小話集4

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「Ver8.034」

森猫アキラ @Shinbyou_A

モニタを覗いていた子供が、地図がバージョンアップされた、と声をあげた。大通りを拡大して音符をクリックし、若者の弾き語りに見入っている。……どうか子供が実際に大通りに行きたいと言い出しませんように。地図をアップデートし動画を用意しているのは私だ。大通りは、いや、外はもう存在しない。

2012-08-11 19:57:08

「喫茶店にて」

森猫アキラ @Shinbyou_A

眩しい喫茶店で君にふられた日、僕は自分の物語をなくしてしまった。以来、誰と恋してもそれは他人の物語だ。僕は「彼女の恋人」にしかなれず、僕が主体の恋愛物語は発生しない。何人もの女性の恋物語の相方を務めた後、僕はやはり君を捜すことにする。喫茶店の伝票と一緒に僕の物語を持って行った君。

2012-08-12 19:59:44

「集会」

森猫アキラ @Shinbyou_A

月の宵、いつも猫がいる空き地で道の集会を見た。国道・獣道・抜け道・蛇の道。国道なのに酷道って呼ばれるんだという嘆きや、最近皆が俺を抜け道にするから混んでるよという困惑の声。突如、そこに檸檬が放り込まれた。逃げていくのは一人の方向音痴。道に迷わされる彼が投げた、それは架空の爆弾だ。

2012-08-13 19:24:08

「射撃手」

森猫アキラ @Shinbyou_A

その射撃手は達人だった。気配もなく銃を構えて引き金を引くので、人々は彼が眼前で標的を撃ち抜いてさえ誰の仕業かと驚愕した。ある日彼は暗殺を頼まれる。弾は確かに大統領の額にあたったが、あまりに会心の射撃で大統領は何も気づかなかった。平然と仕事を続ける彼を見、射撃手は笑って銃を捨てる。

2012-08-14 19:12:41

「いないときには」

森猫アキラ @Shinbyou_A

ショウは、あるとき唐突に考えた。どうして皆、私がいることを当たり前だと思っているのだろう。私がいないときにはちょっと騒ぐらしいが、私がいるときに私の存在を気にかけている人などいない。虚しくなったショウはトリトメを誘って旅に出た。残された世界は実にしょうがなく、またとりとめもない。

2012-08-15 20:01:16

「背中」

森猫アキラ @Shinbyou_A

何でもない鳥だったよ、特にきれいでもない地味な鳥。でもいつも僕を見てくれていたから、可愛いくて熱心に世話をした。飽きてしまったのは何故だろうね、やっぱり地味だったからかな。鳥はずっと僕を見てくれていたのに。ある朝、鳥は籠を破って逃げる。そして僕は初めて鳥の背を見た。青い鳥だった。

2012-08-16 19:53:46

「猛禽」

森猫アキラ @Shinbyou_A

王女は凶暴な鳥を愛していた。窓から餌を差し出せば腕まで突くような鳥を。王族の肉の味を覚えた鳥は彼女が外に出るのを待っている。……いや、王女は出られない。出られるのは殺されて遺骸を捨てられた時だ。国の守護指輪は呑み込んだ。鳥は一瞬で王女を喰らい、指輪を腹に収め彼方に羽ばたくだろう。

2012-08-17 20:32:44

「型抜き」

森猫アキラ @Shinbyou_A

これですか? これは型です。型抜きしていろいろなものをつくるんです。これは星形、夜空の星はみんな私がこれで抜いて散らしました。これはハート型、ひとりひとりの心臓はこれでできています。……これ? これは朝型と夜型です。ところが最近朝型の具合が悪くて夜型ばかり使ってしまうんですよ……

2012-08-18 20:11:27

-----------20話-------------------

「元気にしていると」

森猫アキラ @Shinbyou_A

私が元気にしていると、みんな心配するのだ。大丈夫だよ、ほらほら私は元気だよ。そう言っても「無理するな」と肩を叩かれてしまう。腹を立てて威張ってみたが、みんな苦笑するだけだ。とうとう私はさめざめと涙を流す。しかしそれすら誰も本当とは受け取ってくれない。……私が誰か? 私は空である。

2012-08-19 20:06:54

「扉」

森猫アキラ @Shinbyou_A

その扉が塗り込められたのは、忌まわしい事件の部屋に続く扉だった為だ。窒息死した扉は夜な夜な出歩いては壁に貼りつき、寝ぼけた人間が開けてくれるのを待っている。なかなか気づかれなくて落ち込んでいたが、先日、同情したトイレのドアが「夜の間代わってあげる?」と話しかけていた。おいやめろ。

2012-08-20 21:23:16

「ネジ」

森猫アキラ @Shinbyou_A

頭のネジが外れて行方不明になったので、職人の処に駆け込んだ。職人は机に転がっていた銀のネジを適当に摘み、きゅきゅっと僕の頭に締める。うちの若いのが拾ってきたネジだが、サイズは合うな。以来僕は飼ったこともない猫の幻を見る。どこかに僕のネジを使われ、君を捜し始めた人がいるのだろうか?

2012-08-21 20:32:15

「呪われたのは」

森猫アキラ @Shinbyou_A

呪いにより世界中の時計が狂ってしまった。今や世界で正しい時を刻んでいるのは僕の時計だけ。他の時計はどれも十七分三秒遅れている。僕は必死に正確な時間を人々に告げるが、十七分三秒遅れた彼らは肩を軽くすくめるばかり。君の時計が進みすぎてるんだよと言われ、僕は泣いてとうとう竜頭を捻った。

2012-08-22 20:35:18
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