距離を置いているという状況がある。美容外科手術といわれて日本の人々が思い浮かべるのは、胡散臭さを漂わせた美容外科広告だけである」(川添裕子(2004:106))

2012-07-09 02:44:32
dabitur @dabitur

「大学病院の支援体制が確立しないまま、美容外科手術のイメージは市場ベースで広まっていく。それによって日本の美容外科医療はますます胡散臭く、非正統な医療という印象を濃くする」(川添裕子(2004:106))

2012-07-09 02:45:14
dabitur @dabitur

「したがって美容外科は標榜科を獲得したとはいえ、人々あるいは世間からの承認を得たとまではいいがたい。このような視点からみれば、流行の兆しをみせているとはいえ、美容外科手術を受けることは『普通』の行為とはみなされていない」(川添裕子(2004:106))

2012-07-09 02:45:56
dabitur @dabitur

「ある日本人患者たちは、『普通』になるために美容外科手術を選択した。しかし、皮肉にも日本では美容外科手術を受けること自体は『普通』とはみなされていない」(川添裕子(2004:106))

2012-07-09 02:47:07
dabitur @dabitur

「言葉を変えれば、患者たちは『他の人と違うことをしない』という日本社会のタブーを犯すことになる。そうだとすれば、手術を受けたことを秘密にするしかない。*突 然飛び切りの美人になってしまったら、美容外科手術を受けたことを公言しているに等しい」(川添裕子(2004:106))

2012-07-09 02:48:36
dabitur @dabitur

「こうした観点に立てば、手術目標を『普通』程度に置くのは安全策ともいえる」(川添裕子(2004:106f))

2012-07-09 02:49:13