「キョート・ヘル・オン・アース」序「エンタングルメント」#6
「待って……ください、偽装の可能性が捨て切れません」ストーカーは苦虫を噛み潰すように言った。トラップ脱出のための高速タイピングでニューロンがオーバーヒートを起こし、青白い肌を鼻血が伝う。「イヤーッ!」ヴィジランスは回転ジャンプでストーカーの横へと一瞬で跳躍し、席に座る。 25
2012-07-23 00:20:39「30秒待つ!」ヴィジランスが叫ぶ!「クセモノダー!」アデプトが不意に電算機室扉を開け非常事態を告げた!「何だと?」ヴィジランスが振り返って叫ぶ!「モーター作戦発動!オムラ重工に通信重点!」「遮断……されています!」ストーカーが歯を食いしばる!「まだか!まだ脱せないのか!」 26
2012-07-23 00:29:33「やっています!全力で!」ストーカーのヒステリックな絶叫!「クセモノダー!!」『経済攻撃再開ドスエ。敵市場介入まで10秒』電子マイコ音声!「ファンタスティック!やる!」ヴィジランスはエコノミクス・カラテを構える!「アバババーッ!」吐血する奴隷エンジニア!「クセモノダー!!」 27
2012-07-23 00:35:10ストーカーの脳内モニタに秒読み数字が出現する。無数の緑色の文字列が洪水のように流れる。ヴィジランスと築き上げた栄光の電算機室セキュリティが崩れ去ろうとしている!「メギツネ!殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!」彼女は乱暴に頭を掻きむしる!直結ケーブルを引き千切らんばかりの勢いで! 28
2012-07-23 00:40:15「イヤーッ!イヤーッ!こちらは凌いでいるぞ、ストーカー=サン!あと5秒だ!」「クセモノダー!」「アイエエエエエエ!アイエエエエエエエ!」極度のストレスから、ストーカーの全身がガタガタと震え始める。デーモンが憑依したかのように、全身が椅子の上で跳ねる!奥歯がバキバキと砕ける! 29
2012-07-23 00:44:19「ハッ!」ストーカーは目を開く。黒いビジネススーツに身を包んだ彼女は、IRCコトダマ空間内に築かれたメガバイト級定義情報の古城の中に立っていた。ハッカー達が呼ぶ『第四の目』が開かれたのだ。彼女は本能的に定義情報を超高速タイプし、Z軸方向へと飛翔して無限ドアトラップを脱した。 30
2012-07-23 00:52:48直後。高さ22kmモノリスに刃を突きたてかけていたナンシーは、何者かの干渉に気付いた。敵のホームに滞在し続けるのは危険だ。直感的にそう悟ったナンシーは、敵を誘い込むべく新たな部屋に退避し、彼方にフジサンを臨む無限の砂浜に降り立った。雲ひとつ無い青空。遥か上空には黄金立方体。 31
2012-07-23 01:10:51「これで少しは時間が……」ナンシーは光り輝く指先を伸ばして一回転し、論理防壁を張り巡らせる。暫しこの空間に退避し、再アタック機会を窺う腹積もりだ。だが直後、敵は造作も無く定義情報を書き換え、砂浜上にフスマを出現させてこれを開き、侵入を果たしたのだ。「ドーモ、ストーカーです」 32
2012-07-23 01:19:44「これで少しは時間が……」ナンシーは光り輝く指先を伸ばして一回転し、論理防壁を張り巡らせる。暫しこの空間に退避し、再アタック機会を窺う腹積もりだ。だが直後、敵は造作も無く定義情報を書き換え、砂浜上にフスマを出現させてこれを開き、侵入を果たしたのだ。「ドーモ、ストーカーです」 32
2012-07-23 21:31:49アイサツを終えたストーカーは、そのピュア日本的砂浜空間を見渡した。彼方の雄大なるフジサン、遠い波音、運ばれてくる潮風の香りと幽かな味、ヒールが砂に埋まる感触、そういったもの全てを知覚し、確かめる。その仕草から、相手がコトダマ空間アクセス能力を得た事を、ナンシーは静かに悟る。 33
2012-07-23 21:39:19二人はタタミ三枚分の距離を保って、睨み合う。「名乗ったらどうなの、メギツネェ……」ストーカーが言うと、無意識のうちにwhoisコマンドが働き、ナンシーの背に聖人の光輪めいて真のハンドルネームが扇形に浮かび上がる。「NANCY LEE」と。この空間内において偽装は通用しない。 34
2012-07-23 21:42:56「IRCコトダマ空間へようこそ、noob」ナンシーが挑発的な言葉を投げた。しかし彼女の顔には、今までにないほどの緊張が走っている。つい先程まで、ナンシーは敵のタイピング速度を遥かに凌駕していた。しかし、敵ニンジャがコトダマ空間アクセス能力に覚醒したとなれば……非常に厄介だ。 35
2012-07-23 21:48:21「これがIRCコトダマ空間ねえ」ストーカーは獲物の名前を知った喜びで、歯を剥き出しにして笑っていた。その歯はギザギザと尖り、美しく整った顔立ちや清楚なスーツ姿とは裏腹に、彼女の暗く残忍な内面を反射してもいた「…相変わらずの神秘主義的な名称に、ヘドが出るわ。くたばれハッカー」 36
2012-07-23 21:57:38物理論理の両ナンシーの掌に、汗が滲む。敵は強大だ。「ハッカーがお嫌い?」ナンシーが言う。「そりゃあねえ、ゴミ虫の人間風情が、ちょっとタイピング速度が速いからって調子に乗って、エリート気取りされたら、ねえ。……侵入と窃盗と破壊しかできないくせに!システム構築者に抗うクズめ!」 37
2012-07-23 22:04:13両者は同時に攻撃体勢を取る!ストーカーが機先を制し空間定義を書き換える!二人の間にサイバー卓球台が、ストーカーの左手に薄緑の光点集合からなる小さなPONG立方体が出現!「PING!イヤーッ!」ストーカーが右手のラケットを振り抜く!ZOOOOOM!超音速で立方体が射出される! 38
2012-07-23 22:11:03ナムアミダブツ!恐るべき高速PING攻撃!ハッカー同士がしばしば電脳戦で用いるPONG決闘法が、IRCコトダマ空間内に現出したのだ!その発光するPONG立方体を弾き返せなければ、ナンシーは致命的な電子ダメージを受けてしまうだろう!最悪の場合01還元され、存在自体が消滅する! 39
2012-07-23 22:15:39ナンシーは高速タイピングで定義を書き換え、時間をスローモーションにし「PONG!」辛うじてこれを打ち返す!ラケットを握る右腕が痺れる!ZOOOOM!打ち返されたPONG立方体はまたも超音速でストーカーに迫る!「PING!イヤーッ!」「PONG!」激しい死のラリーが始まった! 40
2012-07-23 22:19:02「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」その胸に汗粒が眩しい! 41
2012-07-23 22:23:51「PING!」ストーカーは強烈なスマッシュを繰り出す!ナンシーが追う!だが届かない!右手へアウト寸前!ストーカーが勝利を確信!次の瞬間、ナンシーは定義情報を書き換え卓球台の側面に板を出現させアウトを防ぐ!「チート!」ストーカーが叫ぶ!「PONG!」ナンシーが全力で弾き返す! 42
2012-07-23 22:28:18ナムサン!複雑な角度でバウンドしたPONG立方体がストーカーのラケットをかいくぐり、腹部にめり込む!「ンアーッ!」ストーカーは後方へと弾き飛ばされ、電算機室の物理本体も激しく全身を痙攣!しかし濁りかけていた彼女の瞳は再び戦意を取り戻し、身を翻して卓球台の前へと回転跳躍した! 43
2012-07-23 22:32:32「メギツネェ……なんて汚い奴、これだからハッカーは嫌なんだ……」ストーカーは口元から血を流しながら怒りを露にし、キツネサインを作って敵を侮辱する。ナンシーは片手をクイクイとやって挑発する。(((敵はまだコトダマ空間のルールに慣れていない。このまま一気にニューロンを焼く))) 44
2012-07-23 22:36:02「イヤーッ!」ストーカーは左手に薄緑の光点集合からなる小さなPONG立方体を出現させる。「PING!」ZOOOOM!立方体が打ち出される!そして彼女は続けざま、薄緑の光点集合からなる小さなPONG立方体を追加で2個生み出し、ラケットを振るったのだ!「PING!PING!」 45
2012-07-23 22:46:39「HOLY SHIT……!」ナンシーは思わず吐き捨てる。全く別の軌道を描く三個のPONG立方体が迫ってきたからだ。立方体を一発でも弾き洩らせば、致命的ダメージとともにハッキング位置のIP身元を晒すことになってしまう!彼女はニューロンにさらに負荷をかけた!時がさらに遅効する! 45
2012-07-23 22:54:57