紫苑はネズミも上手くやったなあと感心しながらも、そんな訳で、ネズミがこの都市の旅行に踏み出せたのか、って納得して。その日はオーナーと話したり、一緒に観光地に連れて行って貰ったりで楽しく旅行するんですね
2012-08-17 16:01:23でも肝心な話は何も出てこなくて、ネズミがこれからどうするのかも、どういう意図でこの旅行を組んだのかもわからないまま、一日が終わってですね
2012-08-17 16:03:42夕食をオーナー夫妻と摂った後、夜は二人でベッドに寝転びながら、今日の回った話とか、オーナー夫妻の話とかもして、思い出に浸るんだけど、やっぱり紫苑は肝心な話を聞き出せないでいて
2012-08-17 16:06:53聞かなきゃという気持ちと、このままこの楽しさに身を任せていたいっていう思いがあって。ネズミの手を握って、問おうとするんだけど言葉がでなくて、ネズミは紫苑を引き寄せて、「明日になったら、全部話すから待ってて」って言って。紫苑の額におやすみのキスをひとつ。
2012-08-17 16:11:25旅行最終日の朝、まだ眠っているネズミに、これまでの感謝と、敬意と、変わらぬ愛情を込めたキスをして、出会えたことの喜びと幸福を静かに告げる紫苑。その日はネズミと二人で、あの地下の部屋に赴く日で
2012-08-17 16:22:31オーナー夫妻にお別れと感謝を告げた後、一度荷物を駅のロッカーに預けてバスに乗り込み、郊外のその場所に向かうネズミと紫苑。昨日はオーナーがいたからか弾んでいた会話も、どこかぎこちなくて、
2012-08-17 16:54:47その地下の部屋に続く通路の前で、「覚悟はいいか?」と聞くネズミ。紫苑はしっかりと頷く。その先、扉の前でネズミはもう一度止まって。「おれと、あんたが一緒に住んでいた場所。あの夢が前世だって知ったあの日から、ずっとあんたと一緒に来たかった。いや、来なくてはならないと思っていた場所だ」
2012-08-17 17:05:10そう言って扉を開けるネズミ。紫苑が続けて入る。以前来た時と変わらないその場所が、その空気が今度は親しげに二人を迎え入れる。ネズミは部屋の奥のソファーをそのへんにあった布で拭って座りながら
2012-08-17 17:10:02「ここで、前世のおれは、あんたと冬を過ごした」と言って、前世の思い出を語り始める。紫苑の朗読する声が好きだったことや、初めて作らせたスープが塩辛かったこと。寒い日は二人で毛布に包まって、くだらないことで喧嘩して、喜びを分かち合って、誰かと過ごす喜びを感じたこと。
2012-08-17 17:17:51その記憶は紫苑も共通するもので、だんだん、それが自分前世じゃなくて、自分自身が過去体験してきたような、不思議な感覚になって。ネズミの話を聞くうちに、妙に懐かしいような気持ちになって。
2012-08-17 17:27:29ネズミの話は強制施設に入ったこと、沙布という少女を救出出来なかったことに続き、NO.6 に乗り込んだこと、エリウリアスの前で歌い、都市の仕組みを崩壊させたこと、そして、紫苑と再会を誓い、別れたこと
2012-08-17 17:30:36そう続いた後に、「そして、ここからが、おれだけが知っている、あんたの知らない物語」と続ける。「きみは、その旅の先で、何を見たんだ」と問う紫苑。
2012-08-17 17:34:51「復讐を失くした自分が、これからを生きる目的を探しながら。何処までも、何処までも歩いた。気に入った街も幾つかあった。それでも、そこはおれにとってのゴールにはならなくて、少し滞在した後、また旅にでる。それを何度も繰り返した。」
2012-08-17 17:40:48「とても語り尽くせないくらい、様々な物を見た。沢山の場所で、その中で生きる多くの人間を見ていた。よくしてくれる人もいたけど、その土地でおれは結局余所者だった。いや、余所者でありたかったのかもしれない。その事実に気づいた。そんな時にふと、あんたの顔が見たくなった。」
2012-08-17 17:49:43「何度かそう思った末に、あんたに会いに行こうと思った。旅に出てから、もう数年が経っていた。おれは、当然あんたは元気にやっているものだと思っていた。再建委員会のトップとして、都市の代表として。大切な人に囲まれながら、幸せに暮らしているのだと」
2012-08-17 17:53:59紫苑はしばらく黙って聞いていたんだけど、そこで自分の前世の記憶とネズミの話に矛盾が有ることに気づいて、「待ってよ」と声を掛けるんですね。「前世のきみは、最期までぼくに会いに来てはくれなかったじゃないか」
2012-08-17 17:58:47「約束だけ残して、きみは去ってしまった。手紙だって一、度もくれなかった。ぼくは、きみを信じて、ずっとずっと待っていたのに。きみはぼくを置いていったじゃないか」紫苑は、前世とか 現世とか、そういうのを全て忘れて、涙声になりながら訴えるんだけど
2012-08-17 18:05:17NO.6崩壊後、前世の旅の途中、で一度ネズミがNO.6 に戻って来ていたことを知る紫苑。「ぼくはずっと待っていたのに、きみは一度も会いに来てくれなかったじゃないか」と責める紫苑に、ネズミは「違う、おれを置いていったのは、あんたの方だったじゃないか」と話す。→
2012-08-18 14:33:05「数年ぶりにNO.6に戻ったおれは、ロストタウンのあんたの家を訪ねた。道路整備があったのか、道や街並みはだいぶ変わっていたけれど、すぐにたどり着くことが出来た。この街並みや雰囲気の変化も、あんたの功績なのかと思うと、妙に誇らしい気持ちにもなったりしてな」
2012-08-18 14:39:37「久しぶりに見たあんたの家は、店が少し広くなっていたものの、殆ど変わっていなかった。あんた達親子らしいな、って思って安心した。だけど、その日、店は開いていなかった。扉には臨時休業とも書いてあったし、家の中に人がいる気配もない。妙な胸騒ぎを覚えたことは、生々しい記憶として残ってる。
2012-08-18 14:45:54事情が知りたくて、おれはイヌカシの元行こうと思った。でも、ホテルに向かおうとする手前でたまたまイヌカシを見つけることが出来た。あいつは珍しく花束なんか持っていて、デートにでも行くのか?ってからかってやろうと思った。だけど、そうからかうには随分と雰囲気が重かった
2012-08-18 14:52:40氷が胃の中を滑り落ちるような、嫌な予感がした。おれが声を掛けるより前に、イヌカシがおれに気がついた。幽霊でも見るような、全ての感情を押さえつけているような、ひどい顔だった。そして、イヌカシはその持っていた花束を、投げつけてきたんだ。
2012-08-18 14:58:04なにすんだっておれが怒る前に、あいつは「いままで何処をほっつき歩いていやがった」と。低く唸るような声で。悲しみのような、憎悪のような、そんな鋭い光を瞳に灯して、イヌカシはそう言った。自分の中の、もやもやした「嫌な予感」が形を成した瞬間だった。
2012-08-18 15:02:45