硝子の巨人

ひと夏のツイッター小説です。ポケモン二次創作。
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農協じゅんの人 @nokyoujun

「頭がひどくぼうっとしている。 目が覚めていることは分かるものの、目の前は真っ暗で何も見えず、自分の身体の先端部の感覚が戻らない。まるで熱でも出たみたいだ。でも、吐き気や頭痛はない。埃っぽいにおいが辺りに広がっていることだけが、今僕に分かることのすべてだった。」

2012-08-09 21:14:07
農協じゅんの人 @nokyoujun

「どれほどの時間が流れたか分からないが、ようやく意識が冴えてきて仰向けになることができた。目も開いた。あまりよく見えない。埃っぽさは相変わらずだから、きっと相当な粉塵が舞っているのだろうと思った。それとも、僕の視力はこんなにも悪かったのだろうか。」

2012-08-09 21:15:29
農協じゅんの人 @nokyoujun

「どうやら、僕が寝そべっているのはソファーのようだった。背伸びをすれば、その両端に手と足がついた。……意識は相変わらずぼうっとしている。それに反して、体のほうはえらく元気で、周りを取り巻く状況を調べたがっている。操られるように身体を起こす。」

2012-08-09 21:16:47
農協じゅんの人 @nokyoujun

「薄汚れたコンクリートの壁。土で汚れた窓ガラスから差し込む淡い太陽光。そして、錆止めのペンキが剥がれ落ちた、おびただしい量の赤いかす。一言で言えば、廃墟のような空間だった。どこかの廃ビルの中だと僕は推測した。」

2012-08-10 22:36:13
農協じゅんの人 @nokyoujun

「最後の人間が去ってから、十年、二十年と月日を重ねたのだろう。割れたコンクリートの隙間から、一部植物が葉を伸ばしている。 ペンキかすを踏めば、ぱり、という音がする。足の裏に嫌な感触が残る。だがそれも最初だけのことで、すぐに慣れた。」

2012-08-10 22:36:36
農協じゅんの人 @nokyoujun

「誰かが住んでいた痕跡があった。ペンキかすの下には絨毯が敷かれていたし、棚の上にいくつかの電化製品もある。どれも埃を被っていて、触るのには少しためらいがある。別段興味を惹かれるわけでもないが、どうしてここに放置されているのか、少し気になる。」

2012-08-10 22:38:52
農協じゅんの人 @nokyoujun

「ここで、はたと思い及ぶ。一体、僕はここで何をしていたのだろう。誰の目にも付かないような場所、僕は何をしにこんな場所に来たと言うのだろう。ここで目を覚ます以前のことを思い出そうとすると、霧の壁に阻まれるように上手くいかない。」

2012-08-12 22:32:22
農協じゅんの人 @nokyoujun

「ふと、棚の中に一冊の本を見つけた。背表紙が破れ、タイトルは読めない。僕はそれを手に取った。表紙は、水色と緑で彩られた空の絵だった。僕はおもむろにそれを手にとって、読み始めた。」

2012-08-12 22:32:56
農協じゅんの人 @nokyoujun

「空に浮かぶ小さな島の話だった。その島に住む人は、時が来ると永遠の空に身を投げ出さなければならない。主人公はそんな掟に逆らい続け、最後には島そのものを破壊してしまった。とても悲しい話だ、と思った。」

2012-08-12 22:33:43
農協じゅんの人 @nokyoujun

「読み進めるにつれ、字が段々見えにくくなってきたと思えば、どうやら辺りが暗くなってきたようだ。どうやら、夜が近付いているらしい。」

2012-08-14 08:00:52
農協じゅんの人 @nokyoujun

「ふと顔を上げると、何か白いものが部屋の端の方にぽつんと佇んでいるのを見つけた。暗さのせいではっきりとは分からなかったが、そいつは微動だにせず、ただひたすらにこちらを見つめているように見えた。 「……?」 目をこすってみたが、そいつは確かにそこにいるようだ。幻ではないらしい。」

2012-08-14 08:01:48
農協じゅんの人 @nokyoujun

「どうしようかと思いあぐねているうちに、僕の意識は寸断された。誰かが僕に声をかけたからだ。 「あなた、誰」 甘ったるい女性の声だった。僕は驚いて振り返る。暗さのせいではっきりとは分からなかったが、どうも人間ではないようだ。」

2012-08-14 08:02:40
農協じゅんの人 @nokyoujun

「彼女は二足歩行ではあるものの、鼻は口ごと尖っているし、太い尻尾もある。髪の毛に見えるくるくるの白い毛は一つ一つがやけに縮れている。 「ひどい臭いね」 彼女はくぐもった声で言った。僕はあたりを嗅いでみる。」

2012-08-16 00:23:13
農協じゅんの人 @nokyoujun

「「そうかな。あたりのにおいは分からないや」 「そりゃそうよ。あなたのことだもの」 一瞬彼女の言葉の意味が分からず、ぽかんと口を開けて止まった。彼女はふっと笑う。 「あなた、ひどい臭いよ」」

2012-08-16 00:24:02
農協じゅんの人 @nokyoujun

いきなりひどい臭いだと言われても腹も立たなかったのは、未だに頭がぼうっとしているからだろう。 「あぁ、そうだね」と告げてみたら、彼女は笑って、ただ僕の瞳を覗き込むように見つめてきた。僕はこんな瞳を、どこかで知っている。きっと彼女のものではない。彼女の瞳には、現実感が欠けていた。

2012-08-16 21:56:36
農協じゅんの人 @nokyoujun

「そうだ、現実感。僕は思わず口に出した。目を覚ましてから感じられないのは、それだ。意識がはっきりしない。空気も流れない。単調さだけがひたすら続く部屋の作り。彼女は僕の独り言には取り合わず、 「何をしてたの?」 と尋ねた。」

2012-08-16 21:56:59
農協じゅんの人 @nokyoujun

「「あぁ、本を読んでいたんだ」 そう言って、僕はぼろぼろの本を彼女に見せる。 「あなたが?」 彼女の驚きがあまりに大きく、逆に僕の方まで驚いた。 「不思議かい」 彼女 はソファに腰掛けて、次の言葉をゆっくり吟味した。 「あなた、ポケモンの識字率ってどれくらいか知ってる?」」

2012-08-17 22:48:55
農協じゅんの人 @nokyoujun

「「さあ、分からないな」 僕はかぶりを振った。「人間と暮らすものだけで言えば、0.033%よ」 彼女は告げる。 「やけに正確だな」 「二年前にアカギ製薬っていう人間の会社が調査したらしくてね。流石に野生を含めた数字までは出してなかったみたいだけど。それを覚えていただけよ」 」

2012-08-17 22:49:54
農協じゅんの人 @nokyoujun

「「どうしてそんな話をするんだい」 そう言うと、彼女はますます不思議そうな顔をする。まただ、と僕は思った。 「変わった人ね」 「言ってくれれば、僕も腑に落ちる」 つい僕は、声を荒げてしまったのかもしれない。」

2012-08-17 22:50:12
農協じゅんの人 @nokyoujun

「「ごめん。悪かった。きっと君に言えないほど意外な部分が食い違っているんだ。僕はきっと何か、大事なことを見落としているんだと思う。それも、多くの人間が持っている前提の、さらにもっと前の前提を」 彼女の顔を見れば、頷きも首を振りもしなかった。」

2012-08-18 18:27:12
農協じゅんの人 @nokyoujun

「そろそろ、太陽の恩恵は完全に消え去ろうとしていた。ビルの中は真っ暗で、彼女の顔でさえもぎりぎり見えるか見えないかというところだった。 ふと、僕の頬に何かが優しく触れた。暗闇の中だが、目の前に現れた顔が、彼女のものであるということは、すぐに分かった。」

2012-08-18 18:28:10
農協じゅんの人 @nokyoujun

「彼女の声の響きのように、甘ったるい匂いが鼻の奥の奥の奥の奥まで、ひたすらに広がっていった。 彼女は言った。 「みんな、臭いのひどいときっていうのは、決まっているの」 どんなときだい、と僕は尋ねた。 「足りないとき」 彼女は答える。」

2012-08-18 18:28:42
農協じゅんの人 @nokyoujun

「頭がひどくぼうっとしている。 目が覚めていることは分かるものの、目の前は真っ暗で何も見えず、自分の身体の先端部の感覚が戻らない。まるで熱でも出たみたいだ。でも、吐き気や頭痛はない。埃っぽいにおいが辺りに広がっていることだけが、今僕に分かることのすべてだった。」

2012-08-09 21:14:07
農協じゅんの人 @nokyoujun

「どれほどの時間が流れたか分からないが、ようやく意識が冴えてきて仰向けになることができた。目も開いた。あまりよく見えない。埃っぽさは相変わらずだから、きっと相当な粉塵が舞っているのだろうと思った。それとも、僕の視力はこんなにも悪かったのだろうか。」

2012-08-09 21:15:29
農協じゅんの人 @nokyoujun

「どうやら、僕が寝そべっているのはソファーのようだった。背伸びをすれば、その両端に手と足がついた。……意識は相変わらずぼうっとしている。それに反して、体のほうはえらく元気で、周りを取り巻く状況を調べたがっている。操られるように身体を起こす。」

2012-08-09 21:16:47